第11-2話 天使の雫
「ユウ……欲しいものがあるなら、アナタは努力しなくてはなりません」
エレンが冷たい目で俺を見下ろす。
目の前にはリミッターが解除された迷宮が広がっている。
どうしてこうなった……。
*** ***
「リンおねえちゃんへの誕生日プレゼント?」
俺の言葉に、エレンがこくりと首をかしげる。
ここは[探検者になろう]のホームゾーン。
俺はエレンを呼び出し、大切な相談を持ち掛けていた。
現在4月中旬。
凛の誕生日は7月10日と少し先なのだが。
「ふむ……ユウの事情は了解です。 ん、普通にお店で何か買うんじゃダメなの?」
エレンは頷き、至極もっともなことを聞いてくる。
「う~ん、去年までの誕生日ならそれでもいいんだけど……実は、凛が中学時代……アイツが結構ツンツンしてる時期があって……少し疎遠になってたんだ」
「去年の途中から……[探検者になろう]を始めて、また昔みたいに仲良くなれたことだし、今年は何か特別なものを贈りたいんだよな」
「ふむふむ……リンさんにも思春期があったと……今年はヨリを戻せたから、[探検者になろう]の中心で愛を叫びたい……そういうことですね」
俺の少し恥ずかしい告白に、なぜかものすごく曲解した答えを返してくれるエレン。
「い、いや……愛とかそういうのじゃなくて……アイツは大切な可愛い従姉妹で……う、いやでも従姉妹ってだけじゃなくて」
それに対する俺の返しも、なぜかしどろもどろになってしまう……くそ、中学生じゃないんだぞ……。
俺の回答を聞いたエレンは、にやりと少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「なるほど……ユウの気持ちは分かったよ! 私の国にある、最高のプレゼントを準備するから、まっててね」
数日で準備できるというエレンの言葉に、俺は期待とともに一抹の不安も感じるのだった。
……なにせ色々吹っ切った最近のエレンさんは、カワイイんだけどフリーダムだからな……。
*** ***
数日後……俺はエレンに呼び出されていた。
[探検者になろう]のホームゾーンで俺を待っていたエレンは、手に小さな宝石を持っている。
「……エレン、これは?」
「これはね、アルフヘイム王国で取れる希少な宝石で……”天使の雫”っていうの」
「”天使の雫”……なあ、きれいな名前の割には色がくすんでいないか?」
そうなのだ……エレンが持っている宝石……ここは仮想空間なので実物ではないが……は、宝石にしては色が濁っており、輝いてもいない。
「ここに在るのは原石なんだ。 ある作業をして、鍛える必要があるよ」
「十分に鍛えた”天使の雫”は、贈った相手に加護を与え、色々な危険から守ってくれるんだよ。 ”トクベツ”な相手に、ふさわしい贈り物だと思うな」
へぇ……異世界……実際に魔法が存在する世界においても、特別な宝石か……いいな!
「ありがとう、エレン。 俺、それにするよ! ……んで、”鍛える”っていったい何をするんだ?」
素敵なプレゼントになりそうじゃないか……俺、何でもするわ。
やすりで磨くのか?
それとも焼き入れするとか?
「ふふ、言ったね……ユウ」
これがいい、と飛びついた俺に、なぜがエレンが意地悪気な笑みを浮かべる……え、エレンさん?
*** ***
と、いうようなことがあり……俺はエレンによって調整された”特別迷宮”の前に立っているのだ。
「”天使の雫”はね、贈る相手への”情熱の魔法力”が強いほど……反応して輝きが増すんだ」
「そして、”情熱の魔法力”は、本人の生命が危機に晒されるほど強くなる……その強い魔法力が相手への想いと反応して”天使の雫”に宿るんだよ!」
「なるほど」
「……ということで、この”特別迷宮”に挑んでね♪ 大丈夫! 仮想空間だから、本物の迷宮みたいに死んだりはしないよ! ……ちょっと、結構痛いかもしれないけど」
「……なるほど」
なぜかノリノリでぐいぐいと来るエレン……いまさら、「あ、やっぱ俺阪○デパートで買うわ」とは言えない雰囲気だ。
そんなことを言えば、リアル迷宮にパンツ一丁で放り込まれそうだ。
「ということで、ユウ、頑張ってね!」
「ぎゃーーーー!」
問答無用、エレンの手によって俺は”特別迷宮”に放り込まれたのだった。
「ふふっ……ユウにはこれくらいやってもらわないと……これでユウのおねえちゃんに対する本気度が分るのです!」
”エレンちゃんのリンおねえちゃんとユウをくっつけよう大作戦”の第一弾は完ぺきです!
エレンはひとり自画自賛するのだった。
*** ***
数時間後……
はい、星名悠太28歳です。
まだ生きています。
エレン謹製、”特別迷宮”はなかなかに凄いモノだった。
しょっぱなから襲ってくる当たったら一発死亡のデストラップ。
ミスリルゴーレム、ロードオークをはじめとした上位魔獣。
回復アイテムは拾えるものの、何より攻撃を食らうと痛い……すごく痛い……具体的に言うと軽自動車に撥ねられたくらい痛い……比喩として適切じゃないけどそれくらい。
だけど俺はがんばったんだ。
”贈った相手に加護を与え、色々な危険から守ってくれる”か……今後もニーズヘッグとの戦いは続く……先日の廃工場での戦いの様に、いつでも俺がそばにいてやれるとは限らない。
そんな時に”天使の雫”があれば……アイツを、凛を守ってくれるんじゃないか?
その思いだけを胸に俺はがんばった。
その結果……
「お疲れ様、ユウ。 ふふ……すごく魔力が集まったよ。 ほら!」
そういうエレンの手には、七色に光る宝石が握られていた。
角度によって色を変え、ほんのりの暖かな光が漏れ出てくるような……こちらの世界では見たことのない美しい宝石。
「これ、私が加工して……今度日本に行った時に持っていくね」
1か月後、来日したエレンから”プレゼント”を受け取った俺はその出来上がりに満足し、凛の誕生日を楽しみに待つのだった。




