第10-5話 決戦、イベント迷宮
”イベント迷宮”最深部、そこは数日前と全く様相を変えていた。
淡く光る足場は巨大な暗黒竜……ニーズヘッグと同化し、空中に多数の飛行型魔獣……ニーズヘッグの子機だ……を従えている。
「うおおおおお、行くぜえ!」
「ひゃっほぉ! ポイント稼ぎ放題だぜ!」
何より様子が異なるのは、多数のプレーヤー……その中にはニーズヘッグの分身による昏倒騒ぎから復活したランカープレイヤーもいる……が、同時にニーズヘッグに向かっていることだ。
[探検者になろう]の大規模イベントは、最大のクライマックスを迎えていた!
*** ***
数日前。
シオリの深層精神にダイブし、ニーズヘッグの分身を追い詰めた俺たち。
エレンの観測によると、ほかの被害者の深層精神に潜んでいたニーズヘッグの分身も、撤退を開始した。
遠からず被害者たちも意識を取り戻すとのこと……それ自体は非常に良かったのだが……。
エレンの更なる観測の結果、撤退したニーズヘッグの分身は、イベント迷宮の最深部に集まり、迷宮の構造と融合して巨大な構造物を構成していることが判明した。
その際、エレンから提案されたのが、イベント迷宮の最深部に巣くったニーズヘッグの本体を、”イベントのレイドボス”としてプレイヤーに開放、討伐イベントを発生させるというものだった。
「なるほど……ニーズヘッグ自体をイベントの演出として利用するってことだね、面白いかも!」
「……でも、SNSでこれだけネガティブな情報が増えている中で、”レイドボス”を倒すぞ! って盛り上がるかな?」
エレンの案に賛成する凛だが、同時に懸念も示す。
彼女の意見ももっともだ。
いきなりそのようなことを運営が言い出すと、火に油を注ぐことにもなりかねない。
「ん……かなりグレーな方法なんだけど、シオリさんを助けるのに使った”メンタルダイブ”の応用で……ニーズヘッグの分身の痕跡を利用して、被害者の人たちの記憶の一部を操作することが出来るんだ」
「なるほどな……昏倒させられた恐怖の記憶を、”これもイベントの演出として運営と協力したんです”的な記憶に差し替えるというわけだろ?」
「んん……さすがユウ、するどいですね。 ただ、こんなことやっていいのかって」
いうなれば、個人の記憶を改ざんすることに繋がる……まじめなエレンはそこを気にしているようだ。
「……ニーズヘッグに侵食された記憶……正直良いものではないだろうし、PTSDになるプレーヤーもいるかもしれない。 だから、彼らを救うと考えよう」
「もし大きな問題になったら、俺も一緒に矢面に立ってやる……責任はみんなで取ろうな」
俺はぽん、とエレンの頭に手を置くと、彼女の頭を優しくなでる。
「そうだよ! 奴を倒せなきゃ、エレンちゃんの国の未来も無いんでしょ? 悪いのはニーズヘッグだよ! 一緒にやっちゃおう!」
「ユウ、リンおねえちゃん……うん、そうだね。 私たちは今できることをやろう!」
そして俺たちはイベントのクライマックスに向けて全力で動き出した。
*** ***
まず、イベントクリア時の獲得スキル、報酬を大幅に引き上げた。
次に昏倒から回復した上位クランにコンタクトを取り、公式配信への参加を打診することで”こちら側”へ取り込んだ。
極めつけは、次のプロモーション動画である。
……
醜悪な暗黒竜の攻撃で燃え上がる城……斃れていく人々の光景が次々に映る。
シーンは暗転し、ひとりの少女が現れる。
腰まである白銀の髪をきらめかせ、その愛らしい瞳に大粒の涙を浮かべた少女は、映像を見ている人間にこう問いかけるのだ。
「どうか……どうか暗黒竜を倒して私たちの”セカイ”をお救い下さい……あなた達が持つその力で……」
少女は目を伏せ、恥ずかしそうに必殺の言葉を口にする。
「おねがい……おにいちゃん、おねえちゃん」
……
……良い! 俺考案、凛プロデュースのプロモーション動画である!
特に、最後の”おにいちゃん、おねえちゃん”の所は、凛入魂の演出であり、10回以上リテイクを繰り返した力作である。
その結果……突如[探検者になろう]に出現した、CGじゃなく、実写にしか見えない超絶可憐な銀髪美少女!
「なにあの子? 芸能人じゃないみたいだけど……とにかくかわいずぎる!!」
「あっ……(心停止)」
「あのかわいい子にはどこに行けば会えますか?」
「エレンちゃんミニスカ生足prpr……」
「うおおおおお! お姉ちゃんが助けてあげるからねえええ!」
……などの爆発的な反響があり、一気にイベントへの参加者が増えたのだった。
「へへっ、ちょ~っとやりすぎちゃったかな♪」
「うう、リンおねえちゃん……これ、恥ずかしすぎるよぉ」
想像を超える反響に明後日の方向を向きながら汗を垂らすリンと、恥ずかしそうに頬を染めて口を尖らすエレン。
ちなみにミニスカ生足のきわどい衣装を考えたのはリンである。
俺じゃないのであらかじめ言っておく。
女性男性両方のフェチズムを刺激する、珠玉の衣装であったとだけ言っておこう!
少し後……
俺たちは、表の喧騒から離れ、エレンの”管理者”としての権限と、ハルのスキル”シックスセンス”を生かし、イベント迷宮の片隅で今回の騒動の黒幕である”ニーズヘッグ”の頭Bを追い詰めていた。
コイツは、ニーズヘッグの頭の中でも、精神侵食や精神攻撃など、間接的な攻撃能力に特化しているらしく、こうやって追い詰めてしまえば狩るのは難しくないはずだ。
グ、グオオオオンッ!
モワッ……
奴は慌てた様子で黒い霧……精神侵食スキルを発動させるが、魔力を込めたエレンの右手のひと振りであっさり吹き散らされる。
「…………」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
先ほどからエレンは無言でうつむいており、異様な迫力を醸し出している。
正直怖い……。
「…………私が」
「…………私がどれだけ恥ずかしい思いをしていると思ってるんですか」
「ひえっ」
「にゃんっ!?」
地獄の底から響くような声を発するエレンに、一歩後ずさるリンとハル。
「このくされニーズヘッグめ! 私の恨みとともに、光となれぇぇぇ!!」
エレンの怒りを込めた極大攻撃魔法の閃光が、迷宮の一部ごと”ニーズヘッグ”の頭Bを消し飛ばした。
*** ***
期間限定イベントも大盛況のうちに終了し、一息ついた俺たち。
……困った副産物として、イベントの告知動画がバズりまくったことにより、ネット上で盛り上がったエレンちゃんに対する情熱は、留まるところを知らなかった。
「うう、イベントが終わったのにこんなに反響が残るなんて……」
「は、はは……エレンちゃんすっかりSNSのアイドルだね……」
「う~、本当にどうなっているんですか……」
エレンは呻きながらカチカチと[探検者になろう]に付属しているウェブブラウザを操作する。
無意識のうちに自分の名前でエゴサをしているようだ。
「あっ……やめろエレン!」
「……ふえ?」
それはいけない! 慌てた俺が止める間もなく……
[エレンちゃん かわいい]
[エレン 何者]
[エレンちゃん エ○画像]
[エレンちゃん TS]
などのサジェスト候補が次々に表示され……ピンクなイラスト満載の検索結果が表示されるのだった。
「ふええええんんんっ! やっぱりニーズヘッグは1,000回倒す~!」
[探検者になろう]の仮想空間に、エレンの悲痛な叫びが響き渡った。
この後彼女はしばらく、髪の色を魔法で変えるなどの変装をするハメになったのであった。




