第10-3話 危うし! [探検者になろう]
「これは……マズいかもしれません……[探検者になろう]のゲームだけではなく、”ニーズヘッグ”打倒を最終目的としている私たちにとっても致命的な事態が……」
ここは、俺たちクランの”ホームゾーン”。
通常はゲームにログインした際に最初に移動するエリアだが、プライベートモードにすることにより、秘密会議的なことを行うことも可能だ。
噂では、不適切な逢引きに使っている連中もいるらしいが……マジかよ。
……話がそれたが、俺たちは先日”イベント迷宮”最深部で発生したプレイヤー昏倒事件への対策について、管理者であるエレンと話し合っているところだ。
「あのクランの人たち、まだ目覚めないんだっけ?」
「そうだな……肉体的には健康なのに、意識だけが目覚めないという事らしい。 生物学的には深い睡眠状態って専門家がニュースで言っていたな」
「ほかにも何件か”昏倒事件”があったんだよねぇ、それも上位ランカーばかり……」
そうなのだ……その後も数件同様な事件が発生し、特に被害者となったのが大金を稼ぐ動画配信サイトの有名配信者だったこともあり、ネット、テレビ等で大きな話題になってしまった。
ここぞとばかりにアンチが騒ぎ出し……「ほら私は最初に危ないと指摘したじゃないですか!」と、テレビで自称専門家が騒ぎ立て、配信停止運動にまで発展してしまった。
[探検者になろう]の仕組みは異世界……エレンの母国であるアルフヘイムの超絶魔法技術を使っており、身体に影響など出るわけないのだが、エレンをテレビに出して”これは魔法なんです”と説明させるわけにはいかないだろう。
結果として、[探検者になろう]のアクティブユーザーが激減し、”ニーズヘッグ”にダメージを与えるのに必要な”善意の心・感謝の気持ち”も減る一方。
「私が集めた[探検者になろう]のログや、各種魔法感知器の情報によると、ニーズヘッグの仕業に間違いはないんだけど……どうやら被害者の深層精神に直接働きかけているらしく……足取りを追えないのが現状です」
「まいったなぁ……敵が見えないと対処のしようがないな……」
「う~ん、できれば被害にあった人を調べさせてもらえればいいんだけど……」
「無理だろ……病院の集中治療室にいるらしいし……」
「こまったにゃん……」
俺たちの会議は、最初から煮詰まっていた。
*** ***
”イベント迷宮”最深部。
上位クラン昏倒事件により過疎っているその場所に、一組のクランがいた。
迷宮攻略にチャレンジしている、シオリたちのクランである。
「姐さん! いまなぜかプレイしてるやつが少ないんで、ランクを上げるチャンスですぜ!」
「狩りまくっちまいましょう! 姐さん!」
「うおおお、ワイらも動画配信で金持ちや! 頼みますで姐さん!」
「……ウチ、なんでこんなことに」
シオリと一緒にいるのは、先日の”ニーズヘッグ憑依事件”で知り合った後、なぜかシオリの舎弟……ファンクラブとなったヤンキーA、B、C君である。
なんやかんやと頼まれるとNOと言えず、押しに弱いシオリちゃんは、ヤンキー君たちとクランを結成し、[探検者になろう]のイベント迷宮に挑んでいた。
「人がいないってね、アンタ達! ネットニュース見とらんの!? ”上位クランの人がゲーム中に昏倒、いまだ目覚めず! フルダイブゲームはやはり人体に悪影響が!?”って話題になったでしょーが!」
「姐さん! ネットニュースってどうやってみるんすか!」
「うがー!!」
おかっぱにした艶やかな黒髪をかきむしるシオリ。
残念ながら、ヤンキー君たちはバカなのだった。
「いやでも姐さん! 配信者として大金を稼げば俺たち有名人ですぜ……!」
「う……な、なるほど……有名になればウチのもとにもイケメンが……いやむしろゲーノージンすらゲットできるかもかも?」
残念ながら、オトコが絡むとシオリもバカになるのだった。
「なに言ってるんですか! 姐さんにはワイらがいるじゃないっすか!」
「!! アンタらはイケメンじゃないし、ウチは同級か年上がいいって言ってるだろーが!」
げしげしっ!
けなげなヤンキー君を蹴り倒し、ゲシゲシと踏みつけるシオリ。
「おうふ……ローファー靴底のざらついた感触が……ス・テ・キ」
「ヘンタイしかいねぇ!?」
漫才を繰り広げるシオリたちの背後から、”黒い霧”が忍び寄っていた。
*** ***
「えっ!? なにこれ、まさかまたシオリッ!?」
煮詰まりまくって”ホームゾーン”の模様替えをやり始めた俺たち。
そんな時、リンが素っ頓狂な声を上げる。
どうやらシオリからチャットが届いたようだが……。
「”黒い……霧が……たすけて(泣)”……だって。 あの子……まさか!」
おいおい……次なる被害者はシオリだというのか……なんというツイてない子なんだ……うっ、思わず涙が。
思わず俺がシオリに同情していると、エレンがきらりと目を光らせ、挙手する。
「ん! ……ユウ、リンおねえちゃん。 これ、使えるかも!」
えぇ、酷くないですかエレンさん!?
いきなり残酷なことを言いだすエレンにビビる俺。
だが、この事件が事態打開のきっかけになるとは、この時の俺はまだ気づいていなかった。




