第10-2話 上位クランと神隠し
「エレンちゃん、下だよっ!」
「ラジャーです。 "ライトニング・シュート"」
エレンの手から放たれたレーザーのように伸びた稲妻が飛行型魔獣を貫く。
「くるりん、くるりん~楽しいのである!」
猫譲りの空中姿勢制御の巧みさで、ひらひらと空を舞いながら魔獣に手傷を負わせていくハル。
「せいっ!」
ふらふら落ちてきた魔獣をリンが格闘で仕留める。
そして、シールドを構え陣形の先頭にいる俺は……
無限に湧いてくる飛行型魔獣に向けて、盾の隙間から魔導銃を構え、連射モードにして引き金を引く!
ヴィ、ヴイ、ヴィ、ヴイ……
四条の光の筋が飛行型魔獣に伸び、そのうちの二体を撃墜する!
「下僕悠太、クソエイムにゃ」
ほっとけ! まだシュータージョブに慣れてないんだよ!
俺たちのクランはリンが前衛で打撃攻撃、エレンが後衛で魔法、そして俺がメイン盾という役割分担だったのだが、魔法は連射性に劣るため、特に現在の局面の様に敵の数が多い場合には、どうしても後手に回ることがあった。
そこにハルという身軽なかく乱役が加わったことにより、敵の陣形を乱した後に狙い撃つシュータージョブの利用価値が増したので、俺がジョブを取得したというわけだ。
……ハルに持たせても良かったのだが、なにせ彼女は子猫、「チョウチョとるにゃ~」などと、狙撃役には向かないことが明白だったので、ハルにはフリーポジションを取らせることになった。
という事で、俺たちは現在進行形で”イベント迷宮”を絶賛エンジョイ中である。
「いや~、階層移動時の”光の滝”でチャレンジできる、”シューティングモード”は楽しいわね~。 スコアもじゃんじゃん稼ぎ放題だし!」
「にゃはは~! 落ちろ、カトンボ! にゃん!」
「ふふ……いまの”光の滝”で、100体は落としたかと」
みんな、とても楽しそうだ。
今回のイベント迷宮では、フロア間の移動時に”光の滝”というキラキラと光る粒子に乗って空中を舞える仕組みになっている。 その際、飛行型魔獣が大挙して出現するという、古き良き時代のシューティングゲーム的楽しみ方が出来るのだ!
そのため、シューター系ジョブを取得するプレーヤーが急増中である。
……ふと気づいたが、ハルはなぜ齢一歳半の子猫のくせに、そのネタを知ってるんだ……?
コイツ実は数百年を生きる猫又じゃないのか?
「……これで7thフロアまで来たはず……ここが最深層だね」
俺が気になる予感に身を震わせていると、エレンがマップを確認しながら俺たちに告げてくる。
おお、もう最深層か……今回のイベント迷宮は7階層で構成されており、スコア獲得のためには周回プレーが推奨されている。
毎回フロア構成とフロアボスが変わるので、とにかく潜りまくり狩りまくりでランキング上位を目指すのだ。
「よし、まずはフロアボスを目指そう。 みんな回復はしっかりな!」
「「「了解!」」」
クランメンバーの返事がハモり、俺たちは迷宮の最深部にいるフロアボスを目指すのだった。
*** ***
悠太達が最深部に到達する少し前……1組のクランが、最深部にてフロアボスを退治し、次の周回に向けて準備をしていた。
「よし、これで5週目……ランク一位との差は2,500ポイント! 今日中にあと10週はしておきたいな……」
彼らは[探検者になろう]の上位10位に入るトップランカー。
全世界で数千万人がプレイしているゲームのトップランカーともなると、ゲームの配信などで年間数千万円の収入が入る……とくに[探検者になろう]では有料ゲーム配信などに対する規制が無いため、トップランカーの争いは熾烈である……誰が言ったか職業:[探検者になろう]が大勢いるのが現状である。
「……ねえ、なにか霧が出てきてない? こんな演出、あったかしら……」
クランの女性メンバーが、異変に気付き、声を上げる。
確かに……フロアボス出現ポイントである宙に浮いた大きな足場、その周囲から黒い霧のようなものが湧き上がってくる……。
「へっ……事前情報にはなかった高スコアの隠しボスでも出るんじゃねぇか? くく、好都合だぜ」
このような演出やギミック、ダンジョンゲームではよくある事だ……別のクランメンバーが獰猛な笑みを浮かべ、歓迎の意思を示す。
「いやでも、この霧……なにか怖くない? あ……甘い? 匂いが……」
どさっ……
その言葉を最後に、女性クランメンバーは糸の切れた操り人形のように床に倒れる。
「おい、どうした!? モンスターの睡眠魔法か? おいっ!」
焦った他のクランメンバーが女性に駆け寄るが……。
「あれ……俺にも何か……甘い臭いが……?」
どさっ……
「おまえ……たち、マジかよ……」
どさっ……
ほどなく全クランメンバーが床に倒れ伏す。
その場に誰一人として動くものがいなくなった。
……同時刻の現実世界。
彼らがゲームをプレイするために借りているマンションの一室。
ゲーミングチェアーに身を沈め、[探検者になろう]にダイブしていたはずの彼らの肉体も、同じように意識を失っていた。
*** ***
「なんだ……これは?」
フロアボスがいるはずの最深部にたどり着いた俺たちは呆然としていた。
ほのかに光る大きな六角形の足場。
そこにいたのはフロアボスではなく、4人の[探検者になろう]のプレイヤー。
彼らは床に倒れ込み、ピクリとも動かない。
俺は慌てて4人のプレイヤー情報を照会する。
俺も見たとこがある。
華麗なプレイスタイルで現在配信人気急上昇のトップランカーのクランだ。
「おかしいね……フロアボスがいるゾーンでは、各クランのプレイの邪魔にならないように、クランごとにプレイエリアが自動で分けられる……1つのプレイエリアにに複数のクランが存在することなんて、ゲームシステム上あり得ない」
管理者であるエレンも眉をひそめている。
またもや、何か大きな事件が始まろうとしていた。




