第9-2話 魔竜のセコイ嫌がらせからユニバを救え!
現在の時刻は午後2時。
先ほどの”カツカレーの中身が白身魚カレーになっちゃったよ事件”の後もサイト―カレーは大盛況であり、お昼を前にルーが売り切れ、店じまいとなった。
そこで俺たちはひとあし早くユニバで遊ぶことになったのだが……。
「う~ん、あの後も何度か同じクレームがあったのよね……オニオンリングがイカリングになってるとか、トンカツがエビカツになってるとか……どれも美味しかったから大きな騒ぎにはならなかったけど」
凛がストローでココアを飲みながら先ほど発生した、不思議な事件を振り返っている。
彼女は大人気配管工アクションゲームの主人公の赤い帽子をかぶり、服装はそのまま制服姿と、春休みにユニバを満喫するJKそのものだ。
「やっぱり定期的に”魔力反応”があるね……私の世界……アルフヘイム側からの干渉なのは間違いないけど……もうすこしまって。 魔力パターンを解析してみるから」
そういうエレンは、このパークのマスコットの、一つ目の黄色い謎生物を背負っている。
同じくそのままセーラー服姿だ。
こちらは日本旅行に来た東欧美少女が学校の制服コスプレをしているようで大変微笑ましい。
夏服なので寒くないのかと思うが、そのあたりは魔力を展開した防御フィールドで問題ないらしい。
便利だな。
そして彼女たちと歩く俺……やっべ、俺いま超リア充じゃね? ふふん、俺の人生も上向いてきたようだ……一人満足して悦に入る俺。
その時、頭の中にハルの声が聞こえてきた。
[大変にゃん! なんか変な奴がいるのだ! 視覚情報を送るから、確認してほしいにゃん!!]
場内を遊び歩いていたハルが何かを見つけたようだ。 すぐに俺たち3人へ視覚情報が転送される。
「……なんだ?」
「なにこれ……?」
「これは……」
そこに映っていたのは、漆黒の身体に巨大な翼を持ち、赤い目をらんらんと光らせた醜悪な魔獣…………但しチワワくらいのサイズ。
がうーと唸り声をあげている。
「「「ニーズ……ヘッグ?」」」
ちんまりと鎮座する凶悪?魔獣に、俺たち3人の困惑声がハモったのだった。
*** ***
「ん~と、状況を整理するね」
魔力パターンの解析を終えたエレンが、現状を説明してくれる。
俺たちはパーク内の休憩エリアに移動し、状況の分析と今後の対策の検討を行っていた。
「この黒いの……暫定的に”にーずへっぐくん”と呼称するけど、コイツは先日倒したニーズヘッグA(第一の頭)の一部に間違いないね。 おそらくこの世界に残った残留思念の一部がまだ活動しているんだと思う」
「私たちに害をなす……という意識は残っているけど、魔力もちっちゃくなってるから、先ほどみたいな嫌がらせしかできないんだろうね…………ふん、クサレ魔竜の最後っ屁が」
なるほど……やけにせこい事件だと思っていたがそういう事か……って、なにかどす黒い”ぶらっくエレンちゃん”の片鱗が見えた気がしたが……スルーするのが大人というものだろう。うん。
だが、だがしかしっ! 許せないぞニーズヘッグ!!
「エレン……”カツカレー食べたい!”と願ってカレーを購入した人の揚げ物を白身魚フライにしてしまうとか、鬼畜の所業だぞ!? 今日は良い人ばかりだったからいいものの、本来なら地獄絵図になってもおかしくない……」
「そ、そうなんだ……怖いね」
「うむ、古来から穏やかといわれる我らが日本人が唯一激怒するポイントがメシに関してだからな……”にーずへっぐくん”には天誅を食らわせねばなるまい……」
「ユウにぃに超同意! 食べ物の恨みは恐ろしいんだよ!!」
「うにゃうにゃん!」
力説する俺、凛、ハルの日本人組に少しエレンは引き気味だ。
「とりあえず、ハルの”シックスセンス”と俺の”超探査”で、奴を探して、エレンの魔法で封印という流れでいいか?」
「うん、それでいこう」
「つまりは、明日の日曜いっぱいまでかけて、パークを巡回……遊びつくせばいいというわけだね!」
「うにゃにゃん!」
ま、深刻な影響は出ていないんだ。 遊びがてら、気楽に調査を勧めますか!
この時の俺たちは、奴との”鬼ごっこ”が意外に大変だという事にまだ気づいていなかった……。
*** ***
サメがイケてるチャンネーとハッスルする映画のアトラクション。
小さなボートに乗り、映画を追体験するコースをめぐるのだ。
いつ現れるか分からない巨大ザメの恐怖が醍醐味であろう!
ザバアッ!
海を大きく割り、巨大なサメが大きな口を開けて姿を現す!
「きゃー(棒)」
くっ……普段から凶悪なモンスター(実物)と対峙することのあるエレンにとっては、サメなど、かわいいサカナの一種に過ぎなかったか……。
ぐらぐらっ……
ん? やけにボートが揺れるな……?
がうー!
突然、気の抜けた声とともに、巨大ザメの横に漆黒の”にーずへっぐくん”が浮上する!
「いたっ! ユウ、捕まえて!」
「任せろっ……って、うわぁ!?」
エレンの声に思わず立ち上がる俺。
だが、狭いボートの中で立ち上がるとどうなるか。
ばしゃ~ん!
……ぷっ
バランスを崩して水の中に落ちた俺を、あざ笑ってからどこかに消える”にーずへっぐくん”。
アトラクションの係員にめっちゃ怒られました……スミマセン。
*** ***
魔法学院に入学した主人公がキャッキャウフフしながら最強になる作品を追体験できるエリア。
「ふむふむ……物体を大きくしたり小さくしたりする魔法ですか……祖国アルフヘイムには無い発想……大変興味深い」
エレンはエリア内に展示されている作品中の魔法について、興味津々のようだ。 なんたって彼女は本物の魔法使いだもんな……。
「へへっ、エレンちゃんから”魔法使いのケープ”を貸してもらったけど、カワイイねこれ♪」
黒いもこもこのついたケープを肩から羽織り、魔法使いのとんがり帽子とマジックワンドまで装備した凛が嬉しそうにクルリと身体を一回転させる。
ざわざわ……
凛のコスプレのあまりの完成度に、周りの人たちからどよめきが起きる。
見た目クォーターの美少女が、どう見てもコスプレレベルではない品質の(だって本物だもん)衣装を着て、明らかに電球やLEDの光ではない不思議な輝くを放つマジックワンドを持っているのだ……そこには圧倒的な”本物感”が漂っていた。
「むむ……術式を組むことに成功しました!」
隣では、エレンが新しい魔法を完成させたのか、場内のスタンドで購入した焼き菓子……チュロスを大きくしたり小さくしたりしている。
う~ん、あまり目立つと騒ぎになるかもしれない……そろそろ止めておいた方がいいか?
俺が二人に声を掛けようとした瞬間。
がうー!
またもや”にーずへっぐくん”が人ごみの中から姿を現し、一声鳴くと局地的な強風を発生させた!
ビュオオオオッ……。
「うわ、なにこれ? ああっ、スカートが!」
「……きゃっ? これは”風魔法”!? あっ……短いひらひらが……」
強風にあおられ、他の事に気を取られていたふたりのスカートがまくれあがってしまう!
……凛よ……ギャルっぽく振舞おうとしてるくせに、クマさんパンツは無いんじゃないか?
……エレン……なん……だと? 詳しい描写は省くが、彼女の黒下着は、凛のヤツより10倍は大人っぽいデザインだったとだけ言っておこう!
[下僕悠太、サイテーなのである……]
「くっ……エレンちゃん! くされニーズヘッグはかならず原子レベルまで分解してやるよ……!」
「もちろんだよリンおねえちゃん! 私の極大魔法を使えばアトラクションごと爆砕も……」
”にーずへっぐくん”に対する憎悪を募らせるふたりに対し、俺は少し奴に感謝していた。
*** ***
その後も、俺たちは様々なアトラクションで”にーずへっぐくん”と遭遇したが、決定的な一撃を加えられずにいた。
時刻は夕方……チャンスはあと一回だろう。
[下僕悠太! 奴はあそこにいるにゃ!]
偵察に出ていたハルから連絡が入る。
”にーずへっぐくん”を見つけたようだ。
ハルから示されたその場所は……失神者が続出し、保健所から指導が入ったと噂の最恐アトラクション”フライング・翼竜”だった。
「……なあ凛……申し訳ないけど、お前とエレンで行ってきてくれない?」
「……なに言ってるのユウにぃ! ここは年長者であるユウにぃとエレンちゃんで……」
[ダチョウイズムにゃ!]
とたんに尻込みする俺と凛。
実は俺も凛も絶叫マシンは苦手だったりする……ほとんどの原因は俺の叔父さん……六甲の最速伊達男と呼ばれた凛の父親の車に乗せられていたからなのだが……。
「ん? どうしたのユウ、リンおねえちゃん! 早く行こうよ。 私凄く楽しみ!」
ぎゅっ……!
天使の微笑みで俺と凛に腕を絡めてくるエレンに抵抗する術を、俺たちは持っていなかった……。
「おおおおおおっ!? これ、すっごい! 楽しい!」
「…………(失神中)」
「…………(失神中)」
轟音を立てて翼竜型のコースターが疾走する。
上下左右、あらゆる方向から襲ってくる重力加速度に、俺と凛は生ける屍と化していた。
対照的に、エレンは凄く楽しそうだ。
がうー!
と、コースターの先頭、翼竜のくちばしのあたりに”にーずへっぐくん”が出現する。
な、なにをする……ここで奴に何かされたら、俺と凛は本当の意味で昇天してしまう……!
なんとか、しないと……俺が朦朧とした意識の中で決意した瞬間、コースターはアトラクションの最恐ポイントに到達する。
時速110キロでの垂直240度ターン、10Gを超える重力加速度が掛かる、戦闘機パイロットも真っ青の軌道である。
ゴオッ!
……ぷちっ
「「「あっ……」」」
瞬間的にかかった超重力加速度に耐え切れず、”にーずへっぐくん”は星になった。
「……ぜぇ、ぜぇ……ねえユウにぃ、アタシたちがアレに乗った意味、あった?」
「……はぁ、はぁ……言うな凛……いま意識すると思わず戻して……うっぷ」
”フライング・翼竜”から降りた後、ゾンビの様になっていろ俺たちとは対照的に、エレンは元気いっぱいだ。
「ほぅ……すごく楽しかった……日本に来て、初めての体験がいっぱい……ありがとうふたりとも! 私に生きる希望と笑顔をくれて!」
にぱっ! と満面の笑みを浮かべるエレンを見ていると、温かい気持ちが溢れて来る……本当に連れてきてよかったな。
「ふふっ……こちらこそだよエレンちゃん! ね、ふたりとも! 写真撮ろう……ハルにゃんもおいで!」
凛はそういうと、スマホを自撮りモードにし、笑顔の俺たちを写真に収める。
俺たちの大切な思い出の一ページが、また新たに刻まれたのだった。
[レイドボス:ニーズヘッグ(残りHP1,573億6,121万,7000) 頭:7/8体]




