第8-6話 廃工場の決戦(下)
シュン……
わずかな転移音とともに、私はひとりで”バルドルの迷宮”最深部の海底洞窟へ移動しました。
各ダンジョンは、クランのレベル及び進行状況によって自動調整されるので、固有ボスである”シーサーペント”はもういません。
天井に開いたわずかな穴から差し込む日光と、洞窟の表面に自生するヒカリゴケだけがこの空間の光源……幻想的な青の水中洞窟。
ふむ……我ながらエレンちゃんのデザインセンスは最高ですね……思わず自画自賛する私。
さて……先ほどからくされニーズヘッグちゃんの気配がビンビンします……”探知魔法”対策として、”位置偽装”を使っているようですが……これほどの暗黒瘴気を垂れ流していては……てめぇここでぶっころしてやる! という悪意がバレバレです。
おおかた、現実側が膠着していて、焦ってるんでしょう。
流石ユウとリンおねえちゃんです。
ざまあみろこのクソヘビめ!
……おっと思わず素が……いけません。
私はメイジスタッフを構え、警戒しているふりをします。
魔法が得意な私に奴が仕掛けてくるとすれば……
[エレっち! 下にゃん!]
物陰に隠れたハルから”念話”が届く……そう、奴は!
バチ……バキッ……バチインッ!
足元の地面より、ゲームのフィールドを破壊しながら私に迫る奴の顎[あぎと]……!
ですが……
「甘いね……!」
攻撃してくる場所が分かっていれば、対処のしようがあります。
私はスキルスロットを展開すると、氷雪系の極大魔法を選択します。
「”フロスト・キス”」
ビュオオオオオォオォ!
吹き荒れる絶対零度のブリザードが、”ニーズヘッグ”の頭ごと、奴を氷漬けにします。
これで奴は動けない……もらいました!
ですが、その前に!
「ハル! ユウとリンおねぇちゃんに連絡を!!」
「了解だにゃん!」
私はハルに指示を飛ばします。
そう、こういう連中は2か所同時に倒す必要があると、相場が決まっているのです!
*** ***
ガンッ!
ガキイッ!
「ちっ……凛!」
「もう、シオリッ、正気に戻ってっ!」
俺と凛は連携してシオリの釘バットによる攻撃を防ぐ。
流石にニーズヘッグに憑依されているだけの事はある。
俺と凛のふたり掛かりでも攻撃をいなすので精一杯だ……!
ベキッ!
何度目かの打撃を受けたとき、頼みのフライパンの柄が根元から折れる。
カラン……乾いた音を立てて地面に落ちるフライパン……ああ、深夜の通販で9,800円(低反発クッション付き)で買ったそこそこ高い奴なのに……。
「ユウにぃ、大丈夫!?」
反動で距離を取った俺は凛とともにあらためて構える。
だが、そろそろ……
[下僕悠太、下僕凛、そろそろフィニッシュにゃ~!]
来た!
[探検者になろう]内でニーズヘッグと戦っているであろう、エレンとハルからの連絡!
「よし、ここが最後の勝負だ。 仕掛けるぞ、凛!」
「オッケー、ユウにぃ!」
俺と凛は、勝負を仕掛けるべく、シオリに向かって駆け出した。
「はん! 性懲りもなく!」
俺は凛とスピードを合わせ、シオリの前で交差し、フェイントをかける。
大丈夫、伊達に半年以上も一緒にゲームをプレーしていない。
俺と凛の息はぴったりだ。
「くらえっ!」
「シオリ、ごめんねっ!」
ほぼ同時に放たれた攻撃に、俺がフライパンを手放した今、凛の方が脅威だと判断したシオリは、凛の方に向き直る。
掛かった!
俺は、スマホの[探検者になろう]アプリから、スキルスロットを展開、”瞬間移動”をタップする。
移動先は、シオリの直上!
ガッ!
転移した俺の真下では、シオリが凛の蹴りをガードしている。
そう、いつだって最後の一撃は、切ない……。
俺はもう一度スキルスロットを展開、”雷撃魔法”をタップする。
威力を加減して放たれた稲妻はシオリを直撃し……
びくんっ! と一度体を震わせたシオリは、音も無く膝から崩れ落ちる。
ぱりん……
シオリの眼鏡が地面に落ち、ガラスが砕ける冷たい音が廃工場に響いた……。
*** ***
「エレっち! 下僕ユウタが攻撃を当てるよ! あと、3……2……1……いまにゃ!」
私は氷漬けになり、なんとか抜け出そうともがくニーズヘッグを冷たい目で見降ろします。
まず一撃……父様母様、そして城の皆さんすべての想いを込めて……!
「……”トルネード・インパクト”」
私が唱えた、最大衝撃魔法は、凍り付いたニーズヘッグを……一撃で粉々にした……!
*** ***
「シオリ! 大丈夫!? ケガしてない?」
「……んんっ、ウチ……あれ、凛?」
戦い終わって……凛がシオリを助け起こし、声をかけている。
「うっ……あいたたた……いったい何が……?」
目を覚ましたシオリは、しきりに頭を振っている……どうやら身体強化はニーズヘッグの消失と共に解除され、筋肉痛として彼女に残ったようだ。
記憶についても残ってないようだが……。
「……ごめん、凛。 ウチ、ぼんやりとしか記憶にないんだけど、たぶんアンタに嫉妬して酷いことした気がする……」
「いいよシオリ、わたしも無神経なところもあったし……お互いさまってコトで」
「ふふ、でもあの無自覚リア充自慢はアカンで」
「うう、ごめん……」
ふぅ、なんとかシオリも正気に戻ったようだ……あとは”向こう側”か……。
その時、俺のスマホが振動し、通話の着信を告げる。 エレンからだ。
俺はスマホをスピーカーモードにすると、エレンと通話をつなげる。
[ユウ……そちらも片付いたみたいだね]
[にゃはは! ハルも大活躍だったのである!]
落ち着いたエレンの声と、対照的に陽気なハルの声が聞こえる。
「そっちも終わったみたいだな……ニーズヘッグは倒したのか?」
[うん……でもまだ8つある頭の1つを潰しただけだから。 また何か仕掛けてくる可能性は大きいね]
[でも……相当な打撃になったと思うし、私の両親や、お城の人たちの無念を一部でも晴らすことが出来たと思う]
[ありがとう……ユウ、リンおねえちゃん、ハル]
画面の中で、エレンが優しく微笑む。
まいったな、こんなのがあと7体もいるのか……でもまあ、エレンの笑顔が見れたから十分だな!
「さて、こちらも撤収するか……凛、シオリは大丈夫か?」
「うん! あ~、おなかすいた! 帰りにコ○イチ寄ろうよコ○イチ!」
凛はすっかりいつも通りだ。
俺たちが出口に向かって歩き出そうとすると……。
「「「シオリ姐さん! オレ達気が付いたらこんな所にいましたが、厳しくも優しくシゴいてくれた姐さんには大変感謝してるっす! ファンクラブとして、追っかけしていいっすか!」」」
正気に戻った(と思われる)ヤンキー3人組が、キラキラした眼差しでシオリにファンだと告げていた。
「おお! 良かったねシオリ! カレシは出来なくてもファンクラブならできたじゃん! モテモテだね!」
「お、おう……」
喜ぶ凛と、困惑するシオリ。
なんにしろ、シオリにも春が来そうでよかった。
これでしばらくは落ち着けることを願いたい……凛の言うとおり、エレンも連れてユニバでも行くか……。
俺は来る春の予感に、胸を弾ませていた。
【読んで頂き、ありがとうございます!】
次回は少しお気楽エピソードです。
お楽しみに!
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