第8-5話 廃工場の決戦(中)
「エレっち! やっぱしテキさんは能力強化してるみたいにゃん! 下僕リンの攻撃が効かなかったのである!」
現実世界での偵察を終え、[探検者になろう]にダイブしてきたハルが、肉球のついた手袋をぶんぶんと振りながら私に報告してくれる。
……エレっちってなんですかエレっちって……相変わらずこのネコミミ幼女はふりーだむですね。
んん……ですがやはりニーズヘッグの浸食下にあるシオリさんたちは、身体能力強化されている様子……ユウに渡した新たなスキルもあるとはいえ、そんなに時間を掛けることは出来なさそうです。
ですが、焦ってはくされニーズヘッグの思う壺……ここは慌てたふりをし、相手の懐に飛び込みましょう……奴の潜んでいる場所の目星はついています。
最初に襲撃された”バルドルの迷宮”の最深部……そこに一気に移動し、奴の襲撃を待ちます。
ハルの”シックスセンス”……奴はまだこのスキルの詳細を知らない。
「ん、行くよハル。 準備は良い?」
「オッケーにゃん! エレっちあとで”だんけちゅ~る”くれにゃん?」
はいはい……相変わらず欲望まみれの子猫とともに、私は”バルドルの迷宮”の最深部への移動メニューを開きます。
*** ***
ここは廃工場のプレハブ建ての建物の中。
俺と凛は、鉄骨や釘バットで武装した敵……ニーズヘッグに侵食され闇落ちしたシオリと配下のヤンキー3人……と対峙していた。
シオリが鉄骨を軽々と担いでいるところを見るに、やはりシオリも相当に”身体強化”されているようだ。
「さぁて凛……強化されたアタイ達には絶対に勝てないよ? 死にたくなければ武器を捨てて投降しな……楽しい目に合わせてやんよ」
「「「げへへへへ……」」」
「……そして”ニーズヘッグ様”があの女をおびき寄せるための餌になってもらう……」
最初はニタニタと笑いながら下品なことを言っていたシオリだが、ある一点から無表情になると、機械的なセリフを吐き出す。
やはり奴の名前が出たか……!
いよいよ正体を隠さなくなってきたようだ。
「……凛、いまから”バグスキル”をお前にも掛ける。 そしたら、シオリを怒らせるんだ……いつも凛がやっている感じでいいぞ」
「分かったよユウにぃ……って、”いつもの感じ”ってのはヒドイよ」
……コイツまさか自覚なかったのだろうか……無自覚のリア充アピール……まあいい、勝負の時間だ。
俺はスマホを取り出し、[探検者になろう]アプリから、スキルスロットを展開、”能力強化”をタップする。
パアァァ……
「わわっ!?」
凛の身体が淡く光る。これで全体的な能力がアップしたはずだ。
「こ、これっ!? 身体の奥から力があふれてくるみたいだよ……奴らの動きが……アタシにも見える!!」
そう、エレンから切り札として受け取った”バグスキル”……身体能力だけではなく、動体視力、聴力なども含め、総合的な能力バフをすることが出来るスキルだ。
これで能力値的には向こうと同等になったはず……あとはエレンたちがニーズヘッグの本体を倒すまで、時間を稼ぐのみ。
「よしいけ凛!」
「うっ、うん!」
ザッ……
俺の励ましに、凛は意を決した表情で一歩前に足を踏み出す。
「ねえシオリ、アナタはこんなことをする子じゃないはず……野球部の副主将とササキさんの事はゴメン……」
「でも分かってよ! カレは眼鏡好きって情報を聞いてたから、勉強の成績以外すべてがササキさんに負けてるシオリにもワンチャンあるじゃんって思ったんだ!」
「…………」
「シオリはカワイイんだから、次の恋があるよ! ねえ、シオリ、春休み一緒にユニバ行こう? 絶対楽しいよ!」
「…………」
おお……シオリがプルプル震えている……そして凛、ワザととはいえ、なかなか鋭い攻撃を……女子の「カワイイ」ほどあてにならない言葉というのも、そうそうないだろう。
「ほら、このユウにぃがおごってくれるから!」
そして凛はとどめとばかりに俺の腕を取る。
「!! おのれえぇぇぇえええ!! またリア充アピールしやがってぇぇぇ!」
その瞬間、激昂したシオリが俺たちに突撃してきた!
よし、ナイスだ凛!
俺は凛に合図を送った。
こくりとうなずいた凛は、シオリの突進にタイミングを合わせ、大きく斜め前に飛ぶ。
「!?」
意表を突かれたのだろう、一瞬シオリの動きが乱れた。
……いまだ!
俺は走り出すと、いまだ棒立ちしているヤンキーAのもとに向かう!
「……んなっ!?」
奴はこちらの意図に気づいたようだが、もう遅い! まずは手下から倒すっ!
ぱこおおんっ!
甲高い音とともにフルスイングした俺のフライパン(ホーロー製)がヤンキーAの側頭部にクリーンヒット!
「……ふぐっ」
目を回し、音もなく崩れ落ちるヤンキーA。
「てえええええいっ! せいやあっ!!」
ドンッ……!
バキィ!
間髪入れず、強化された身体能力を生かし、凛がヤンキーB、Cを掌底と回し蹴りで鮮やかに吹き飛ばす!
「……ちっ! やってくれるねっ……!」
これで……2対1だ……!
俺は、エレンが仕掛けるタイミングを待つ。
頼むぞ、エレン、ハル……そして舞台は[探検者になろう]の仮想空間に移る……。




