第8-4話 廃工場の決戦(上)
授業中はさすがに危険はないだろう……。
俺はハルとの感覚共有を切ると、[探検者になろう]にダイブし、エレンと会っていた。
彼女の調査結果を聞くためだ。
「ユウ、どうやら”ニーズヘッグ”は、[探検者になろう]の不具合を突いて、シオリさんの精神に憑依したみたい」
「むむ……精神汚染みたいなものか。 その不具合は対応したのか?」
「うん。 もちろん……でも、”ニーズヘッグ”の魔力は強大……いたちごっこになるかもしれない」
「……話を戻すと、”ニーズヘッグ”はシオリさんに憑依すると同時に、いくつかの”バグスキル”を渡したみたいで、ポンコツヤンキーを操っていたのも、ゲームなのに私たちにダメージを与えてきたのもその影響だと思う」
「奴が狙っているのはあくまでも私……たぶん奴は、私の周りの人間を痛めつければ、私が出てくると考えてる」
なるほどな……シオリはエレンをおびき出すための餌されているという事か……うう、重ね重ねなんて不幸な子なんだ……何とか助けてやりたいし、ニーズヘッグのクソッタレも許せないな!
俺の決意に、エレンもこくりと頷く。
「だから、私も動こうと思う。 おそらく、ニーズヘッグはシオリさんを使って、リアルで仕掛けてくる……ユウはリンおねえちゃんを助ける為にリアル側の対応をする事になるから、手薄になった私を……」
「本体が襲撃するってことか……」
「だから、こちらもそれを逆手に取るの」
パッと見ではそう見えないが、エレンは凄腕の魔法使いジョブ持ちだ。
あくまでここゲームの世界でニーズヘッグが挑んで来るなら、ゲーム内のスキルで倒せるはず……あえてリアルとゲームで戦力を分け、一気に叩くという事だな。
「となると、リアル側を俺と凛で対応して……[探検者になろう]側をエレンとハルで対応ってところか?」
「そう。 ハルはゲーム内の気配察知に優れている……こちらに借りるね」
作戦が決まったようだ。
あとは凛の授業が終われば、作戦開始だな。
「あともう一つ、ユウに新しい”スキル”を渡しておく。 特にリアルでの戦いに役に立つと思う」
おお、これは……俺はエレンが取り出してくれた管理者ならではのスキルを、スキルスロットに装備するのだった。
*** ***
放課後……春休み前なので、午前中で授業は終わり……アタシはハルにゃんを連れながら、シオリを探すために学校を出た。
アタシたちの予想が確かならば、”ニーズヘッグ”はシオリを使ってアタシをおびき出そうとするはず……細かい作戦は、さっき学校のトイレでエレンちゃんから聞いている。
……やっぱり……駅に向かう通学路の途中、住宅街の交差点でちらりとシオリの姿が見えた。
「まって! シオリ! アナタと話をしたいの!」
にひひ……ここは凛ちゃんの演技力が試されるね!
おかしくなった友人を必死に追いかける感じで……アタシは横目でついて来てるハルにゃんを確認しながらシオリを追いかける。
シオリが向かうのは、住宅街のはずれ。
こちらにあるのは……数年前に閉鎖した廃工場か!
なるほど、ここに誘い込むつもりだね!
上等!
アタシは気合を入れなおすと、いざというときのために空手の型をイメージする。
こういう心構えがあれば、不意打ちを受けた時の対応力に差が出るのだ。
アタシが追いかけてることに気づいているだろうシオリは、廃工場の前まで走ると、大きくジャンプし、閉じられたフェンスを一息に飛び越える!
!!
うお、マジか! あのフェンス、3メートルくらいあったよ? ユウにぃ!
[やはりな……シオリはニーズヘッグに憑依されることで、身体能力も強化されているみたいだ]
[どちらにしろ、その中で待ち伏せるつもりだろう……タイミング合わせてそちらに転移するから、ぎりぎりまでシオリたちを引き付けるんだ。 気を付けるんだぞ……!]
「オッケー! 任せてっ……はっ!!」
アタシは、走ってきた勢いをそのままに、フェンスに飛びつき、2段ジャンプで一気に飛び越える!
ニーズヘッグに身体能力を強化されているシオリほどじゃないけど、今のアタシならこんくらいできるんだから!
まってて……シオリ、いま助けるから!
アタシは全身を使って着地の衝撃を和らげると、複雑に入り組んだ廃工場の中に足を踏み入れた。
*** ***
アタシは廃工場の中を慎重に進む。
いま侵入した場所は資材置き場の脇。
目の前には金属などを加工していたのであろう、大きなプレハブ建ての建物がある。
やっぱり、襲撃があるなら建物の中だよね……アタシは、誘い込むようにわずかに開けられたシャッターを潜り、建物の中に身体を滑り込ませた。
[凛! 上だ!]
くっ……! ハルにゃんを通して、ユウにぃの声がする!
躊躇せず前転して飛びのく……!
ガコオンッ!!
次の瞬間、アタシがさっきまで立っていた場所に、大人の身体くらいの大きさがあるコンテナが落下してきた。
「はっ、惜しいな♪」
!! 頭上のキャットウォークからシオリの声がする。
思わず上を向く……
「ひゃっはぁ! もらったぜぇ!!」
その時、資材の影からヤンキーが釘バットを持ち、アタシに襲い掛かってきた!
まずっ!
床に転がったアタシは体制が崩れており、よけられない……思わず腕で顔をガードするが、釘バットの攻撃に耐えられるだろうか……アタシが衝撃に備え、身体を固くした時……!
ガギイィィィン!
「ユウにぃ!」
「すまん! 遅くなった!」
耳障りな金属音とともに、アタシの身体を捉えようとしていた釘バットを防いでくれたのは、この場所に”瞬間移動”したユウにぃだった。
*** ***
右手に括り付けたホーロー製のフライパンから、ダイレクトに衝撃が加わる……くうぅ……身体能力を強化していなければ、骨折していたかもしれない……!
危なかった……いきなり当たったら大怪我するような攻撃を仕掛けて来るなんて……シオリもヤンキーたちも人間としての意識はあるようだったから、まずは挑発するか、人質として捕まえようとしてくると考えていた。
どうやら”ニーズヘッグ”の奴は容赦するつもりはないようだ。
「凛っ!」
「はあっ!」
俺は、ヤンキーAの釘バットをフライパンで抑えながら、凛に声をかける。
体勢を立て直した凛は、ヤンキーAの側頭部目掛けハイキックを放つが……
バチインッ!
「えっ……?」
「ふへへへ……」
やけに固い音とともに、凛の蹴りが弾かれる。
攻撃が……効いてない!?
「ちっ……いったん距離を取るぞ、凛!」
「うん、ユウにぃ!」
ぐいっ!
俺は、凛の蹴りを食らったことででわずかに釘バットの力が弱まったことを利用し、ヤンキーAを強く押して反動で距離を取る。
「ユウにぃ、大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ。 少し腕がしびれたけどな……」
「「「ひひひひ……」」」
「いまの攻撃を防ぐなんて、やってくれんじゃないのさ!」
いったん距離を取った俺たちに追撃はなく、シオリと手下のヤンキーB、Cも姿を現す。
俺たちは10メートルくらいの距離を開けて対峙する。
……さすがに[探検者になろう]で襲撃された時の格好とは違い、シオリは凛の学校の制服姿、ヤンキーは学ラン姿だが。
「……それにしてもユウにぃ……」
「ん? なんだ?」
油断なく相手を睨む俺に、思わずという感じで凛が声をかけてくる。
「かっこよかったけど……さすがにフライパンはないよ……」
ほっとけ……!
一人暮らしの男の家に、防具の代わりになるものがそんなにあるもんか……
だが、いつもの調子の凛に安心したのも確かだ。
さて、どうやって時間を稼ぐか……俺は、[探検者になろう]でニーズヘッグを待ち伏せているであろうエレンと、サポートのためにダイブしたハルの健闘を祈りつつ、これからの戦い方に考えを巡らせるのだった。




