第8-2話 辻斬りヤンキークラン襲撃
「はいは~い、そこにゃ! もう逃げられないのである!」
タンッ!
ザシュッ!
水中を泳いで逃げようとするシーサーペントの動きを先読みし、ハルがナイフで切りつけ動きを鈍らせる。
ここは”バルドルの迷宮”最深部、海底洞窟。
ようやくゲーム内スキル”水中呼吸”を手に入れた俺たちクランは、”バルドルの迷宮”のボスモンスターに戦いを挑んでいた。
「……ナイスです……ハル!」
「”フローズン・ストーム”!」
バキバキバキッ!
オオオオンンッ!?
そこにエレンの凍結魔法が炸裂し、シーサーペントの半身を凍らせ、完全に動きを止める。
「……リンおねえちゃん!」
「よっし! うおおおおおっ! せいやあっ!」
バキインッ!
水中洞窟での姿勢制御に四苦八苦していたリンだが、エレンの掛け声にあわせ大きくジャンプすると、シーサーペントの頭上にある岩の出っ張りを蹴り、勢いをつけたそのままに正拳突きでシーサーペントをぶん殴る!
力を込めた一撃に、シーサーペントの凍った半身が砕けた!
「ユウにぃ、とどめっ!」
「くらえっ! おおおっ!!」
ぶんっ!
俺が右手でぶん投げた魔力付与済み(エンチャント)シールドは、きれいな放物線を描きシーサーペントの頭に突き刺さった。
シュワアアアアアッ……!
それが最後の一撃となり、迷宮の大ボスであるシーサーペントは光の粒子になって消えるのだった。
[158,200の経験値を獲得。 クランレベルが68に上がりました]
[おめでとうございます。 バルドルの迷宮の完全攻略を確認。 ”エース探検者”の実績を獲得しました]
ガイドメッセージが迷宮の攻略完了を知らせてくれる。
うん、これで俺たちクランも中級を卒業、いよいよ最上位探検者の仲間入りだな!
「ええ……シールドをぶん投げるとか……めちゃくちゃだよユウにぃ」
リンがあきれた様子で何かを言っているが、分かってないな……シールドとは最強の武器にもなるのだ!
「…………ののん~? 下僕ユウタ! なにか来る……気を付けるのにゃ!」
俺が思わずドヤっていると、急にハルの表情が厳しくなり、俺たちに危険を知らせてくる。
ハルの猫譲りの第六感……”シックスセンス”の固有スキルだ。
……だが、迷宮の大ボスは倒したはず……現在この場所に、俺たちのクランに脅威となるような存在はいないはずだが……。
「ヒャッハー! もらったぜぇ!!」
「!!」
バチイインンッ!
その瞬間、死角からエレンに向かって放たれた魔法銃の銃撃を、俺は左手に持ったシールドと、防御陣スキルを発動させ、かろうじて跳ね返す。
じいぃいん……と、シールドを持った左手に鈍い痛みが走る……なんだ、人型の魔獣かっ?
「はん、やるじゃないのさ!」
「アネゴ、どうしますか? やっちまいますか?」
ザッ……
やけに小物っぽいセリフとともに物陰から現れたのは、4人組のパーティ。
ボンテージ風の衣装に仮面、鞭といういかにもアレな格好をした小柄な女に、先ほどエレンを狙撃した魔法銃と釘バットで武装した、モヒカン肩パッド姿の量産型ヤンキーが3人。
まるで世紀末覇者の世界から抜け出してきたような、過去の遺物的格好をしているが、ゲームにこんなビジュアルの人型魔獣は実装されていなかったはず……まさか、[探検者になろう]のプレーヤーなのか?
馬鹿な!
俺は驚愕の叫びを抑えることが出来なかった。
[探検者になろう]では、プレーヤー同士の揉め事を避けるため、基本的にプレーヤーを直接攻撃することは出来ないようになっている。
わざと魔法などのスキルに巻き込んでもダメージは入らないし、剣で切りかかろうとすると動きを止められる。
そのため、先ほどのように攻撃スキルでダメージを受けるという事はあり得ないのだが……。
「むむ……これはまさか……」
エレンが厳しい目で4人組クランを睨んでいる。このゲームの管理者の彼女には、なにか心当たりがあるようだ。
「いや……まだいいさ。 今日は顔見せさね! アンタ達、今後は自分たちの背中に気を付けることだね! 特にリン! アンタの事だよ!!」
「……え? アタシっ? めーわくなんですケド……」
さらに小物っぽいセリフと共に胸を張るボンテージ女……揺れない。
その衣装を全く生かせないつるペタ体形のため、どこからともなく哀愁が漂う。
名指しされたリンは迷惑そうにつぶやいている。
なんだ? リンはボンテージ女と何かの因縁があるのか?
「……その黒髪と貧相なボディライン……まさかシオリ?」
「!?!? ばっ……ふざけんなてめぇ! 何が貧相だよっ! お、覚えてろよ!」
「待ってくださいよアネゴ~!」
リンの冷静なツッコミに、涙目になり、小物極まるセリフを置き土産にドタバタと姿を消すシオリ一行(仮)
「「…………」」
い、いったい何だったのだろう。
思わずぽかんとする俺とリンのもとに、エレンが深刻そうな顔でやってくる。
「いまの連中はポンコツだったけど……ゲームのプレーヤーが、他のプレーヤーを攻撃できるなんて……大変な事態が起きたかも」
この出来事が、更に俺たちのゲームと日常を刺激的なモノに変えていくのであった……。




