第7-1話 使い魔って黒猫じゃないんですか?
ここではないどこか。
窓から淡い光がさす部屋。
椅子に腰かけたエレンは、自分のスマホを見つめる。
「ふふっ……」
思わず笑みをこぼすエレン。
少し前まで、一人ぼっちで戦わなくてはいけないこの部屋が、彼女は嫌いだった。
でもいまは。
彼女を支えてくれる仲間と家族がいる。
エレンは大切な人たちに会うため、[探検者になろう]アプリを起動するのだった。
*** ***
「と、いうことで! くされニーズヘッグちゃんのHPをかなり減らしたので、Narou APIをバージョンアップすることが出来たよ! ぱちぱち」
俺とリンが[探検者になろう]のホームゾーン……ログインして最初に移動する場所……に着いた途端、ドヤ顔のエレンが拍手しながら出迎えてくれた。
「おお? なんだいきなり……Narou APIがバージョンアップ? 何かできることが増えたのか?」
ノリノリなエレンに驚いたが、出来る事が増えたのなら、”ニーズヘッグ”のHPを減らすことの役に立つだろう。
俺はエレンに尋ねる。
「ん……簡単に言うと、5レベルごとに”バグスキル”を取れるようになったよ」
「いまはレベル66なので、追加でもう一つスキル取れるね。 さあ選んで選んで。 これでユウも、もっとムキムキだね」
うきうきとした様子で、エレンは俺にバグスキルの取得を勧めてくる。
こないだの城之崎温泉での一件から、エレンは何かを吹っ切ったように感情豊かになった。
やはりこれが彼女の素なのだ。 表情豊かなエレンは単純にカワイイ。
「……ん~、スキルを取りやすくなったのはいいけど、なんかもっと凄いチート無いの? 経験値10倍とか、ステータス2倍とか」
自分の思ったチートと違ったのだろう。
リンはやや不満気だ。
「なに言ってるのリンおねえちゃん!」
「くされニーズヘッグちゃんの妨害がある中で、これは凄いことなんだよ! あと、ステータス弄るのはダメ。禁則事項です」
エレンはくいっと眼鏡を直すしぐさをすると(メガネはかけていないが)、生徒を諭す先生のような口調でリンを注意する。
「はあぁ~い。 まあ、ステータス操作したゲームなんか面白くないしね」
そこについては俺も同意だ。
リンも納得してくれたようだ。
……先日エレンに詳しく説明してもらったが、[探検者になろう]のゲーム本体は、エレンが現在住んでいる場所……”王家の墓”……の魔法装置が自動で生成しており、ステータスなどのゲームの根幹部分を直接操作するのは困難らしい。
そのため、外部機能であるNarou APIを用意したとのことである。
また、現在抑え込んでいる”ニーズヘッグ”も、その膨大な魔力を使って[探検者になろう]に干渉してきており、奴への対処も必要とのこと。
「ということで。 私も結構大変なの。 分かりましたかリンおねえちゃん」
「……ふぁい」
正座をさせられ、エレンに延々と説教されているリン。
ちなみに、先日の城之崎温泉での一件から、エレンはリンの事を「リンさん」ではなく「リンおねえちゃん」と呼ぶようになった。
より”家族”になれた気がして、とても嬉しい。 あとちょう萌える。
取り合えずあのふたりは置いといて、新しい”バグスキル”を確認することにしよう。
俺はガイドメッセージをタップし、”バグスキル”一覧を表示させる。
”バグスキル(サカナが焼けます):爆炎魔法”
”バグスキル(ビリっとします):雷撃魔法”
”バグスキル(新たな仲間登場!):使い魔” New!!
「”使い魔”?」
以前から出現しているアブなそうな2つの攻撃魔法はそのままだが、また1つ新たなスキルが追加されている。
使い魔……普通に考えれば、マンガやアニメの魔法使いが連れているような、カラスや黒猫の事を指すのだろうが……?
「なあエレン、これってもしかして……動物を使役……パートナーにできるスキルなのか?」
「! 詳しいねユウ。 そうだよ。 猫やリスなんかの小動物を、術者の分身にできる中級魔法……魔法使いの必須スキルだね」
そりゃあ、こちらの世界の物語でもありふれた設定だからな……うん、いいじゃないか。
なんといっても無害そうだし!
「使い魔の能力としては……まず、感覚や視界を共有して、偵察などに使えます」
うんうん、それもよく聞くな。
「次に、使い魔を通して動物の言葉を聞けるようになるので、狩りや漁をするときに有利だね……やり過ぎるとギルドの皆さんに怒られるけど……あくまで自分が食べるだけの獲物を取る場合にのみ使うことが認められているの」
なるほど……異世界とはいえ、そのあたりのルールは決まっているのか。 現実世界の日本なら……釣りをするときに役立つだろう。
「最後に……天才エレンちゃんが術式を弄っておいたので、術者だけじゃなく私たちパーティ全員の使い魔扱いになるよ。 私の魔法の一部を、間接的に向こうの世界で使えるようになるから、誰かを暗殺したい時などに最適」
……ん? エレンの口からやけにキナ臭い単語が出てきた気がしたが……エレンの世界はファンタジーな異世界なんだ。そういうことも普通にあるんだろう……気にしないようにする……うん。
「じゃあさ! どんな動物でも使い魔にできるの? アタシ、パンダがいいなぁ~。 パンダって実は強いらしいよ」
エレンの説教から復活したリンが話に割り込んでくる。
「ん……大きな動物は難しいかな……過去の記録では、虎を使い魔にした魔法使いがいたらしいけど……ふつうは、大型犬くらいまでが限界だね」
「そっか~、残念」
エレンの回答に、落胆するリン。
まあ、某魔女っ娘宅配便でも黒猫だもんな。
「それにリン、パンダなんか手に入れた日には、海の向こうの某国からレンタル料を請求されるぞ……」
「うう、世の中って世知辛い……それならレッサーパンダにするぅ」
俺の追撃にさらにしょぼんとするリン。
残念だなリン、レッサーパンダは人には懐かないらしいぞ……あいつらは意外に凶暴だ。
「じゃあ、このスキルを装備してみるか……エレン、使い魔にするのは、どんな動物がおすすめなんだ?」
「ん……やっぱり定番の、ネコかイヌが感覚も優れているし、知能も高いからオススメかな。 あとできれば、すでに信頼関係を結んでいる個体なら、なおいいね」
「それなら……ちょっとリアルに戻ってくるから、待っていてくれないか」
「らじゃーです」
俺の脳裏に、一匹の候補が浮かぶ。
俺はリンを立ち直らせると、ソイツに会うためにいったん現実世界に戻った。
*** ***
「うにゃうにゃん♪」
俺と凛の前では、まんまるとした茶虎のもふもふ……俺が”瞬間移動”スキルで最初に助けた子猫……ハルが機嫌よさそうに鳴いている。
「なるほど……ハルにゃんを使い魔にするんだね……でも使い魔って黒猫が定番じゃないの?」
無粋なツッコミを入れてくる凛。 仕方ないだろう……いまから黒猫を探して手懐けるのも大変だ。
それに、茶虎の子猫を肩に乗せるエレン……見たくないか?
「それはスゴク同意……」
その光景を想像したのか、凛のヤツもにやけている。
さて、さっそくスキルを使ってみるか。
さきほど対ネコ用最終決戦糧食”だんけちゅ~る”を使ってゴキゲンを取ったので、大丈夫のはずだ。
俺はスマホアプリから、スキルスロットを展開、”使い魔”をタップする。
[下僕のふたり、おはようにゃん! エレガントな朝ごはんご苦労である! おかわりないかにゃん? あと背中かゆいから掻いて?]
次の瞬間、聞こえてきたのは、欲望に忠実なフリーダム子猫のかわいい声だった。
うんまあ、猫って基本、こんな感じだよな……。
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