第6-4話 明かされるエレンの秘密
こんばんは。やけ酒飲んで酔いつぶれてたら、頬を染めた幼馴染の従姉妹と銀髪美少女に神社の境内裏に連れ込まれるようです。
僕の貞操が限界突破します!
……はい、話をかなり盛りました。
予約していた宿の部屋に問題があり、凛とエレンの十代女子コンビの部屋に泊まることになった俺、間違いがあってはいけないと夕食で日本酒をしこたま飲み、予定通り酔いつぶれることに成功するも、深夜に凛とエレンに無理やり起こされ、夜の散歩に出た所というのが現状である。
「…………」
エレンは何か俺たちに話しておきたいことがあるらしく、黙々と俺たちを先導する。
色々と予兆はあった。
3か月前、[探検者になろう]エンジョイ勢だった俺と凛のクランに、突如逆オファーを掛けてきたランカー魔法使い。
1か月ちょい前、[Narou API]の出現に端を発した”バグスキル”の数々。
ある日見た不思議な夢、彼女の不自然な言動等……俺は確かな予感を胸にエレンについて歩く。
「…………ここがいい……このあたりで一番魔力が満ちている場所」
エレンが足を止めたのは、温泉街の一番奥の高台にある小さな神社だった。
*** ***
「…………」
誰もいない深夜、小さな神社の境内。
しん……とした静謐が辺りを包む。
気のせいか、薄く霧が出てきたような気すらする。
「……じゃあ、私の事をすべて話すね……」
5分ほどそうしていただろうか。
意を決した様子でエレンが口を開く。
ほわ……エレンの身体を、薄い光のようなものが包む。
「うわ……きれい」
凛がおもわずつぶやく。
エレンの身体は、わずかに光りながら地面より浮いていた。
「最初に……今まで黙っていてごめんなさい。 私は、この世界の人間ではありません」
エレンの小さな唇から紡ぎだされた、衝撃の事実に、ああやはりか……と俺は納得していた。
「この世界の人間じゃない……? マルタから来たんじゃないの……?」
凛は呆然としている。
まあ無理もない……だが、俺には心当たりがあった。
「あの……”夢”のことだな?」
こくりとエレンがうなずく。
俺の見た夢……アレは”バグスキル”を手に入れて数日後の事。
俺はものすごくリアルな夢を見た。
……王国に侵攻する”8つの頭を持つ暗黒竜ニーズヘッグ”
……気丈にも立ち向かう銀髪の”姫様”
……また一人、また一人と”姫様”を逃がすために斃れていく騎士、魔導士たち
……たった一人たどり着いた”王家の墓”の最深部にある巨大な魔法装置
……勇者召喚の儀に対する、”適合者無し”との無情な結果
「あの”銀髪の姫様”が……」
「はい、こことは違う世界……アルフヘイム王国王家の最後の生き残りである私、エレン・アルフヘイム」
俺の言葉を引き継ぐ形でエレンが静かに答える。
早春の月がやわらかに俺たちを照らしていた。
「エレンちゃんが……本当の……お姫様? しかも異世界の……ええ?」
凛はいまだ衝撃から立ち直っていないようだが、事前にある程度予感していた俺には、聞きたいことがたくさんある。
「まず聞きたいこと……キミを絶望から助け出す方法があるのか?」
「!!」
俺の最初の質問に、目を見開くエレン。
だがすぐに笑顔になる。
「……まさか最初にその質問をされるとは思いませんでした……ふふっ……流石ユウです」
ふっ……と彼女がまとっていた張り詰めた空気が和らぐ。
「それじゃ、ユウが見た”夢”の後のことから、説明するね」
いつもの調子に戻ったエレンは、俺たちに夢の続きを説明してくれた。
エレンの話をまとめるとこうなる。
魔法装置が繋げた現代の地球に、”勇者”の資質を持った人間はいなかった。
エレンは”王家の墓”にあった大量の古文書の調査を進める。
その中で、”ニーズヘッグ”の動きを抑え込む術を発見する。
”ニーズヘッグ”の抑え込みに成功するものの、術の効果は約2年。
さらに古文書の調査を進めたところ、”ニーズヘッグ”にダメージを与える方法として、生き物が持つ善意の心……感謝の気持ちを魔法装置で圧縮し、奴にぶつけるという方法を編み出すことに成功する。
だが、アルフヘイム王国の人口では2年間で奴を倒せない。
万策尽きたかと思われた時、現代の地球には、王国の数千倍となる大量の人間が住んでいることがわかる。
どうにかして善意の心……感謝の気持ちを取り出せないかと調査を進めたエレン。
そして半年ほどの試行錯誤の末、魔法装置を使い、”仮想空間”を地球側の魔法装置……コンピューターの中に生成することに成功する。
そこでエレンは、地球のコンピューターから得た情報をもとに、[探検者になろう]を作成、参加したプレーヤーから、ゲームの”リアルスキル”を通して善意の心・感謝の気持ちを取り出すことにした。
だが、取り出せた”善意の心・感謝の気持ち”はとても密度が薄く、そのままでは使えない。 なんとか個人で強いソレを持つ人間はいないだろうか?
その選別のための条件として、”バグスキル”と”なろうAPI”を作成し、ゲームの1プレーヤーとなって、適合者を探していたという事らしい。
そんな中、俺たちのクランを見つけ、逆オファーしたとのことだった。
「……ふぅ」
長い説明を終え、ふっ……と息を吐き出すエレン。
ずっと隠していたことを喋れたためか、その顔はどこか晴れやかだ。
「なるほど……”バグスキル”で”イイコト”してハッスルすれば、悪いボスを倒せて、エレンちゃんオールハッピー! そういう事ね!」
衝撃から立ち直った凛が一言でまとめてくれる。
「リンさん……一言で言うとそうなんだけど……とても大変だよ? しかも長々と説明した私の立場が」
あまりにもシンプルなまとめだったためか、エレンはどこか不満そうだ。
「ふふっ……エレン、あまり難しく考えなくてもいい。 俺たちがやることは別に変らないんだろう? な、凛」
「そうそう、ゲームを楽しんで、エレンちゃんを助けられる……こんなオトクなことは無いって!」
俺たちは今まで通りプレーするだけだし、”バグスキル”で人助けをすればいいんだろう? 良いことばかりじゃないか。
望むところだ。
「ユウ……リンさん……それなら、今後も手伝ってもらえるんですか?」
「私、失望され……クランから追い出されても仕方がないと思って……悩んでいたの」
エレンには、俺たちがあっさり現状を受け入れたのが意外なようだった。
「ふっふ~ん、甘いねエレンちゃん! アタシとユウにぃは、困っている子を放っておけるほど非情な人間じゃないの。 それにぃ」
ぴょんっ
「こーのもふもふとむにむにが堪能できるなら、アタシなんでもしちゃうね!」
「あ、あう……それは出来れば控えめで」
ここぞとばかりにエレンをモフモフムニムニする凛。
俺もポン、とエレンの頭に手を置くと、優しく彼女を撫でてやる
「あ……」
「1年以上も一人で戦って来たんだろう? 俺たちはもう、”仲間”で”家族”だ」
「こっちに来てくれた時と、ゲームの中ではアタシたちが支えるから。 ねっ♪」
俺たちの言葉に、じわっとエレンの大きな瞳に涙がにじむ。
「あ……わああああぁぁ! うわあああぁぁん!!」
堪えていたものが一気に溢れ出たのだろう。
小さな子供のように泣きじゃくるエレンを、俺と凛は優しく抱きしめ続けた。
*** ***
「えぐえぐ……ぐすっ」
ようやく泣き止んだエレンの頭を撫でながら、俺はもう一つ聞いておくべきことを思い出す。
「そうだ……もう一つ大事なことがあった」
「エレンは、どれくらいの頻度でこちらに来れるんだ?」
エレンにはその質問が意外だったようだ。
思わずきょとんとした顔になる。
「……え? そこですか? [探検者になろう]や、”バグスキル”の仕様については?」
「それはおいおい確認すればいいし。 いま大事なのは、どれくらいエレンとこんなふうに遊べるかだ」
「そうそう! 日本には温泉だけじゃなくて良い所も美味しい物もたっくさんあるよ~! もっといろいろ遊びに行きたいな」
迷宮の奥で、寂しい生活をしているエレンに少しでも楽しんでほしい!
この事に対しては全く譲る気はないな!
「えっと……転移にはある程度の魔力がいるので……1か月に一度くらいなら……」
「よっし! それじゃあ来月の予定を立てよう! 次はお花見かな?」
「桜の季節には遅いだろう……」
「むむ、それじゃ北行こう北!」
「…………ふえ」
ああでもないこうでもないと検討する俺たちをぽかんと見つめるエレン。
まさかこういう展開になるとは思っていなかったようだ。
「……というとこでエレンちゃん、どこに行きたい?」
満面の笑顔で尋ねる凛に、つられてエレンも笑顔になる。
「それじゃあ……おはなみ!」
その後、しばらく夜の温泉街をみんなで散歩してから宿に戻ったのだった。




