第6-1話 女神エレン、降臨する
関西国際空港。
その到着エリアに、ひとりの少女が降り立った。
歳は13~14歳くらいだろうか。
腰まである白銀の髪に大きな琥珀色の瞳。
一見クールな印象を与える美少女だが、その瞳は好奇心にあふれ、大きく見開かれていた。
彼女は、悠太達のクランメンバー、”ザ・ソーサラー”ことエレンである。
「”ぱすぽーと”、おっけー……なにが必要かは、事前に調べてきたから、これで大丈夫のはず」
彼女がポシェットから取り出したパスポートには、ヨーロッパのある小国の国旗が印刷されている。
彼女はこの飛行機で実際に飛んできたわけではないが、滞在中にどんなことがあるかは分からない。
体裁を整えておくのも重要だろう。
エレンは入国に必要な書類を、どこからともなく取り出すと、入国検査場に向かった。
入国審査を無事に終え、観光ビザをゲットしたエレン。
手荷物を受け取る必要はないので、到着フロアに出る。
大きな吹き抜けのフロアに、”えすかれーたー”と呼ばれる動く階段。
近くにはコンビニエンスストアと、向こうには様々なお店が入居したショッピングコーナーが見える。
「ここがりあるの日本……わくわくです!」
「えっと……ユウたちはどこで待ってるのかな……」
エレンはきょろきょろと辺りを見回す。
「!! ふおおおぉ!?」
なにかを見つけたのか、売店に走り寄るエレン。
そこで売っていたのは、飛行機をモチーフにした空港のゆるキャラのぬいぐるみ。
「お、おねえさん、これください!」
エレンは帰りではなく、行きの道中にお土産を買いこむタイプだった。
*** ***
俺と凛は、出迎えのためにクルマで関空に来ている。
「確か、10時頃に着くってメッセージが入ってたよね?」
「到着ゲートは……こっちか」
関西国際空港は、全国有数の巨大な空港である。
初めて来日するエレンなら、迷子になることもありうる……俺は彼女にチャットを入れようとスマホを取り出す。
くいっくいっ
「ねえユウにぃ……もしかして、アレ」
凛が俺の袖を引っ張る。
彼女が指さした方向にあったのは……
てくてくと巨大なぬいぐるみが歩く光景……確かこの空港のゆるキャラ、”そーら”とか言う名前だったろうか……ん? よく見ると見覚えのある白銀の髪が揺れ、ちらちらとぬいぐるみの影から見える。
「もしかして……エレンか?」
ひょこ! とぬいぐるみの横から一人の少女が顔を見せた。
「ユウ、リンさん……りあるでは初めましてです」
礼儀正しく一礼するエレン。
これが、俺たちとエレンとの初めての邂逅だった。
*** ***
「かっ……かかかかっ!」
……先ほどから聞こえている奇声は”妖怪カカカ笑い”のモノではなく、凛が発しているものだ。
彼女は、大きく目を見開き、感動に打ち震えていた。
「かわいいいぃっっ~!」
むぎゅっ!
いよいよ我慢できなくなったのか、凛がエレンに抱きつく。
「むっほぉ! かわいすぎやしませんか奥さん!? ああ、このもちもちほっぺの感触……もうアタシ、このほっぺの上に住む! 永住する! 敷金はなんぼ!?」
「きゅう……リンさん少し苦しいです」
エレンに頬ずりしながら意味不明なことを口走る凛。
だが、気持ちはとっっっってもよく分かる。
豊かな銀髪をハーフアップにまとめ、右のもみあげだけを赤いリボンで止めたアンシンメトリーな髪型。
トップスはセーラー服ちっくな襟のついた、ネイビーカラーな5つボタンのジャケットの上に、ホワイトのケープを羽織っている。
ボトムスは白の膝上フレアスカートに、黒タイツと白いブーツ。
ゴシックロリータ調で色を統一しつつも、落ち着いたコーディネートでまとめた超絶美少女がそこに立っていた。
「日本へようこそ、エレン。 そのぬいぐるみは俺が持つよ」
「はい、よろしくおねがいします」
少しはにかんだ表情でぬいぐるみを俺に渡してくるエレン……ゲームより、少し成長した姿だな……。
う~ん、やはり以前見た夢(第2-3話参照)に出てきた女の子……お姫様……にどことなく似ているかもしれない。
「? どうしましたか、ユウ」
思わず彼女を見つめていた……不思議そうな顔をするエレン。
まあ、夢の事だしな……お姫様のように可憐なエレンを見ると、そう思うのは無理もないだろう。
ともかく、エレンに楽しんでもらうのが一番だ!
「ねぇ、エレンちゃん……まずはお昼ご飯食べよう! 何食べたい?」
「!! くしかつ!」
「おお、渋いね~。 いい? ソースの二度漬けはダメだよ?」
「ふむ、それがこの世界のルールですね……らじゃーです」
「ふふ、エレンちゃん表現が大げさだよ」
いつも[探検者になろう]で一緒に戦っている時のクールな表情とは違い、とてもはしゃいでいるエレン。
これがこの娘の素の表情なのかもしれない.
まるで姉妹の様に仲良く手をつないで歩くふたりを微笑ましく見ながら、俺はこの後のもてなしプランを整理するのであった。
……この後、新世界の串カツ屋に行ったのだが、店の大将やお客のオバちゃんにエレンは可愛がられまくり、食べきれないほどの串カツと大量の飴ちゃんをもらった彼女は、目を白黒させるのだった。




