第5-1話 俺たち、リアルでもレベルアップしてる?
「ふっ……!」
両手に持ったエンチャント済みシールドの一撃で[ゴブリンロード・極]を吹き飛ばす。
シュワアァァ……
先日まで苦戦していたはずの上級魔獣は、あっさりとその姿を消すのだった。
ここは俺たちクランの新しい狩場である”バルドルの迷宮”。
先日の銀行強盗騒ぎから1週間。
俺たちはレベル60を目指し、ダンジョン攻略を続けていた。
「さっすが、ユウにぃ! ナイスキル!」
リンが歓声を上げ、褒めてくれるが、俺は微かな違和感を感じていた。
「……なあリン、さっきの[ゴブリンロード・極]、俺たちのクランレベルだと、本来ならもう少し苦戦するはずだよな?」
「ん~? 確かに攻略wikiではレベル70~推奨って書いてあったけど……wikiなんてあくまで目安じゃない?」
うーむ、そうなんだろうか?
いまの俺たちのレベルは56……他クランのスコアシートを見ても、同レベルで[ゴブリンロード・極]を狩ったクランはほとんどいない。
実際、攻撃力自体はレベルとスキルに準じたもので、先ほどのバトルでも攻撃を何度も当てないと倒せなかったのだ。
俺が違和感を感じている点は、全体的に身体のこなしが向上している気がする事、過重装備をしても問題なく動ける所だ。
[探検者になろう]では、レベルの他に装備品に重量というパラメーターが設定されており、過重装備をすると動きが鈍る。 先ほどの様に、両手にエンチャント可能な大型シールドを持つことは本来できないはずだ。
「……このゲームでは、現実世界でのプレーヤーの身体能力がゲーム内での素早さに影響するよ。 ふたりとも、現実世界で鍛えてるの?」
またエレンがゲームの仕様にかかわる事を教えてくれる。
リアルでの身体能力か……こないだの銀行強盗騒ぎでも似たようなことがあったな。
「そういえばリン、先週の銀行強盗相手に繰り出した掌底、凄かったな? いまも空手続けてたっけ?」
確か一撃でジジイをノシていたはずだ……まるで空手を極めた達人の様に。
「あ、アレ? う~ん、アタシもあんな威力が出ると思ってなかったんだけど……あと、もう空手はやってないよ。 たまにお祖母ちゃんの道場に顔は出すけど」
そういえば、ジジイに攻撃した後、リンも困惑してたっけ。
リンも成長期だし、身体能力が向上するという事もあるのだろうか。
「む、りあるでのリンさんの活躍ですか……面白そう……私も見たかった」
現場に参加できなかったことが悔しいのだろう。
ぷくっと頬を膨らませるエレン。
ごめんな、流石に事件が突然すぎて呼べなかった。
「でも、リアルでの格闘スキルのレベル向上……ふむ、興味深いですね」
「ユウ、アナタは似たようなことありませんでしたか?」
今日は珍しくエレンが饒舌だ。
この現象に興味があるらしい。
「ん~、そういえばこないだの日曜日……」
俺たちの家の近くにはパンダのいる市営動物園があるのだが、そこの近くを通りかかったとき、ひとりの子供がせっかく買ってもらったパンダの風船を、転んで手放してしまう場面に遭遇した。
坂の上にいて、思わず届くかもと思った俺は、ガードレールを使って2段ジャンプすると、その子の風船を回収することに成功した。
その子は目を真ん丸にして驚いていたが、思い返してみれば、風船は家の2階近くの高さまで上昇していたかもしれない……。
いくらなんでも大学卒業して6年、あまり運動をしてないアラサーリーマンに飛べる高さではない。
「むむ……身体もおっぱいも伸び盛りのリンさんと違い、ユウはアラサー。 急激に身体能力が伸びるのはおかしい……なるほどなるほど」
「へっへ~、流石エレンちゃんよく分かってる~。 そう、こないだ測ったら1センチ大きくなっていたんだよ!」
確かにそうなんだよな……どちらにしろ、俺もリンも、リアルでの身体能力が強化されている事は事実のようだ。
もちろん、[探検者になろう]の”リアルスキル”の一覧に、身体強化系のモノはない。
そんなものがあったら合法ドーピングとして今頃大騒ぎになっているはずだ。
「あっ、でも! 身体能力が強化されてるから、最近テニスの試合で成績がいいのかなぁ? やべぇリンちゃん全国狙えちゃう?」
「うーむ、なんとなくスキルを使ってチートしてる気がすんなソレ……やり過ぎると某王子様みたいになるから、ほどほどにな」
「う……ドーピング疑惑掛けられても嫌だもんね……自重しときます」
少なくとも人外クラスまで伸びた場合は、対策を考えるべきだろう。
「この件については、私も調べておきます。 む、今日もいい時間ですね……それでは」
確かに、もうリアル時間でも遅い時間だ。
今日は平日だし、切り上げ時だろう。
「よし、終わろうか。 リン、エレン、また明日な」
「ユウにぃ、エレンちゃん、おっつかれ~!」
俺たちは[探検者になろう]からログアウトするのだった。
*** ***
ここではないどこか。
窓から淡い光がさす部屋。
椅子に腰かけたエレンは、自分のスマホを見つめる。
「ニーズヘッグのHPを減らすと、現実の自分に影響が出る……ですか」
「今の事態を打開するカギとなるかもしれません……調査継続です」
「あとひとつ……そろそろいいタイミングかも」
ひとり、エレンは何かを決心したようにつぶやくのだった。




