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第一八話 「海洋の悪魔」03

 早朝からシュンは艦上の冒険者となっていた。

 陸地はすでに遠く、かすんで見える。


 シュンたちが乗り込んでいる水雷艇(コルベット)の両舷には、固定式のクロスボウ計八基が配備されていた。


 ツァレーナが当初無茶と言っていた作戦も昨夜の話し合いで、今は互いに光明を見いだしている。


「そろそろよ、シュン」


 舳先で海原を睨むシュンに、ツァレーナは声を上げた。

 先日戦った海域に到達したようだ。


「何も感じないな……」


 海底深くに潜むリヴァイアサンは地上のようには探知出来ない。

 艦低に【探査】のスキルを持つ観測員が配置され、船体越しに水中のリヴァイアサンを探しているのだ。



「敵発見の信号が上がったわ!」


 ツァレーナがそう叫ぶと、遙か先を進む第一艦隊から赤い狼煙(のろし)が上がっているのが見えた。

 古典的だが現代なら効果的だ。


 煙の流れから艦は左側に回頭しつつあるのが分かる。

 電波を発信出来ない遙か昔の艦隊戦もこんなものだったらしい。


 シュンたちが乗り込む第二艦隊の船外スピーカーが鳴り、乗り込んでいるギルドの担当冒険者から指示が飛ぶ。


 ラヌゼルダの冒険者たちは左舷に集まり、拳大の球を握り投擲を始めた。


 【飛翔】と【移動】でアシストされたそれは海面に落ちて、しばらくしてから海中で爆発が起こる。


 水柱に混じってスクアーロの一部が吹き上がった。

 【炸裂】のスキルを封じた一種の爆弾だ。


「こんな攻撃方法があるとはなぁ……」

「軍管区じゃあ使用禁止だけどね」


 近代兵器ではないが、過度の爆発には制限があるのだ。


 続いて水面に見えるスクアーロの影をクロスボウで狙い打ちする。

 【飛翔】でアシストされた矢が、【衝撃】で海水を引き裂き穿たれ、海面は血の色に染まった。


 スクアーロは水面に顔を出して牙をむきだしにし、そこに更なる矢が打ち込まれる。

 中には船体に体当たりを繰り返す個体もあった。


 三個警戒艦隊(パトロール)は群を取り囲んで円の機動を始める。


「シュンやるわよ!」

「いつでもいいぞ!」


 ツァレーナは紐を持って先端付いている球形のブイを回し始める。


 中には能動式電磁発信機(アクティブデコイ)が仕込んであり、これで本命を引き寄せるのだ。


 空中に放り出されたそれ(・・)を、シュンは【飛行】で飛ばしながら中心に落ちるように方向を調節する。

 そしてそれは、目論見通りに泡立つ海面に落ちた。


「こんなもんかな?」


 シュンは思った通りの位置に落ちたのでホッとする。

 接近戦ばかりをこなしているので、距離感が必用になる曲射遠距離での投擲調整は苦手なのだ。


「ええ、上手くいったわ!」


 しばらくはシュンとツァレーナも加わり、スクアーロの討伐戦が繰り広げられた。



 艦の煙突から黒い狼煙が上がった。船体のスピーカーからサイレンが流れる。

 目標が予定通りに出現したのだ。


「接近中か……。来たわね、本命が!」

「うおっ!」


 船の下を巨大な黒い影が横切って行く。あまりの大きさに、シュンは思わず驚きの声を上げた。


 ゆうに二百メートルはある揺らぎが音もなく船底を潜り抜ける。


「おいおい、なんてデカさだ……」


 あんなのに襲われたら小型の水雷艇(コルベット)などひとたまりもない。

 ツァレーナは戦闘準備の合図とばかりに抜剣し、シュンもそれに続いた。


 三艦隊の中心部の海面が泡立ち、丸太のような触手が何本も海面から現われる。

 吸盤のあるそれには何匹ものスクアーロが張り付いていた。


「スクアーロもヤツとってはただのエサなのよ」

「食欲旺盛だな」


 リヴァイアサンの上の上。シュンが初めて見るクラーケン。

 それは(タコ)の怪物で、海上をうねる触手はゆうに十五本は超えている。


 (タコ)は古来船乗りから悪魔と恐れられていた。

 ただしそれは所詮伝説の存在だ。


 しかし生物兵器となり、この軟体生物は進化を果たす。

 巨大な鉄船すらも海中に引きずり込むクラーケンは、本物の悪魔になったのだ。


「これで、しばらくタコは食えないな……」

「冗談を言う余裕があるなんてね」

「まあな」


 ツァレーナは呆れたように言うが、シュンにとってこの大きさは冗談にしか見えない。


「さあ、行くわよ!」

「おうっ!」


 甲板(デッキ)から矢のように飛び出した二人は、左右に分かれつつ飛ぶ。


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