表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/76

第一八話 「海洋の悪魔」04

 シュンは切っ先から【切断】をより鋭利に伸ばし、叩きつけるのではなく引くように触手を切断する。


 そのまま通り抜けてから、引き返しつつ二人は上下で交差した。

 そして同様の攻撃を再度繰り返す。


「これで四本!」


 切られた触手は海面を漂い、それにスクアーロが群がり食いちぎる。

 今の海は恐るべき弱肉強食、生存競争の場だ。

 人間でこの場に介入出来るのは、戦闘種たるシュンたちだけだった。


 (フネ)に戻ったシュンとツァレーナは少しの間、戦況を見守る。



 シルヴァーノが指揮する第三艦隊から、再びバラバラと【炸裂】爆弾の攻撃が加えられる。

 遠距離を飛びクラーケンを包囲するように着水した。


「あいつ、水中深くには潜らないのかな?」

「エサは水面近くだし、私たちのことはさほど脅威と思ってないのよ。切られた触手は再生するしね」


 くぐもった轟音と共に水中炸裂が連続して起こる。

 水面に跳ね上げられた、クラーケンの頭部が見えた。


「倒せるのか?」

「あの頭を破壊すればね」

「上手くいくかな……」

「もう一度行くわよっ!」


 シュンたちは再度同様の攻撃を加えて、更に触手四本を切り飛ばした。

 そして上昇し、水面を見下ろす。


 シルヴァーノの水雷艇(コルベット)から再びの投擲、続いて炸裂。


 水面からクラーケンの頭部が顔を出す。

 そして確認出来る触手はまだ七本が残っていた。


「やるか?」

「ええ!」


 先にシュンが降下して触手を牽制しつつ戦い、二本を切り飛ばす。

 攻撃を【障壁】で食い止めつつ、更に一本を切断した。


「いけるぞっ!」


 頃合いとみたツァレーナが、剣を突き出し猛烈な降下を開始する。


【飛行】のスキルを全体にまとい、切っ先に【衝撃】を集中させ全身を一撃そのものに変えたような攻撃だ。


 突出させていた剣を腰だめに引いて丸い頭部に激突する。

 クラーケンの【障壁】が閃光となった中、ツァレーナの剣と【衝撃】は完全に阻まれていた。


「くっそっ、このーっ!」


 ツァレーナは少々下品な絶叫を上げ、二度三度と剣を振り下ろしす。

 しかしクラーケンの頭部は全く動じない。


 しまいには特殊鋼、合金鉄鋼の剣がまるでガラスのように砕ける。

 何か独特の【障壁】のようだ。


 排除しようと襲いかかる触手を払いながら、シュンは叫ぶ。


「やはり一人では無理なんだ! 二人でやるぞ!」


 そう言いながら邪魔をする触手を切断する。

 これは予め決められていた次善の策だ。

 

 攻撃の手段を封じられたツァレーナはあきらめて飛び上がる。


「来いっ!」

「ええっ!」


 シュンの剣をそれぞれが両手で握り、二人で【衝撃】を切っ先に込めた。


 襲い来る触手を【移動】でかわして一度上昇していから、再び降下に移る。


 クラーケンの頭部が怪しく光り【障壁】が展開した。


「行くぞっ!」


 シュンの剣で二度目の激突! しかし光の中、攻撃はまたも阻まれる。


「クソッたれクラーケンめーーっ!」


 シュンもまた少々下品な雄叫びを上げた。


 渾身で【衝撃】の力を上げると、剣の先端が【障壁】を食い破り本体に突き刺さった。


「もう少しだ!」


 そう言って気合いを入れると、剣はズブリと更にめり込んだ。

 世界中でこれほど調理しにくいタコはいないだろう。


「後は任せて!」


 ツァレーナが【炸裂】のスキルを注入し、シュンは触手攻撃を【障壁】で阻む。


「終わったわ」

「よしっ!」


 二人は飛び上がろうとするが、手元が動かなかった。


「剣が抜けない! くそっ!」

「手伝うっ!」


 再生を始めたクラーケンの肉が盛り上がり、傷口を塞ぐがごとくに剣を覆い始める。

 これがベヒモスの再生能力だ。


「くそっ――」


シュンたちは渾身の力で剣を抜こうとするが、まるで巨岩に突き刺さり何千年も主を待っているがごとく微動だにしない。


「あきらめよう。逃げるぞ」

「待って、もうちょっと――」

「ダメだ、ダメだ! 行くぞ!」


 シュンはツァレーナの脇を持ち上げて、二人は空中に待避する。


「剣が……」

「よせっ!」


 シュンは水面に手を伸ばすツァレーナを制した。


「でも」


 クラーケンは剣と共に海中に沈んで行く。


「いいんだよ、もう……」



 海面が異様に盛り上がる。

 ツァレーナが仕込んだスキルが【炸裂】したのだ。


 そして青い海が更に青く染まった。


 そこにスクアーロが群がり海面に水しぶきが上がる。


「あの剣は?」

「父親の形見さ……」

「なっ! そっ、そんな……」


 ツァレーナは絶句して下を向く。


「あの惨劇の――。ごめんなさい……」

「君が悪い訳じゃあない。憎むべきはベヒモスだよ」

「私が誘わなければ……」


 一筋の涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。

 ツァレーナは心の底からシュンに詫びている。


 一滴(ひとしずく)は風に吹かれながら、泡立つ海面に消えた。


「いいのさ……」


   ◆


 引き続き残敵掃討のごとく、艦隊はスクアーロの群を殲滅する。


 第一艦隊の旗艦、巡洋艦(クルーザー)のマストに白い旗が上がった。

 作戦終了の合図だ。

 艦はそれぞれにカンパーニの港に舳先を向けて陣形を整える。


 最後尾はやはり軍の戦闘種が乗り込む第一艦隊だ。

 リヴァイアサンの追撃があった場合撤退を援護する殿となる。

 しかしもう、それはないだろう。


 彼らは撤退戦用の戦力を温存したままで警戒に当たっていた。

 二名の戦友を失ったが、シュンたちが仇をとった。



 クエストは終り、冒険者たちは皆、笑顔で下船する。


「これからカンパーニのギルドで精算よ。軍の予算で酒場を予約したらしいわ」

「大袈裟だなあ」

「それだれ厄介な相手だったのよ。外洋に居座るあのクラーケンに、船乗りはどれだけ気を使っていたことか……」

「なるほどね」


 一人カヤの外だと感じていたシュンは、部屋に戻ろうかと思ったが参加することにした。


 シュンは昨夜使った部屋に今夜も宿泊する予定だ。

 他の街からクエストに来る冒険者の為に、ここのギルドには宿泊施設が併設されている。


 報酬はけっこうな額になった。

 いつもレアクリスタルを換金するシュンには、海に沈んだ獲物で金がもらえることに、ちょっと違和感がある。


「俺が割り込んで皆の報酬は減ったのかな?」


「そんな心配は無用よ。あのタコモドキは第二作戦で処理する予定だったの。今回の作戦で済ませたから経費が浮いたって、ギルドは喜んでいるわ」

「そうか」



 食事をして、そこそこ飲んだシュンは早めに部屋に引き上げる。

 明日も村を見回るから早めに寝ると小さくツァレーナに告げた。


 街の冒険者たちは、忌まわしいリヴァイアサン討伐を心底から喜んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ