第一七話 「孤児院での暮らし」01
シュンが十三歳だったあの日。
ランツィアでの惨劇の翌朝、急報を聞きつけた街のギルドは冒険者たちを緊急投入した。
集会所兼ギルドの倉庫からはタンカが運び出され、怪我人が運ばれ遺体が収容された。
森全体に広がっていた小物のベヒモスは駆逐されつつ、各場所の火災も鎮火した。
火勢が消えた森では、カンパーニ・ギルドの冒険者チームが慎重に索敵を行った。
もし街に向かったのなら大事になるからだ。
しかしあの黒い大蜥蜴を、見つけることは出来なかった。
流れのベヒモスもたくさんいた。
ベヒモスなりに安息の地を見つける為に、常に移動している場合もある。
獲物を求めて長距離を移動するのもまた、生物兵器の本能だ。
シュンは一人、家で両親の遺品を整理する。
死に装束に着替えた二人は、今は村の共同墓地で眠っていた。
井戸から水を汲み、血の付いた洋服を洗って干す。
母の髪飾りや父のナイフなどの、泥と汚と血を洗い流し布で拭った。
「くそ、くそっ。くそーーっ……」
シュンは父の形見の剣を抜く。森の深部で探索隊が発見したそうだ。
それはギルドの職員により綺麗に磨かれていた。
あの化け物の体毛の欠片、血液を採取して分析する為だ。
ベヒモスの貴重なサンプルだった。
剣を鞘に戻して腰に装着するが、明らかに体格に比べて大きい。
いずれこの剣を使いこなし、そして必ず仇を取るとシュンは歯を食いしばる。
「殺ってやるぜ……」
◆
そしてシュンには更なる別の戦いが待っていた。
孤児院での、貧乏でひもじい生活の始まりだった。
「でも本当に良いの? ここはシュンの土地なのよ」
実家の畑でシュンとマヤの二人は野菜を収穫する。
「良いに決まっているよ。施設の皆は兄弟、家族なんだから」
マヤは遠慮しているが、ここの畑は孤児院の管理にするとシュンは決めた。
父のシッドと母のエイシラなら絶対にそうするとシュンは思った。
ただマヤが母親なのは、さすがにどうかと思う。
勢いで頷いてしまったが、やはり兄妹あたりが適当だろう。
村の犠牲は大きかったが、ジョルジュや他の村人たちも時間を見つけては、この畑を手伝ってくれていた。
こんな時こそ皆で助け合わねばならない。
二人でクワを振るって野菜の苗を植えた。
続いて地中で保存していた作物を収穫する。
両親が育てた形見の芋もこれが最後だ。
「腹が減ったなあ……」
「帰ったらすぐに夕食の支度をするわ」
今夜の夕食は調達した野菜を、皆で分け合って食べる。
食料の不足は常で、施設の子供たちは年中ハラを空かせていた。
まだ子供のシュンから見ても、孤児院の経営はギリギリだと分かった。
村人たちから食料の支援などもあるが、街の行政からの支援、肝心の現金はシュンたち年長組の授業料に消えてしまう。
総勢十八名で食事を始める。
マヤがいつものおぶっている赤ん坊は、村の女性がお乳やりの手伝いに来てくれていて、今は別室で食事中だ。
「ねえ、シュン……」
隣で食事をしていたマヤが身を寄せてささやく。
「明日は森に入るの?」
「うん、畑仕事の前に罠を仕掛けた。朝からそれの回収だよ」
「私も行くわ。山菜を採りたいの」
「分かった」
他の小さな子供たちに聞かれたら、連れて行ってとせがまれる。
シュンたち年長組は生活の為の貴重な戦力なのだ。
学校が休みの時の日課である。
◆
まだ皆が寝ている早朝、二人は目立たないように施設を出て裏手の小屋から籠を出して背負う。
森にはベヒモスもいるが、浅い部分に入るくらいならば許されていた。
ただし必ず二人以上で、と決められている。
何かあった場合は一人が救援を求める為だ。
「やった!」
一カ所目の罠、ワイヤーには兎かかっていた。
シュンは父に技術を教わり何度も二人で罠猟にも出たし、仕掛け造りを手伝ったりもしていた。
「凄いわ、シュン!」
「うん!」
シュンは素早く形見のナイフを抜いて、もがく獲物にトドメを刺す。
苦しみから早く解放してやのだ。
マヤと共に生きる為だ、と自分に言い聞かせる。
血抜きの血管を切り、細いロープで手近な枝に吊す。
罠を撤去して兎の暴れた後に落ち葉を散らした。
そして近くの獣道に再び罠を仕掛ける。
猟が出来るのは学校が休みの三日間しかない。
残りの狩り場四カ所を回り、同じことを繰り返す。
成果は三羽になった。
その間マヤは近くで山菜を見つけては摘んだ。
次はマヤの案内で穴場に行き山菜の採取をする。
二人の籠に山盛りを採り施設に戻った。
「今日は街に行った方がいい?」
「ええ、パンがもう少ないのよ」
「分かった」




