第一六話 「ランツィア村」03
ギルドに戻ると村人冒険者たちがシュンを出迎えてくれた。
「たいしたもんだなあ……」
「ああ、さすが最強だよ」
その言い方に嫌味はなかった。
むしろ表情からは誇らしさも感じる。
あの日泣いていた少年が最強となり、村に凱旋したのだ。
上の下のバルトアンデルスを瞬時に屠り、村周辺を一気に索敵する力。
これが最強の力だ。
クエストは解散となり皆は農作業へと戻って行った。
「シュン、街で手に負えないクエストがあれば受けてくれるか?」
「もちろんです」
シュンはツァレーナの顔を思い出す。
今頃は海洋クエストの真っ最中だろう。
ジョルジュは陸の担当で、軍がらみの話でもあるからこのクエスト話は知らないようだ。
シュンとしても余計なことはしゃべれない。
ジョルジュはカンパーニのギルドへ報告に向かった。
◆
シュンは何の気なしに、実家へと足を向ける。
この道は学校からの帰り道にいつも駆けていた道だった。
シュンが生まれた家が見えてきた。
畑はよく手入れされ、施設で食べる様々な野菜が実っている。
鶏小屋は静かだ。
鶏たちは惨劇の後、シュンと共に施設の小屋に移っていた。
「ん?」
窓という窓が開け放たれ、カーテンが風になびいているのが見えた。
住人は、今はもういない。
おかしいなと思い、シュンはそっと玄関の扉を開ける。
「あら、シュン。早かったのね。もう仕事は終わったの?」
中で掃除をしていたマヤが振り向く。
「驚いたな……」
「そう?」
「昔のまんまだよ。よくもここまで……」
シュンは懐かしく部屋の中を見回す。
まるであの日、あの夜のままの部屋が出迎えてくれたようだ。
三年前までは生活に忙しく、シュンがこの家を顧みることはなかった。
「週に一回は掃除をして空気の入れ替えもしているの。いつでも住めるわよ」
「うん、ありがとう。本当に……」
シュンは素直に礼を言う。
室内は本当にあの日の、そのままのように感じた。
父と母の寝室に入った。
あの惨劇の夜、二人が寝ていた場所だ。
シュンはマヤに寄り添った。
後ろからそっと抱きつく。
「あら、またあの日みたいに泣くから抱きしめて欲しいの?」
「ああ、欲しいよ。本当に――欲しい……」
「少し時間があるから……」
子供たちは学校に行っている。
昼食の支度にはまだ時間がある。
シュンとマヤはしばし二人だけの濃密な時を過ごした。
◆
二人は手を繋ぎながら家を手出て、人目をはばかりつつその手を放す。
関係は秘密でもなんでもないのだが、シュン、マヤ共に何となく公にもしない。
「子供の数は増えているんだな」
施設に向かいながら、シュンは昨日の話を蒸し返す。
「ええ、建物を拡張する話もあるのよ。行政もやっと院長先生を認めつつあるという感じね」
「ふ~ん……」
サンドリオに来る若い冒険者たちの中にも、孤児院のような施設を飛び出して来る子供もチラホラといる。
都会の施設は何かと問題があるのかもしれない。
ここから逃げ出した子供は、シュンの知る限りいなかった。
「最近は一週間単位で街から手伝いに来てるくれる人もいて、そんな仕事を目指す若い人もいるのよ」
「ほ~……」
それは世の中が少し落ち着いてきた証拠だった。
◆
午後、マヤは夕食造りを手伝い、シュンは子供たちの相手をする。
「あなたがシュン~?」
「そうだよ~」
可愛らしい女の子だ。
シュンは相手の年齢に合せつつ返す。
「マヤといつ結婚するの~?」
「う~ん……」
とごまかす。
女の子は小っちゃくても、やはりその辺りに興味を持つようだ。
「待ってるよ~」
「そっ、そうか……」
子供の質問は容赦がない。シュンはドキドキする。
「シュンはどれぐらいベヒモスを倒したの?」
次は男の子の質問だ。
話題が変わりシュンは胸を撫で下ろすが、難しい質問に何と答えようかと考え込む。
「う~ん……」
また「うーん」が出てしまった。シュンとて数など数えてはいない。
「一、十、百――たくさん! だな」
「な~んだ。知らないのかあ」
シュンを取り囲んでいる子供たちは笑った。
「仲間と一緒に戦っているんだ。自分一人で倒した数は少ないんだよ」
「ふ~ん」
「仲間は大切だよ。今ここにいる皆も仲間だ」
「うん!」
あの日、マヤがおぶっていた女の子が一番後ろで、目を輝かせて話を聞いている。
もう九歳になったマヤの娘だった。
今はマヤの後を継ぐと言い張っているそうだ。
それ以外に、三年前にシュンがサンドリオに向かったあの日に、シュンを見送ってくれた子供は半数ほどだ。
数は、今は養子として立派な家庭に迎えられたのだろう。
現在の人数はゼロ歳から五歳が十五人、六歳から十歳で六人。
十一歳~十三歳が三人。
それに二十一歳のマヤが一人であった。




