第一五話 「ランツィアの惨劇」03
シッドは先行しつつ、消火作業の妨げになる小物のベヒモスを狩りまくった。
中には【発火】のスキルより、上位の【火炎】を使う個体もいたが、それは弱々しく山火事を起こす程度がせいぜいの力だ。
本物の【火炎】は村をまるごと瞬時に焼き尽くす。
散発的に現われるベヒモスをなぎ払って一掃する。
【切断】をまとった剣で燃える枝をまとめて払い、【衝撃】で燃えさかる大木を打ち倒す。
シッドは前方を【探査】で睨みつつ、ジョルジュの一団と間隔を保って進んだ。
「ん?!」
ジョルジュたちが戦闘を開始する、複数のスキル行使が感じられた。
どうやら一体の相手を包囲しているようだ。
シッドはチラリと後ろを振り返る。
消火作業は順調で火勢は収まりつつある。
燃える木はあらかた切り倒され、大きな火種には水がかけられていた。
そして先発隊を助けようと【移動】を発揮したその刹那!
「うおっ!」
炎のオレンジ色に染まる森の空間に、突然ぼんやりと闇が渦巻いた。
シッドが急制動をかけて飛び退くと、それは横に滑りながら黒い巨体となる。
「なっ、なんだ!」
それはフェルテであった。
蜥蜴の頭部と前足を持ち、後足は馬の蹄に長く太い尾を持つ黒いベヒモス。
「こいつは! いつの間に?」
サイズからしてAクラスか、AAクラスまでに位置づけられる強敵だ。
瞬時に位置を変えた黒い巨体に、シッドの背中に冷たいものが走った。
「【移動】――なのか?」
シッドも【移動】で謎の強敵と距離をとる。
現われた方向からすると、先行するジョルジュたちと接触したはずだ、と思いつつ牽制の為に【切断】を飛ばした。
しかしそのフェルテは、【障壁】をまとった黒い体毛でそれをやすやすと弾く。
この程度の攻撃ではまったく歯が立たない。
「くっ!」
そして再びぼんやりと闇が渦巻き、このベヒモスは姿を消す。
ただのフェルテではない。
何か特別な力を持っている個体。
探査の力も発揮されなかった。
こいつはいつもの森にいるCクラス程度とは格が違う。
なによりその体躯と体に刻まれた無数の傷が歴戦を物語っていた。
そして振り向くと、再びその姿を現す。
状況は最悪だ。
シッドは直感的にそう思い、剣を両手で握り直して身構えた。
そして脱出路を考える。
互いに睨み合う静寂に、炎に炙られる木々が弾ける音が重なった。
「父さん! 水を持ってきたよ。もう火は収まりつつあるって……」
シッドの内心で悲鳴が上がった。
こんな時に――と。そして【移動】のスキルを使い、瞬時にシュンとフェルテの間に割って入る。
「逃げるんだ! シュンっ!!」
「わっ――わかったよ!」
「村の皆もだぞ!」
すぐに状況を理解したシュンは村に向かって駆けて行く。
シッドはフェルテに動きがないので胸を撫で下ろした。
続いて、西の先から猛然と【移動】スキルで接近する冒険者を感じる。
鬼のような形相のジョルジュだ。
シッドは前方の状況がどうだったのかを察する。
しかし怒りにまかせての戦いは、自身の足元をすくいかねない。
「落ち着け! ジョルジュ!!」
「ぬおおぉぉっ――!」
正面からぶつかると思われたジョルジュは更なる【移動】で軌道を変え、フェルテの側面にぶつかった。
突き出されたフェルテの左手と、剣から発するスキルが反発し合って閃光を放つ。
シッドはチャンスとばかり、背後から斬りかかった。
実剣でなければ効果は薄い。
しかしフェルテは右手の凶悪な爪を突き出してそれを阻む。
「仲間が殺られたっ! コイツは何なんだ?」
「敵だよ! 強力なっ!」
ジョルジュとシッドはそう叫んで、その黒い敵から間合いをとった。
すでに犠牲が出ているならば、もう援軍は望めない。
定跡通り喉元の弱点を狙うジョルジュを助ける為に、シッドは背に向けてスキルを放ち続けた。
二人掛かりの攻撃を繰り返すが、フェルテもまたスキルを発揮して防御と攻撃を返す。
「ならっ!」
シッドは【飛翔】で浮かび上がり頭部に剣を繰り出すが、長い尾が波打ち側面に飛び退く。
「くっ……」
そしてまたしてもあの闇が渦巻いた。
フェルテがかき消える。
「この力だ――!」
ジョルジュは姿を探すように周囲を見回す。
「――これで仲間が殺られた!」
突如として現われる実体を警戒して、シッドも背後を警戒する。
そして森の奥に現われた闇は、滑るように離れて行った。
「ヤツめ! 村に向かったのか?」
「ああ、戻ろう!」
シッドはそう答えて村へ向かって飛び、ジョルジュもそれに続く。
眼下の森に炎の中を疾走する黒い巨体が現われた。
二人はフェルテを挟み込み攻撃を加えるが、敵は右に左に蛇行しながら村を目指す。
「先行するぞ! 村人が危険だ」
「頼むぞ。俺はこいつを――」
ジョルジュは剣を振りかぶりスキルを溜める。
「――足止めするっ!」
そして側面に斬りかかるが、フェルテの足は止まらない。
シッドは速度を上げ、家族の元へと急いだ。




