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第一五話 「ランツィアの惨劇」02

 静かな夜だった。

 風の囁きも獣の唸りも皆無の漆黒が、ただただ広がるだけの夜だった。


 その日の深夜、森の奥でチロチロと発した赤い鬼火は拡大し、それは広範囲に広がり始める。


 森との境界線に設けられている、高い木々を利用した木造の物見塔。

 そこで寝ずの番をしていた村の冒険者がその異変に気が付く。


 そして意外に近い出火場所とその数に驚き、吊されている鐘をけたたましく打ち鳴らした。


 地上の監視小屋で仮眠とっていた、もう一人の冒険者が慌てて飛び出す。

 木の上から怒鳴るように状況が話され、それを聞いた冒険者は何度も頷いてから村へ向かって走った。



 外に飛び出してきた村人たちは、幸いに風もない夜なので胸を撫で下ろす。


 そして消火に使う道具を持ち出して、村の集会所兼、冒険者の詰所へと向かった。


 シュンの家族も鐘の音で飛び起きた。ベッドから出て居間に行くと、父が外に出て母はシュンに駆け寄る。


 頭上には若干欠けた月が、明るく輝いていた。足元は明るい。


「ちょっと森の奥が明るいな! 火が出たようだ」


 父親は暗闇に目をこらしながら言う。

 子供であったシュンだが、この村で生まれ育ったのですぐに状況を理解した。


「お父さん、僕も行くよ!」

「うむ、道具を持ってギルドに行こう」


 ギルドとはただの集会所、詰所に使われているボロ屋なのだが、元冒険者たちは敬意を込めてそう呼んでいた。



「おおっ! 来たか……」


 駆けつけたシュンたちに気が付いたジョルジュが声を上げる。


「どうだ、状況は?」


 未だ現役である冒険者のジョルジュを取り囲んでいた村人たちは、シッドの為に場所を空けた。


 シッドは息子、シュンの誕生を機に冒険者を引退した。

 若い者たちに獲物を譲る為と、農作業に集中する為だ。


 今はもう農民で生きようと決めていたが、その実力はジョルジュに勝るとも劣らないと皆は知っている。


 シュンはそんな父を尊敬の眼差しで見てから、隣に立つ母の顔を見上げた。

 視線に気が付いたエイシラは微笑み返す。


「出火元は広範囲に拡大している」

「なんだと?」


 唸るジョルジュに、シッドはまずいとばかりに聞き返す。


 今の時期は空気が乾燥しているが、先週は少量ではあるが雨も降っている。


 拡大している理由はただ一つだった。

 【発火】又は【火炎】のスキルを持つベヒモスが、時折こんな山火事を起こすのだ。


「一つ一つはたいした炎ではない。小型が悪戯をして回っているのだろう」

「ああ、しかし広範囲とは――。上位種のベヒモスにでも追われているのか……」


 ジョルジュ、シッドは共に何度も共同でクエストをこなした仲だ。

 意思の疎通と今後の対応も早い。


「俺が数人率いて火元を追跡する。他は消火に回す」

「俺は消火班を見て回るか……。ジョルジュの後方を処理しつつ進もう。危険が少ないからな」


 消火要員には(スキル)のない村人も混ざるので、注意しなければならない。


「頼む。剣を持ってきたのか」

「もちろんだ。森の中に入るんだからな」

「助かるよ」


 短い対話でジョルジュが原因の追跡、シッドが消火と対応は決まった。


「よし戦える者は武器を取って俺に続いてくれ! 火元の西から東へと向かうぞ!」


 ジョルジュたち、普段からベヒモスを掃討している村人の冒険者、元冒険者たちは一団になって森へ向かって駆けて行った。


「俺たちは消火だ。男たちは木を切り、枝打ちして延焼を防ぐ! 女と子供はバケツで水を運んでくれっ!」


 森林火災への対処法は予め決められ周知されている。

 森の恵みはランツィア村の糧でもあった。



 森の近くには農作業にも使える井戸が、いくつか掘られている。


 シュンたちは村中から集めたバケツ、容器に水を汲む。

 そしてそれを消火に当たる最前線へと運ぶのだ。


「シュン、待って!」

「いけねっ!」


 立ち止まったシュンにエイシラは頭から水をかけた。


「気を付けてね」

「うん」


 シュンは両手にバケツを持って森の中を、炎の明かりに向かって急いだ。


 そして大人の指示で、水を無駄にしないように燃える木々にかける。

 周囲には火の粉が渦を巻き、熱風の中を皆が必死で作業を続けている。


 先ではシッドが剣を振るって、小物のベヒモスと戦っていた。

 やっぱり、と思ったシュンはカラのバケツを持って井戸に向かって走る。


 あれくらいなら父は大丈夫、と思いながら。

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