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第一四話 「帰郷」01

 シュンは大きなバッグを背負って片手に酒瓶を持ち、レイキュアは両手で大きな花束を抱えていた。


 二人は朝から連れだって北城塞グロッセナを出る。

 馬車に乗り城塞都市サンドリオに着いてから、南門を抜けて街道を歩いた。


 大通りの左右には商店や宿屋、オフィスとして使用されている建物が建ち並んでいる。

 その奥には高い城壁が立ち、上部通路を警備の冒険者が歩いていた。


 この賑わう通りが南城塞カプラータなのだ。


「ここまで来るのは久しぶりよ。いつ以来かしら? 前にバーゲリニアに行ったのは……」


 レイキュアはそんなことを言って、花束を抱えたまま空を見る。


 つられてシュンも晴天を見上げた。

 それは戦いに敗れた冒険者たちが地べたに倒れ、最後に見上げる空と同じ色だった。


 二人は街道を逸れて、綺麗に整備された公園に入る。

 そして端にある石碑の前に立った。


「見ろよ、とっておきの酒だ。二十四年物のウィスキーだぜ」


 シュンは誰かに語りかけるように話した。

 そして酒ビンを開けて人の高さほどの碑に少量かける。


「ご無沙汰しちゃって、ゴメンね……」

「ああ、俺たちは薄情者だな」


 シュンは冗談ともつかずに言い、そしてビンの栓を閉めて碑の前に置く。


 残りは今夜にでも、警備業務に就いている冒険者たちの胃袋に収まるはずだ。


 この慰霊碑は街が作られていた時に、この場所に横たわっていた岩の欠片(かけら)を立てただけだと言われていた。


 この街の創世記から、冒険者たちを見続けている岩だ。


 ここはこの地区で死んだ者が最後に行き着く場所、共同の墓地であった。


「おっちゃん……、スケラーノを倒したぜ。(かたき)はとったよ」


 仇とは目の前で眠る師匠だけではない。

 シュンはヤツ(スケラーノ)がこの街に来て屠った、全ての戦闘的冒険者(ウォリアー)たちの仇を討ったのだ。


「そして私たちはまだ生きている……」


 そう言ってレイキュアは花束を碑の前に置く。


「そうだ。死んだ仲間たちの為にも、俺たちは生きなければならない!」

「ええ」

「しばらく留守を頼むよ。レイキュア」


 そう言ってシュンはレイキュアに向き直る。


 いつもの闊達さは鳴りを潜めて、瞳は憂いを帯びていた。

 ここにはスカーレッドの先輩たちも、何人か眠っているのだ。


「大丈夫よ。ブレイソンにはヒュミユとクーリアの二人を張り付けるわ。私の命令でね」

「助かる」


 レイキュアにはそれだけの権限を委譲してある。

 それ故のリーダー代行だ。


「ムチャはさせないから。アルバーはカノーアと一緒だし、彼は堅いから元々安心ね。商売の件も、先輩たちに聞いて気を配るわ」

「レイキュアには昔から助けて貰ってばかりだよ。なあ、おっちゃん。また、笑ってくれよ。なあ……」

「笑ってるわよ。いつものようにね。シュンは~、とか言って……」

「そうだな――」


 シュン! 仲間を作れ。

 それが冒険者の楽しさ、戦闘種の生きる道さ。

 ランキングなんてクソ食らえだ。


 そう言って笑っていた師匠はもういない。


 「――本当にそうだ。なあ、おっちゃん……」


   ◆


 慰霊公園でレイキュアと別れたシュンは街道に出る。

 少し歩くと乗り合い馬車のターミナルがあり、旅行者や仕事で移動する人が大勢いた。


 南城塞プラータは、新都市バーゲリニアから延びる幹線街道の警備に存在するような街だった。

 警備にあたる冒険者の姿が幾人か見える。


 シュンは一番安いチケットを買い、ボロい馬車に乗り込む。

 文字通りに本物の馬一頭が引き、運転手ならぬ御者、操車が一人乗っていた。


 そして車体には小さな補助用の旧式内燃機関が付いている。

 ベヒモスを呼び寄せない為にはこの程度の技術までが限界範囲なのだ。


 客が乗り込み発車時間となった。

 馬車はゆっくりと動き始める。

 軌道(レール)が敷かれ、軽合金の車輪にはサスペンションもあって乗り心地は意外に悪くない。


 城塞が終り景色は農地となった。

 所々の道端には冒険者たちが詰めている監視小屋があり、戦闘種が立っている。


 この街に来た初心者の戦闘種は、最初この街で街道護衛の仕事に従事する、などが多かった。


 引退して年をとった冒険者と少年の冒険者が並ぶ姿は、どこかのどかで牧歌的ですらある。


 シュンやリスティなどはいきなりグロッセナ、最大の激戦地に来た。


 まだシュンが田舎街の森でベヒモスを狩っていた年頃で、街に来たリスティはたいしたものだ。

 なんとなく馬車からの風景を見ながらシュンは思う。


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