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第一四話 「帰郷」02

 新都市バーゲリニアは近代的な街だ。

 それでも回顧趣味の人々は建物の意匠をあえて古くし、戦争で消失した伝統的な風景を思い出す。


 行政上の扱いは市の単位で、人口は一万ほどになる。

 サンドリオまで続く道の左右に広がる農地、牧草地から得られる物資を、港から各地に輸送していた。


 この地域までベヒモスやジズの脅威は滅多に及ばない。

 しかしそれでも高層建築物の高さは、十階建程に抑えられている。


 電気、通信などのライフラインは全て地下に埋設されている。

 電線や機器類は強固にシールドされ、街で電波の使用は厳禁だった。


「何か食うか……」


 そう呟いてから、シュンは目に付いた屋台に座り、バゲットのサンドイッチを頬張ってお茶を飲む。


 次に、以前に利用した安宿にチェックインして買物に出掛けた。


 そして子供たちへの土産を買う為に古本屋を回る。

 これがマヤに一番喜ばれるのだ。

 幼子用の絵本から、大人も読める小説までまんべんなく購入する。


 戦争時における出版の生産調整はゆるくはなったが今でも引き継がれ、本の購入スタイルはこれが普通だった。


 現在、生産資源の分配は人が生きる為に必用、の順に割り当てられている状態だ。


 シュンは何件かの店を回って、お目当ての本を見つけてはバッグに詰め込む。


「こんなモンか……」


   ◆


 翌朝、シュンは早起きして港へ向かった。

 旅客ターミナルの窓口でスケジュールを確認して、三等のチケットを買う。


 係留されている鋼鉄の小型貨客船は荷を積み込んでいる最中だ。

 チケットを係員に渡し、番号札の付いたキーを受取って、タラップを駆け上がる。


 重油焚きの蒸気タービン――、外燃機関に帆を三枚持ち、船を引くパラシュートを展開することも出来る船。


 海の脅威、魍魎(リヴァイアサン)は大型の海洋生物のごときに巨大化するので、電磁波を極力発生させない為に一般船の技術はここまでが限界だった。


 大海原を縦横無尽に駆ける巨大船団を持つ海洋国家など、今や夢物語になっていた。


 シュンは船底にある雑魚寝の三等広間に下りる。

 指定のロッカーを開けると毛布と枕が入っていてた。

 シュンは中に荷物を入れて施錠する。


 観光シーズンでもないので船の中は閑散としていた。

 ゴロリと横になったシュンは天井を見上げる。


 思えば何もしなくて、何も考えなくて良いなどはいつ以来だろうか? ガラにもなくそんなことを考えてしまう。


 三年間、行動してよく考え、そしてまた行動する忙しい毎日のシュンであった。


 少しウトウトしている間に、船は離岸して外洋に出港する。


「ふう……」


 シュンは頭を掻いてから眠気を覚まして、久しぶりに海を眺めようと甲板に上がる。

 現在、大海原を支配しているのは人間ではない。水性の怪物魍魎(リヴァイアサン)だった。



 右手に陸地を見ながら船は沿岸部を進む。

 シュンは反対のベンチに座って水平線に望んだ。


 眺めるだけなら平和な海であるが、遠洋には害敵が蠢き特殊な装備がなければ安全な航海は望めない。


「あら、こんな所でこんな(・・・)意外な人物に会うとはねえ……」


 シュンは自分のことかと思い、その声の主を振り返る。


 銀色で肩まであるストレートヘア、同じ色の瞳は改変遺伝子の明かしだ。

 何よりその姿は冒険者そのものだった。


「俺のことか?」

「ええ、北城塞グロッセナ、最強の戦闘的冒険者(ウォリアー)

「知っているのか?」

「私はツァレーナ。大進行では挨拶も出来なくて申し訳なかったわね。西城塞ラヌゼルダの最強よ」

「! あんたが、か……」

「そうよ! よろしくね」


 東の最強シーザリオにも驚いたが西の最強は女なのだ。

 あの時は激戦が続き、西の戦闘的冒険者(ウォリアー)には直接会うことはなかった。


「シュンだ。こちらこそよろしく」

「隣、良いかしら?」

「ああ」


 ツァレーナはちょこん、とした仕草で隣に座った。

 そしてシュンの顔を覗き込む。


「あの街の最強が二人も不在なんて問題なんじゃないかしら? 私はギルドに許可をもらって来たけど……」


「問題ないよ。北は入れ替わりが激しいから。俺は今やランキング三位の元最強さ。休んでる間に順位はもっと落ちるだろう」

「西も似たようなものね。三人で輪番制のような感じ」


 つまり実力伯仲が三人いるのだ。

 北の城塞グロッセナより事情は簡単だ。


「東城塞クレモンテにはシーザリオがいる。全体でみれば戦力はたいして変わらないよ」

「そうね。あの力はちょっと特別よね」


 大進行の時、ツァレーナは壁外で遊撃戦を展開していた。

 東に西にと、シュンたちと顔を合せる間もなく飛び回っていたそうだ。


「思えば私たちも人間のベヒモスみたいなものねー」

「まあな、奴らを狩る為の力だ」

「戦争がなければ、私ってどうなっていたのかしら?」

「ははっ……、どうかな?」


 面白いことを言う戦闘種だ。

 父と母の出会いもなかったし自分は存在していないかもしれない、とシュンは思った。


「ところで、何でこの船に乗っているんだい? 俺は田舎に帰るんだが……」

「ふふっ、ランツィア村ね。私はカンパーニの出身なのよ」

「そうなのか!」


 カンパーニとはこの船の行き先の港街だ。

 中継港、漁港、軍港もありなかなか賑わっている。

 ランツィア村はそこから馬車と徒歩で更に半日程かかる。


「軍と共同で近海の魍魎(リヴァイアサン)を掃討するのよ」

「ほう……」


 軍港と言ってもせいぜい中型までの軍艦が駐留し、周辺の海や航路を警戒している。


「南城塞からは仲間が先発していたの。それで大進行があったでしょ? 私だけ足止めされてたのよ」


 シュンも聞いたことがあった。

 軍の要員で通常哨戒はやっているが、討伐には冒険者たちの力を借りるのだ。


 一応、旧式に進化(・・)した魚雷やロケット弾、砲口兵器で武装はしているが、戦闘艦の目は戦闘種(ウォリアー)の【探査】であり、攻撃の主力はスキルの【衝撃】【切断】だ。

 【飛翔】【飛行】持ちが搭載兵器となる。


「ねえ、手伝ってよ! 休暇はいつまで?」

「勘弁してくれよ。俺は海では素人だ。一ヶ月ほど休むが必用なら……」

「冗談よ。人手は足りているわ。南を助けてもらったしゆっくり休んでね」

「ああ、そうさせてもらうよ」


 陸地側に夕日が落ち始め風が出てきた。

 海は既に漆黒に染まっている。

 ツァレーナはなびく銀髪を手で押さえた。

 船が少し速度を増す。


「中に入りましょう。食事でもどうかしら?」

「ああ、もちろんさ」


 シュンとしても色々な情報交換ができるのはありがたい。

 休暇でもやはり仕事がらみの時間が続くようだ。

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