第十一話 「西への大進行」05
明日から、街に戻っている間の二日間は休暇とした。
若い奴らは疲れ、【回復】のスキルは使い切っていた。
「アルバー、ブレイソン。フィオーレに行こうか。打合せだ」
「分かりました」
「はっ」
シュンはレイキュアとカノーアにも声を掛けていた。
店には数人の一般の客がいたが閑散としている。
「参ったわ。冒険者は皆、出払ってるか疲れて家で寝ているのね。売り上げが激減よ」
「冒険者の懐は潤っているだろう。クエストが終われば、また大繁盛さ」
「まあね」
シュンたちはテーブル席に座り、レイキュアも隣に座る。
カノーアはビールを人数分運んでから座った。
皆で全員の無事を乾杯してから、シュンが話を始める。
「御苦労だったな。休暇は二日だけだが明日からゆっくり休んでくれ」
「あら、私たちはお店の仕事よ。ねえ」
レイキュアはそう言ってカノーアを見る。
「そう言うなよ。問題は二日の休みで皆が回復するかどうかだけど……」
「そうですねえ……、大丈夫だと思いますよ――」
アルバーが少し考えながら話を続ける。
「――デス・キャニオンの時は火事場のバカ力って言うか、何人か倒されて必死に力を振り絞りましたからね。今回はそれほどではありませんでした」
「はい、私もそう思います」
カノーアが補足をする。
デス・キャニオン撤退の戦いと、今回の戦い両方を体験した二人の意見が一致した。
「そうか」
「問題は、こんな終わりが見えない戦いがいつまで続くかです。それに――」
ブレイソンの疑問はもっともだ。
二日戦い二日休む。
このペースが何日も続けばいつかは力尽きる。
「――西のヤツらはなぜ門の外に出てこないのでしょうかね?」
「そうだな、初戦で大敗して戦力を消耗したのかな? 城壁の上にはそれなりの冒険者の数が見えたが……」
「そうですか、戦況が動くタイミングを見計らっているのかもしれませんね」
「うん」
「ランツィアはもう少し前線で戦う人数を増やしましょう。サービス部隊のベテラン冒険者たちはなかなか頼りになりますよ」
「前にも言ったが、拠点にベヒモスが向かったら俺が全速で飛んで戻るからそれでもいいかもな」
シュンはアルバーの意見に頷く。
「その時はブレイソン、お前が指揮をとれ。但し後ろにもっと気を配ってな」
「申し訳ありません。あの時はつい夢中になってしまって……、気を付けます」
「うん。アルバーはスカーレッドと後方についてくれ」
「分かりました」
「それにしても、敵が中や下のベヒモスばかりよね。大物がいないなんて、何でかしらね?」
「はっきりとした理由は分からないけど、森だって奥に行かなきゃ大物はいないだろ? デス・キャニオンでも俺の倒した大物の三体は入り口付近にいた。習性なんだろうなあ……」
レイキュアの疑問にシュンは持論を展開する。
「最初は群れの中間辺りに大物がいるかと思ったが、違うようだな……」
「三軍に分かれましたけど、一番得をしているのは後続に当てられた部隊って事ですか。ディボガルド辺りがポイントを稼いでますかね」
「まあな、あいつらが集団で後ろに控えている大物を狩っていれば、西城塞の小物も引き揚げてくれるかもな」
ブレイソンとしては、やはり大物に会敵できない不満が多少はあるのだろう。
「そこまで分かっていて、西城塞行きを志願するなんてねえ……、どうなのよ、シュン?」
「まあ、そう言わないでくれ。最初に仲間の危機を救うのは冒険者の義務だ、って言ったよな? 俺はやっぱり苦戦している西城塞に駆けつけたかったんだよ」