第十話 「日々の仕事」04
突然、川の中心部の水面が泡立つ。
「全員川から離れろ! 何か出るぞ!」
シュンの叫びに全員が川から距離をとって身構える。
姿を現したのはナーガだった。
大蛇の頭部に人間の顔が貼り付き、小さな人と同じ鱗に覆われた腕が生えている。
成長すると人間の姿に近く変化すると言われていたが、シュンはまだ見たことはなかった。
ナーガは冒険者の集団を一瞥してから、興味がなさそうに水の中に戻り上流へと泳いで行った。
「そろそろ帰るか……、雨も止みそうだしな」
「ええ、全員、引き上げの配置に着け。帰るぞ!」
アルバーがメンバーたちに叫び、帰途の隊列を組んだ。
先頭はシュン、後方にブレイソン。
アルバーとカノーアが川への側面に並びリヴァイアサンを警戒する。
川から離れ荒野を歩くと雨は完全にあがった。
シュンは晴れ間が見え初めた空を見上げる。
結局あの日以来、ジズは姿を見せなくなっていた。
シュンはギルドへの手続きをアルバーたちに任せ、一人でスカーレッドの事務所に向かう。
カノーアの言った通り、レイキュアは机に座り書類と格闘していた。
「今日は助かったわ」
「いや、こちらこそだ。報酬は頭割りでそっちにも渡すから」
「なんだか悪いわね」
シュンはソファーに座る。
「いや、今日来た連中は積極的に戦いたいのかな?」
「積極的って訳じゃないけれど、雨の日にも出たいって思っていた隊員も多かったのよ。ただ――」
レイキュアは書類を机に置いて話を続けた。
「――スポンサーが色々言っているって前に話したじゃない?」
「ああ」
「カノーアは自分が個人ランクを上げれば、もっと積極的に戦えなんて、もう言われなくなると考えているみたいね」
「そうか、それでか……」
アルバー、ブレイソン共にランクは十五位前後まで上がっている。
カノーアも二十位以内に入って来ていた。
「スカーレッドの戦い方だと、なかなかポイントが付きのベヒモスには会えないしね」
「レイキュアも、もっと戦えば?」
彼女は、今は十台後半に順位が落ちてきていた。
「うん、ポイント狙いで森の奥に入って、やってはいるんだけどね。こっちの仕事も多いしね」
そう言って書類の束を掲げて見せる。
そんなことを話しているとカノーアたちが帰って来た。
「じゃあ、俺はこれで……」
シュンはソファーから腰を浮かせる。
「シュン、後で飲みましょう。いつもの店で待ってて」
「仕事はいいのか?」
「ええ、明日もやるし大丈夫」
「それじゃあ後で」
「うん」
シュンはランツィアの事務所に戻ってアルバーからの報告を受けた。
「【飛翔】のスキルが少しありましたよ」
「ほう……」
水棲のリヴァイアサンが【飛翔】を持っているなど、皮肉以外の何物でもないが、事実なのだから仕方がない。
「コンテナ持ちになるメンバーもそのうち現れるかもしれないので、持って帰りました」
「ああ、それでいい」
事前にアルバーとはそのように打ち合わせていた。
今、ランツィアでの【飛翔】持ちは、シュン、アルバー、ブレイソンが実際に飛行できるレベルだ。
他はまだコンテナが小さく短時間空中に浮きあがる程度であった。
解散しシュンは濡れた服と靴を替え、いつものバーに向かった。
一人で飲んでいると少ししてからレイキュアが現れる。
「お待たせ」
「いや、カノーアたち、何か言ってた?」
「また是非やりたいって迫られたわ」
「そうか、うちは構わないよ」
「雨の日にあの娘たちだけで出すのは心配だけど、ランツィアが預かってくれるなら安心ね」
「レイキュアは来ないのかい?」
「雨の日は事務仕事と決めているの。こんな時しかできないしね」
「それはそうだな」
二人は今後の仕事について話し合う。
カノーアの気持ちは尊重して、強いベヒモスとの戦いをランツィアも支援することにした。




