第九話 「城塞都市サンドリオ」06
具体的な仕様については、仲間の意見を聞かなければならない。
予算ならアルバーだし、武器の使用にはブレイソンが一家言あるだろう。
「細かい部分はチームで相談するけど、とりあえずどれぐらい金が掛かるか知りたいんだ」
「分かった。見積もりは何本で作る?」
「うーん……」
シュンはメンバーの人数と将来用の予備で五十。
他に売れるかもしれないのでと、大きく考えた。
「百本で頼む」
「えっ、それだけ? 他に売るなら初期ロットで三百は作らないと。その方が一本当たりの単価が安くなるし……」
「そんなに売れるかあ……?」
「売れると思うけどなあ。ランツィアは有名だし」
「有名?!」
「そうだよ。シュンは村にいた頃と変わらないなあ」
そう言ってオンドレイは笑った。
「そっ、そうか?」
「ウチの工房だっていくつもの店に商品を卸しているんだ。ランツィアのナイフを出せば、どの店だって置いてくれるよ。社長は冒険者たちを応援しているし、ランツィアはお気に入りさ。もちろんフィーは支払うし、正式な契約も結ばせて貰う」
思いつきで工房を訪ねたが、話がいきなり大きくなったようでシュンは焦ってしまった。
商売のことはさっぱりだ。
「その辺りは仲間にも相談させてくれ。見積もりは取り敢えず百で頼む」
「分かった。僕も先走り過ぎたよ」
オンドレイは顔を近づけて声量を落とした。
「僕は職人だから物を作れれば良いんだけどね。だけど会社はそうはいかない。専売でやりたいって営業はしつこく言ってくるはずだ。そんな契約書に絶対サインしちゃダメだよ。それでもウチの販路を使わせてくれって、最後は折れるから……」
「分かった……」
よく分からないつつもシュンは頷いた。
専売と販路を使う、その二点だけを忘れないようにと記憶する。
そしてこの案件はアルバーに丸投げと決めた。
「僕はいつまでこの出張所にいるか分からないけど、営業の人間にランツィアのナイフの件名で引き継いでおくから」
「頼む」
◆
事務所に戻るとちょうどチームが仕事を終えて帰って来た。
シュンはアルバーとブレイソンを自室へと呼ぶ。
「――と、言う訳なんだ。どう思う?」
一通り今日の出来事、レイキュアがアクセサリーを隊員に配る件と、工房でのやりとりなどを話した。
「それは良いですね。ランツィアの商品をチームで生産するのは大賛成です」
「メンバーの連中も感激しますよ!」
「そうか……」
アルバー、ブレイソン共に賛成したのでシュンは内心胸を撫で下ろす。
思いつきで動いてしまったのを少々反省していたのだ。
「あの工房は知り合いもいるし、ギルド指定でランツィアの装備も修理している。出来ればあそこに頼みたいがなあ」
「ディポリーの製品は一流と言っていいでしょう。だから値段は少し高くなるかも知れませんが、それでもいいと思いますね」
「ランツィアの名前で安物は売れませんよ」
アルバー、ブレイソン共に前向きに答えてくれる。
記念品程度に考えていたのだが、まるでチームのブランド商品を作るような話まで進んでしまった。
シュンは問題の案件を思い出す。
「それと、専売と販路の件をどうするかが問題だ」
――と、深刻そうな顔を作って切り出した。
「専売ってその工房しか売れないってことですよね」
「ああ、そうだろうな」
ブレイソンの言っていることはシュンにも分かった。
アルバーが少し考えてから口を開く。
「専売契約で製造を委託すれば、工房は自社の販路を使って全力で売ってくれます」
「それは良い話なんじゃないのか?」
「うん、だけどランツィア独自で、おかしな話だけどそのナイフを売れなくなるんだよ。たとえばこの事務所で売ることも出来ないんだ」
「それは確かにおかしな話だよなあ……」
アルバーの説明にブレイソンも疑問を呈した。
シュンは二人のやりとりを静かに聞く。
「この製品ならば扱ってくれる店は、いくらでもあると思います!」
商家出身のアルバーがそう断言する。
これは間違いない。
「よしっ! 専売は止めておくか。俺の第一の目的はメンバーに、ランツィアのナイフを身に付けて欲しいんだ。それを売って儲ける話は二の次なんだがな」
「分かりました。私もそう思います」
アルバーは力強く頷いた。
「使い勝手なんかを、ブレイソンや他のメンバーにも相談して、この話を進めてくれるか? この件はアルバーに任せるよ。俺はどうも商売の話はピンとこない」
「分かりました」
「せっかくだから鞘はベルトだけじゃなく、ブーツにも取り付けるように出来ないかな?」
「いいね! ほとんどのメンバーはナイフを持っているからね」
ブレイソンが早速アイデアを出して、アルバーが同意する。
レイキュアに商売もしろとプッシュされているが、シュンは本当にピンとこない。




