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第九話 「城塞都市サンドリオ」05

 北城塞グロッセナに着いたシュンは、レイキュアと分かれてランツィアの事務所へと戻る。

 そして借りている倉庫のカギを持ち出して、東の倉庫区画へと向かう。


 槍や盾の出し入れはいつも部下に任せているので、倉庫を訪れるのは久しぶりだった。


 シュンは左右にレンガ造の倉庫が立ち並ぶ通りを歩く。

 正面には開け放たれた大きな東門が見え、物資を積んだ何台もの荷馬車が出入りしている。


 道を曲がり路地に入ると、いくつも扉あり小さな貸倉庫が並んでいた。


「この通りだと思ったがなあ……」


 記憶を頼りにシュンはランツィアの名前を探した。

 倉庫街はどこも同じように見えてしまう。


「あった。ここだ」


 お目当ての扉を見つけて解錠し、久しぶりに中へと入る。


 盾と槍が整然と棚に並び、予備のランツィアの上着も何着か置かれていた。

 新人に貸す中古の剣も何本か立て掛けられている。


 シュンは一応、倉庫内の武具をチェックして回る。

 どれも整備されていて、手入れは行き届いていた。

 盾と槍の数が足りないのは、先日のデス・キャニオンでの戦いで修理に出しているからだ。


 シュンは外に出て扉を閉めてカギを掛ける。


 ここに来た目的は別にあった。

 この倉庫を訪れたことはあったが、周辺を特に気にしたことはなかったからだ。


 不動産を買う話などが出たので、シュンは景色などを見ながら倉庫街をブラブラする。


 この周辺には倉庫ぐらいしかないと思っていたが、所々に労働者向けの食堂、飲み屋、宿屋などがある。


 更に南へ進むと、そこは武器武具、その他様々な雑貨などを扱っている工房街であった。


 ベヒモスの死骸から一次材料へ処理を施す工房から、冒険者たちが使用する防具、雑貨類へと加工する工房などが建ち並ぶ。


「ここか……」


 シュンはその中にある、ギルド指定の工房前に立った。

 ディポリーの看板が掛かっている。


 そして扉を開けて中に入り、知り合いの姿を確認した。


「御免よ。オンドレイ、久しぶりだな」


 シュンの声に気が付いた若い職人は、作業の手を止めて顔を上げる。


「シュン! どうしたの? こんな所に」

「いや、ちょっと相談があってな……。お邪魔かな?」


 忙しいようなので、シュンは少し気後れする。


 オンドレイはシュンが産まれ育った村に一番近い街、カンパーニにある工房の跡取り息子だった。


 村での修練時代に、防具の修理などでその工房を訪ねていたので面識がある。


「今をときめく最強からの相談なんて緊張しちゃうね。ランツィアから出された盾と槍はまだ手を付けていないよ」

「いや、そっちじゃなくてな」


 デス・キャニオンでは多くの武器や防具が破損した。

 ランツィアは、盾などほとんど使用しないので修理の希望順は後としているのだ。

 エスプロジオーネなどが最優先で修理を受けている。


 オンドレイは、今は大きな有名工房で修行中の身だ。

 ここはその工房の出張所で、忙しい時など他から応援に来ているのだ。


「今いいか?」


 広い作業場では大勢の職人たちが、忙しそうに働いているので、シュンはあくまで遠慮がちだ。


「もちろん! 最強をないがしろなんかにしたら、僕が社長や親方から怒られちゃうよ」


 オンドレイは冗談めかして言う。

 二人は来客用のテーブルへと移動した。


「これなんだけどな――」


 シュンは腰のベルトから鞘ごと小型のナイフを取り外して、テーブルの上に置いた。


「ああ、懐かしいなあ。昔見せて貰った形見のナイフだね」

「こいつに似せたナイフを注文したいんだ。見積もりが欲しい。メンバー全員に渡して、出来れば他にも売りたいんだ」

「なるほどね。ちょっといいかな?」

「もちろん!」


 オンドレイはナイフを鞘から抜いて眺めた。

 机に置いてあった紙の上に載せてだいたいの型を写す。

 そしてスケールで各部を計り紙に記入した。


「オーソドックスなシースナイフだね。ブレードの素材は炭素のダマスカス鋼だよ。僕の父も驚いていた。今ならステンのダマスカスしか手に入らない。グリップは木製、何の木かなあ? 僕には分からない。木工部門に聞いてみないと……」


 父親が代々受け継いできたナイフだ。

 かなり古いので完全なコピーは金が掛かるくらいは、シュンも理解していた。


「普通に調達出来る素材でかまわないよ。量もあるしな」

「ブレードデザインは一般的なタイプだし、デザインはほとんど同じに作れるよ。そんな量産素材があるんだ。鞘も革製だしね。戦闘時にも携行するなら頑丈な、このシースナイフがちょうど良いよ」


 シースナイフは(ブレード)とグリップが一体の金属製で、木は手で握る部分をカバーしている素材だ。


「鞘とグリップには焼き印でランツィアの名前を入れようよ。その焼きゴテも用意しようか?」

「そうだよなあ、名前入りの方が断然いいな!」


 オンドレイのアドバイスで、思いつきだったシュンのアイデアが具体的になってきた。

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