第九話 「城塞都市サンドリオ」04
店を出て二人は街の中心部に向かって歩く。
「この街のホテルは貴族用ばかりなのかな?」
「表通りはそうね。裏には商人や冒険者向きの宿もあるわ」
レイキュアは一軒の宝飾店の前で止まる。
「ここもスポンサーの事業なの。アクセサリーのブランドね」
店に入りレイキュアは予め注文していた、人数分のネックレスを買い込む。
「奮発したなあ……」
「デス・キャニオンの記念よ。あの戦いを忘れない為にね。ねえ見て」
レイキュアが差し出したネックレスは、馬蹄形で銀色の金具の中心に、スカーレット・カラーの小さな赤い宝石が揺れていた。
石は二カ所が二つの輪で繋がっていて、微細な振動でも揺れ動く構造になっているようだ。
光を反射して赤く輝いている。
「ダンシー・クリスタルって言って流行っているのよ」
「アイデアだね。金がかかるだろう」
「安い石よ。使う時は使わなくちゃ。ほら、剥製の話をしたじゃない? デス・キャニオンの件で素材が大量入荷したのよ。予約も沢山入ったわ」
「なるほどねえ……」
野郎ばかりのランツィアで、そんな記念品のアクセサリーなどやる必要はないが、何かウチなりに士気を高める方法を考えてみようかと、シュンは考えた。
「貴族たちは、土産物の類は城壁の街じゃなくて、ここで買うのかなあ?」
「そうね、泊まるのはこの街だからね」
「そんな土産物屋をやるなんてどうかな?」
「一等地は既存の店に抑えられているし、路地裏でやっても客は入らないわねえ……」
「そうか……」
「お店に、何か商品を卸す仕事の方が現実的よ」
「なるほど……」
シュンの頭の中にモヤッとしたアイデアが浮かぶが、なかなか具体的な形にまとまらない。
街の中心部にあるギルドの前に着き二人で入る。
シュンはここに来るのは初めてだった。
ここでクエストを発動する事はないので、中に冒険者の姿は見えない。
観光客らしき数人が壁に貼られている各城壁のランキングボードを眺めている。
北城塞グロッセナのトップにはシュンの名札が掛けられていた。
その横には東西の最強の名前があった。
「東の城塞クレモンテか……、トップのヤツは俺よりポイントがずいぶん上だな」
「ふふっ、悔しい?」
シュンは首を横に振る。不思議とそんな気持ちは湧いてこなかった。
「いや、ディボガルドのヤツらも凄いが、上には上がいるんだなあ……」
「名前はシーザリオかあ……、どんな人なのかしらね?」
「ああ……」
ただ強いだけではこれだけのポイントは稼げない。
生き残る術を持ち、信じられる仲間がいるからこそ、ここまで戦えるのだ。
それから二人は居住地区に隣接する公園に行く。
芝生と木々の緑が溢れる開放的な空間には街の人々が大勢、寛いでいた。
「俺はここまで来たのは初めてだよ……」
「スポンサーが用意したこの辺の部屋に、休暇で来ている冒険者たちもいるのよ」
この街の電力の使用は東西南北の城塞都市より自由度がある。
故に快適に過ごす事ができた。
「そりやあ、豪勢だね。スカーレッドにはそんな話はないの?」
二人で公園の石畳を歩きながら話をする。
池があり周辺の広場に屋台が何店か出ていてた。
「あるわね、でも断っているの」
「ふーん、何で?」
「全員で泊まれないしね。それなら皆で来てホテルに泊まるわ。でも店もあるし何グループかに分けて休暇をとることになるかな? いつかやりたいの」
「チームは家族だものな」
「そうよ!」
レイキュアはそう言って笑い、振り向いて中央の方向を指さす。
「反対の地区は企業の、貴族の別荘地なのよ。そこのお屋敷に私やカノーアがチームの営業で時々行くのだけれど、他の隊員たちにもこの街を見せてやりたいのよ」
「そうか……」
二人はベンチに腰掛け、暫く無言で空に浮かぶ雲を眺めた。
そう言えばグロッセナでのんびりと空を見上げた事があっただろうか? シュンはふとそんなことを考えた。
夕刻、再び馬車に乗り二人はグロッセナの南門に帰り着く。
「私は今夜もフィオーレの手伝いよ。来る?」
「いや、アルバーの邪魔になるし止めておくよ」
「そうそう、いい気遣いよ」
レイキュアはそう言って笑った。




