第九話 「城塞都市サンドリオ」02
フィオーレの扉を開けると、なんとレイキュアがホール仕事をしていた。
店は混雑している。
「あら、お二人そろって。いらっしゃい」
「へえ……、店に出るなんて最近じゃあ珍しな?」
「ええ、何人か寝込んじゃっててね。怪我人もいるし人手不足なの。ウチはあんな乱戦の経験なかったから。さあ、座って。ビールでいい?」
「ああ」
シュンたちはカウンターに近い小さなテーブル座る。
「人手が足りないとはいえ、隊長が酒場を手伝ったりするんですね」
アルバーが感心しているような表情で言う。
「スカーレッドはあくまで兼業冒険者なんだ。これも大切な仕事だな」
彼女たちはそうやって冒険者と店の手伝い、事務などを兼業しながら将来の道を模索するのだ。
赤いエプロンを付けたレイキュアがビールジョッキを二つ運んで来た。
ついでに料理も何品か注文する。
「お待たせ、シュンも今度、手伝ってよ」
「今の俺がホールに出たら客が逃げるだろ」
「そんなことないわよ」
そう言うレイキュアは、カウンターに出された料理や飲み物を客のテーブルに運び、一言二言、客と談笑を交わしている。
「まあ、レイキュアが店にいれば客は喜ぶな。俺も昔、何度かここを手伝った事があるよ」
「え~っ、シュンがですか?」
「ああ、お前と会う前の話さ」
レイキュアに飯を食わせてもらい、スカーレッドの事務所に転がり込んでいた頃、一宿一飯の恩義とばかりに、シュンは時々この店を手伝っていたのだ。
「だから新しいビジネスでこんな店をやるのなら、俺も手伝えるよ」
「そうですねえ……、男ばかりのランツィアで、こんなお店を繁盛させるのは難しいですかねえ……」
アルバーは難しい顔で言う。確かにその通りだった。
「そりゃ、そうだ。スカーレッドには華があるって、エージェントのジュリーザが言ってたよ。つまりウチには華がないって訳だ」
「そのビジネスの話ですが、ジュリーザに相談しても構いませんか?」
「もちろんさ、ウチのエージェントなんだしな」
料理を一通り平らげて、ビールを何杯かお替りする。
客が引け始め、手すきになったレイキュアがカウンターの椅子を動かし、ビールグラスを持って隣に座った。
「聞いたわ、アルバー。カノーアのお見舞いに来てくれたんだって? 悪いわね」
「いえ……」
「事務所に下りることもできたんだけどね。大事をとって寝かせておいたみたい。カノーア、綺麗な花束を貰って感激していたって」
「なんだ、花なんて持ってったのか?」
アルバーはシュンと違って気遣いのできる男だった。
「ええまあ、見舞いですし……」
「具合はどうなんだ?」
シュンはレイキュアの方に向き直る。
「明日には大丈夫よ。だけど外の仕事は念の為お休みね。他の倒れた隊員とここを手伝ってもらうわ」
「アルバー、明日もここに顔を出せよ」
「そうですね」
アルバーは小さく頷く。
今後のことなど、二人で話し合ってくれればシュンとしても助かるのだ。
「ねえ、シュン。明日の予定は?」
「普通に花のないベヒモス狩りだよ」
「よかったらサンドリオに一緒に行かない?」
「なんか用事でもあるの?」
「買い物よ、それとこの前のビジネスの話。色々見て回りましょうよ」
「そうだなあ……」
サンドリオに行くのは久しぶりだった。
一度この街でどんな商売ができるかとの視点で、あの街を見てみるのも良いかもしれないし、仕事がらみなので断る理由もない。
「分かった」
「シュン、明日は僕が若いメンバーの面倒を見ますよ。サンドリオでビジネス用の見学をしてきて下さい」
「頼む」




