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第六話 「デス・キャニオン」03

「入るのは初めてよ……」


 レイキュアは辺りを見回しながら言う。


「当然だ……」


 シュンたちにしても初めてだった。

 今まで入ったことがあるのは、ガスケスやギルドからの依頼を請けた他の冒険者たち数人だろう。


 渓谷の横幅は二十メートルほどあり、先に進むと左右の崖に小さな穴がいくつか現れた。

 ベヒモスの住処である。


「アルバー、どうだ?」

「いますね、小物ばかりですが」

「なら私たちで……」


 レイキュアとカノーアが顔を見合わせ、アルバーはシュンを見て頷いている。

 【探査】で見る限りそれほどの数ではないようだ。


「いいだろう」


 二人は剣を抜いて前に出た。

 こちらの気配を察したベヒモスが穴倉から顔を出す。

 全部で十程度だった。


 レイキュアが走り出し、カノーアが続く。二人のいつもの戦い方だ。


「相手はバジリクスにチェシャ猫、キルケニー猫か……」

「もっと凄いのが沢山出て来るかと思いましたが拍子抜けですね」

「まあ、まだ前座みたいなモンだろう」


 二人は手堅く処理し、四人で更に先に進むと次に現れたのはマルティコラスが三体だった。


「次は俺たちがやるよ」


 四本足の獅子の頭部に毛むくじゃらの人の顔が貼り付いている。

 口は胴体まで裂けて上下共に鋭い歯が三列に並び、大口を開ければ人間を丸ごと噛み砕くことができる、中の上のベヒモスだ。


「三か……、カノーア! 俺たちが左から攻撃を仕掛けたら、右端のヤツに三連射をかましてくれ」

「はい」


 カノーアは背中から弓矢を取り出して構えた。

 二本の矢をレイキュアが持ち傍らに立つ。


 剣を抜き駆けだしたシュンの右後方にアルバーが続く。


 左の崖を壁にして突進するシュンに、大口を開けたマルティコラスが襲い掛かる。

 その顔面に剣を叩きつけ、シュンに襲いかかる後続の大口にはアルバーが横に振った剣を食い込ませた。


 残りの一体にはカノーアの放った矢が立て続け突き刺さる。


 シュンは飛び上がり最初の一体の背中に剣を突き立て、アルバーがもう一体の腹に剣を突き刺す。


 飛びのいた二人は余裕をもって残った一体を倒した。


「こんなのが三体もまとまって出るなんて、さすがデス・キャニオンですね」

「ああ」


 森の中で遭遇するマルティコラスはせいぜい一体どまりだ。

 レイキュアたちがレアクリスタルを確認する。


「あっ、【飛翔】が少しあるわ、助かる」

「なんだい?」

「スポンサーで欲しいって人がいるのよ」


 【飛翔】のレアクリスタルは希少性が高かった。

 コンテナを持っている冒険者に対して、供給が追いついていない。


「企業貴族が何に使うんだ?」

「令嬢たちに自分が飛んでいる姿を見せたいんだって」

「アホくさ」

「高く売れるのよ」


 四人は更に奥へと進んだ。

 シュンとアルバーは少し先行して二人で先頭を歩く。


「せっかくですから一人で戦ってはどうですか? あの二人に見せるのもいいかもいれませんよ」


 シュンならばマルティコラス程度、十体を相手にしても楽に勝利できる。

 いくつものスキルを複合的に使って一人で戦う様は、見るだけでも勉強になる。


「まあな、だけどここではどんな強力ベヒモスが現れても不思議はない。スキルは温存したいな」

「すいません、僭越でした」

「いや、そのうち機会がくるさ」


 数体の弱いベヒモスと遭遇しつつ、これを倒して四人は帰還した。



 封鎖口に戻ると布が掛かった担架が荷馬車に乗せられている。

 傍らにはブレイソンが立ち尽くしていた。


「何があったんだ?」

「シュン……」


 布からは人の足が見えていた。


「だっ、誰だ? あれは!」

「他のチームの冒険者です」


 不謹慎だと思ったが、ランツィアやスカーレッのメンバーではなくてシュンはほっとした。


「いったい……」


 封鎖口は午後に散発的なベヒモスの攻撃を受け続けていた、との事だった。


「数体のベヒモスを追い払った後、バリケードを超えて何人かが追撃したんです。上位種のカトブレパス追って……」

「何て事を……」


 叫び声が聴こえ、ブレイソンとヒュミユ、クーリアが禁を破って救出に向かったが、既に一名は死亡していたとの事だった。


「申し訳ありません……」

「いや、お前たちが無事でよかったよ」


 どうやらデス・キャニオンの中にいるベヒモスたちは、異変を感じて南の封鎖口に向かったようだ。


 その中に入った冒険者たちは何か理由があって金を稼ぎたかったのだろう。


「可哀そうに……」


 レイキュアが悲し気に呟いた。



 夜間は数人の見張りが封鎖口に持ち回りで立ち、他の人員は森近くまで戻って野営をする。


 ギルドが雇ったサービス部隊がテントを設営して食事の用意をしている。

 使っている装備品は軍の輜重隊から借りてきたようだ。


 アルバーたちから詳しい戦闘詳細の報告を聞き、シュンたちもデス・キャニオンでの戦いを説明した。

 皆、真剣な面持ちで食い入るように話を聞く。


「思ったほどではないのですね……」


 ブレイソンは考えを巡らす様に感想を言う。

 シュンとしても、もっと激戦を予想していた。


「他の入り口はどうか分からんがな」

「私たちの入った渓谷は狭かったからね」


 レイキュアが少し不満げに言うが、シュンとしては安全が第一だ。

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