第六話 「デス・キャニオン」02
進行初日、一行はデス・キャニオンに向かった。
ランツィアとスカーレッドの何人かが騎乗し、荷馬車に他の人員、リスティ、ジェリルの二人と装備を乗せる。
他のチームとギルドのサービス部隊も続々と北の城門から出発している。
「凄い数だ。壮観だなあ……」
「他の城塞からも馬や物資を調達しているそうだよ」
ブレイソンとアルバーが軍勢のごとき冒険者の列を見ながら話をしている。
このクエストを仕掛けた、ギルドの並々ならぬ意欲を表しているような光景だった。
管区、第八六地区は四カ国の地域にまたがっている。
およそ七割がシュンたちの国の領土だ。
だからこそ管轄はこの国に任され、他の三国は防衛に徹していた。
しかし、シュンたちとて容易にその深部、他国の国境は越えられない。
ベヒモスたちの厚い壁がそれを阻んでいるからだ。
デス・キャニオンはその難所の一つと言えた。
この地のほとんどはベヒモス、生物兵器たちの支配地域だ。
こんな状態が三百年も続き、シュンたちの奮戦も封じ込め程度の戦果にしかなっていなかった。
封鎖部隊には普段は使わない盾と槍を、借りている倉庫から出し装備させた。
【障壁】のスキル持ちには盾、【衝撃】持ちには槍といった具合だ。主に集団で大物を狩る時などに使用していた。
レイキュアは恰好が悪いと言ったが命が一番大事だ。
各封鎖部隊にはギルドが作ったマニュアルが渡された。
クロスボウが二十丁貸し出され、弓を持つ冒険者と共にベヒモスが押し寄せた場合、第一派の防御攻撃を行う。
他の者たちは【飛行】と【衝撃】のスキルを使い矢に力を与える。
第二派はバリケードを挟んでの槍による攻撃だ。
ここが突破された場合の第三派は盾を持つ者が殿を勤めての撤退で、ランカーが単独で攻撃を仕掛ける。
ブレイソンとヒュミユ、クーリアの三人が該当する。
他のチームにもランカーは数人いた。
リスティとジェリルは自分の小さな剣を持って封鎖部隊の後方に着く。
二人には実力に見合った報酬がギルドから支払われる。
「なんとかなりそうだな……」
シュンはチーム・ランツィアとスカーレッドが担当する出入口の前に立ち呟く。
ギルドは城塞の倉庫から封鎖用の資材を出し、工事の労働者も雇って組み立てた。
バリケードの前に配置されている冒険者たちは、他の小チームも加わって五十人以上の人員だ。
「ヒョーーッ!」
「ひゃっはあ!」
意味不明の奇声を発しながら、黒ずくめの衣装に身を包み、馬に乗った二十人ほどの集団が現れる。
チーム・エスプロジオーネの面々だ。
狩ったベヒモスの白骨などをあしらう、凶悪な意匠の戦闘服に身を包み、楽しむようにべヒモスを狩る連中だ。
但しそれは態度も含めて全てパフォーマンスだった。
見かけと違ってなかなか人の好い奴らなのだ。
ここの配置ではないので移動途中の様子見のようだった。
「スカーレッドの皆さんよお! 俺たちと合同クエスト、やってよお!」
「ねえ、ねえ。いいじゃんかよ!」
「ひょっ、ひょ~っ!」
不気味な化粧や迷彩を顔に塗った戦闘員たちが、スカーレッドの隊員をわざとらしくはやし立てる。
「ふんっ! なんでウチがあんたたちみたいな三下チームと」
レイキュアはそう言うがチーム・エスプロジオーネのチームランクは、スカーレッドより上だ。
エスプロジオーネの面々もそれは分かっているがあえて突っ込みはしない。
「冷つめてえなあ~」
「寄るんじゃなよ!」
「まあまあ、隊長……」
カノーアがとりなしているが、険悪な雰囲気ではなくて、いつもの挨拶みたいなものだった。
「よう、久し振りだな、お二人さん」
先頭の男が下馬してシュンたちに歩み寄る。
頭を務めるセバスティだ。
「ああ、久しぶり。よくこんなクエストに来たなあ?」
「それがよ、スポンサーたちに言われてな。戦果が上がらなくてもいいから、出るだけ出ろってうるさくてよ……」
セバスティは首を傾げて言う。
「そうか、ウチはスカーレットの付き合いだがな。スカーレットも出ろって、しつこく言われたそうだ」
「そう! そうなのよ!」
レイチェルが話に割り込む。
スポンサーからの圧力はスカーレッドだけではなかったのだ。
「ああ、何がなんでも人だけは集めたいって感じだ。おかしな話だよ」
セバスティも勘が鋭い。そうでなければチームを率いる事はできない。
周辺の配置を見回しながら続けた。
「まあ、こんな嫌な感じの時はテキトーにやるに限るな」
「同感だ」
「封鎖に参加するのか……。チームで中に入らないのか?」
「まあね、若い奴らに危ない橋は渡らせられないよ」
「シュンらしいぜ」
「そっちは全員で行くのか?」
荷馬車には盾や防具などの重装備が人数分満載されていた。
「スポンサーからの要望だ。ただウチに合ったボチボチ入口にしてもらったよ」
悪役のアウトロー集団役で映画などにも出演していて、なかなかの人気者だった。
冒険者の中には、エスプロジオーネのように人気者に成り上がるチームもあった。
チームランキングはいつも十位以内にいる。
「じゃあな、お互い無事で終わらせたいもんだな」
「ああ」
セバスティは軽く手を上げて言い、シュンも手を上げて返す。
「よーーし! 野郎ども! 行くぜっ!」
セバスティはそのまま、その手で拳を握り頭上で回しながら騎乗する。
「ひょーっ!」
「ひゃっは~~」
エスプロジオーネの戦闘員たちは奇声を上げながら、スカーレッドの隊員たちとハイタッチなどしている。
「あいつらと共同クエスト、やってみたら?」
「ビジュアルが違いすぎるでしょう。スポンサーに怒られちゃうわ」
レイキュアはそう言って肩をすくめる。
「戦闘員の人たちが何人かウチのお店に来てくれるんだけど、ごく普通の人たちなんで皆で笑っちゃったわ」
「そりゃ、いいや」
もちろんあの奇異な衣装やメイクは仕事用で、あたりまえだが普段は普通の恰好をしているようだ。
「それじゃあ俺たちも行ってくるぞ」
「こちらは任せて下さい」
シュンの言葉にブレイソンにヒュミユ、クーリアは頷いた。
シュンたち四人は馬でデスキャンオンの北側に移動する。
しばらく走ると進行口が見えてきた。こちらにもバリケードが築かれ、何人か護衛の冒険者たちの姿が見える。
シュンたちは四人のチーム編成を申告していたので、小規模な入り口の担当だった。
チーム・バウザーナやディボガルドはもっと大きな入り口から入っているはずだ。
ギルドの担当官に申請書類の控えを見せ、配置に就いている冒険者たちに見送られシュンたちはデス・キャニオンへと足を踏み入れた。




