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第五話 「ベヒモス狩り」04

『シュン――』


 ある日の夕刻。

 殿(しんがり)を務め森の中を帰還する途中、名を呼ぶ声が聴こえシュンは足を止めた。


「ちっ、久しぶりだな……」

「どうかしましたか?」


 先頭を進むアルバーは、シュンの様子に気が付いて振り返る。


「ちょっと気に掛かることを思い出した。先に帰ってくれるか?」

「! 分かりました」


 シュンの気に掛かり――はアルバーも知っていた。

 他のメンバーもリーダーの行動に余計な詮索はしない。


「すぐに戻るよ」


 道を引き返すシュンは、自分だけに聞えた声の主を探して森を歩く。


 そよ風に森の草木は囁き、密集した葉を通り抜けた陽光は、何かの合図のように点滅している。

 五感にも【探査】のスキルにも、その主は感じられなかった。


『ふふっ、そうだね。久しぶり、シュン』


 再びの声に立ち尽くしたシュンは周囲を見回す。


「姿を現せよ」

『まだ、こんな所で戦っているの?』

「悪いか? 俺は戦闘種で冒険者だ。戦う為に産まれて戦う為に生きている……」


 このベヒモスは人の言葉を語り冒険者を惑わせる。

 チェシャ猫かキュノリュコスが起こす現象と言われているが、相手はより上位のキュノリュコスだと、シュンは思っていた。


 このような能力はベヒモスより更に上位の何かだと噂する者もいるが、実際には人の思考、奥底の記憶が声になって聞こえていると、錯覚しているだけらしい。


(かたき)のスケラーノも倒したし、目的は果たしたんだよね? だったら故郷に帰るのが次の目的――』

「確かに昔はそう思っていた時もあったな」


 打倒スケラーノ! ただそれだけの為に憎悪の炎を燃え上がらせ剣を振るっていた日々が、今はなぜか大昔のように感じていた。


『今は別の目的が出来たんだ?』

「そうかもな、たぶん……。だから何だ?」

『あっはっはっは――。たぶん(・・・)だなんて、いいかげんだね! 君は、いや、人間は……』

「そうさ、だから戦争で自分の首を閉め続けて、そしてお前たちを生み出した」

『ふふ、戦闘種もね』


 大戦時には敵の指導者に戦争への疑念を植え付け、指揮官には作戦の無意味さを諭し、若い兵士が故郷と愛する人への慕情をかき立てられるように仕向けた。


 だからキュノリュコスに戦闘力などない、戦略的兵器と呼べる存在だった。


 大昔の戦争では電波に乗せた甘い女性の声で、兵士の厭戦を引き出そうとしたらしい。


 しかしそれは地獄のような戦場で、兵士たちに守るべき対象を再認識させる勇気となったそうだ。


 今のシュンも、このベヒモスを友人のように感じていた。


「そうさ、俺とお前は兄弟のようなものさ」

『僕は命ある限り戦い続けるんだ。シュンもそうなの? 戦うのを止めたら死ぬの?』

「俺は死なないよ。戦っても、戦っていなくてもな!」

『ふーん、そうなればいいね……』

「なるさ!必ずな。仲間が待っている。もう行くぜ」

『うん、また会おう。戦闘種のシュン!』


 あまり時間を使ってはアルバーたちにいらぬ心配を掛ける。

 会ってはいないだろうと、シュンは心の中で突っ込み返した。


「ああ、次に会った時は狩ってやるぜ。おまえはベヒモスだしな」

『あははっ、その時はシュンも死ぬ時さ。僕はシュン、シュンは僕――』

「なら止めとくよ――」


 シュンはそう言って踵を返す。そして仲間の元へと向かった。


「――次は本当に会おうぜ」

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