第四話 「スカーレッド」04
シュンとレイキュアはいつものように掛け合いのような会話をしているが、アルバーは熱心に無言のカノーアに話し掛けていた。
「【雷撃】のコンテナを持っているなんて凄い、本当に凄いよ!」
「そんなことないわよ……、レアクリスタルだって手になんか入らないし……」
「そうだよなあ……、そんなベヒモスがいたとしても倒すなんてとてもできないし、マーケットになんて出回らない。あったとしてもとんでもなく高価だし……」
「ええ」
「でも、たとえまだ力がなくても【雷撃】のコンテナがあるだけで引く手数多だよ」
「……」
その話は事実だった。シュンも聞いた事はある。
国軍の中枢ではいくつかの【雷撃】や他の特別な力を持ったレアクリスタルが国の宝として主を待っていると噂だった。
こんな場末の冒険者よりも条件の良い働き口はいくらでもある。
「この街を出て陽の当たる場所に出れるんだよ! もう今夜の寝る所にも困る心配もない、ひもじい思いもしない、仲間の死を見る事もない……」
死なないまでも怪我をして稼げなくなり、貧乏のどん底で強力ベヒモスに自殺的戦いを挑み散った冒険者も多かった。
大多数の冒険者はそのような最後を迎えるか、いつの間にかこの街から消えていくかのどちらかだ。
アルバーは酔いのせいかいつもより饒舌だ。カノーアは黙って話を聞いている。
「そうだ、ウチで色々と情報を集めてみようか。きっと――」
突然カノーアの目から涙がポロポロと零れ落ちた。
「えっ、ええっ??」
アルバーは驚き狼狽する。
「うえっ、えっえっ……ひっく。うえ~~ん」
「どっ、どうしたの!」
「なんで、みんな私に出てけって言うのよ~~、ひっく……」
カノーアはテーブルに突っ伏して泣き始めた。
「どうしたんだ?」
「私だってそんな事は何度も勧めたわ、そのたびにこうなるのよ……」
レイキュアが呆れたように言った。
「ふーーん……」
「ずっとここにいたいんだって……」
泣いているカノーアに何事かと皆がこちらを見ている。
「全員注目! アルバーがカノーアを泣かしたぞ! 大変だ」
「ぼっ、僕は何も……」
「しつこくカノーアを口説いていた。嫌がる彼女を強引かつ乱暴にモノにしようとしたんだ」
「勘弁して下さいよ~」
常に沈着冷静で、感情で動くレイキュアを補佐しているカノーアに、こんな一面があるのかとシュンは微笑ましく思った。
自分たちチームは家族のようなものだとシュンは考えている。
チーム・スカーレッドもそうなのだ。
料理が平らげられ場はお開きとなった。
皆で空いた食器やグラスをカウンターに下げ片付けをする。
「突然泣き出すんでびっくりしましたよ……」
シュンの隣に来たアルバーがボヤくように言う。
「まあ、女は泣くもんだ」
「そうなんですか?」
シュンはレイキュアの方を見た。
彼女も意外と涙脆いのだ。
「何見てるのよ……」
「いや……、アルバー! カノーアを誘え。もう一軒行こうってな」
泣き止みはしたがカノーアはどこか寂しげだ。
「また泣かれそうで……」
「ウチとチーム・スカーレッドの友好的関係はおまえら二人にかかっている。これは仕事だ」
「仕事ですか?」
「そうだ、仕事だ。ほら一人で寂しそうに帰ろうとしている。早く行け」
「……分かりました」
小走りに向かったアルバーが話しかけるとカノーアは頷いた。
「上手くいったじゃない。私たちも、もう一軒行きましょう」
「そうだな」
明日は休みだった。
シュンとレイキュアは時々二人で来る路地裏のバーに入る。
ママはこの街に昔からいた元冒険者だった。
ビールを頼み簡単に肴をだしてもらう。
ここはパスタ料理の食事もできたのでシュンが駆け出しの頃はよく二人で来ていた。
歳は少しシュンの方が上だったが、この街での冒険者歴はレイキュアの方が長い。
コツや経験、要領から当時は彼女の方が稼いでいた。
二人で飲みながらシュンは少し昔のことを思い出していた。




