第五話 「ベヒモス狩り」01
四カ国の国境線が接するこの一帯には、過去に大量の生物兵器、ベヒモスが放たれ、協定で近代兵器の使用は禁止されていた。
そのベヒモスを狩り、戦後を清算出来るのは唯一、大戦時にゲノム編集された、スキルと呼ばれる力を使い常人を超 える戦闘力を発揮する戦闘兵士の力。戦闘種族たちだった。
シュンは従軍していた先祖から編集遺伝子を受け継ぎこの力を得ていた。
父親には軍務の経験があった。
朝、メンバー全員で一階の詰め所で戦いの準備をする。
剣を抜いて刃を眺めて鞘に納め、金具とベルトの連結に負荷をかけて強度を確認する。
革のブーツの紐が痛んではいないか見つつきつく結び、簡易な革製の鎧を身に付ける。
ランツィアが戦う時の標準の姿だ。
「今日は間道を奥まで行くかな。ブレイソン、付き合えよ」
「いいんですか?」
「ああ、もう完全回復した」
スカーレッドと森に入った時、シュンは戦闘の勘も確認していた。
もう上の上と戦っても遅れは取らない。
「連れて行くのを二、三人選んでくれ」
「はっ!」
間道とは森の奥、魔境と呼ばれる深部へと続く道だ。
ブレイソンが強いベヒモスと会敵できる場所に行きたいと、毎日思っているのはシュンも感じていた。
ランツィアでは一人での討伐は御法度だった。
単独行動をして帰って来ない冒険者は多い。
「アルバー、悪いが他の連中の面倒を頼むよ」
「了解です」
北門から外に出て、徒歩で近隣の森へ向かうメンバーたちと別れる。
アルバーは馬を借りて広範囲にメンバー全員の様子をみる。
四人は馬を駆り、間道の入り口へと向かった。
シュンとブレイソンが先頭に並びグンソンとロッドの二人が後続で馬を走らせ、いつもの森を駆け抜けて更に奥へと進む。
「全員【探査】のスキルを使え! 中のレベルから上を見つけたら片っ端から狩るぞ!」
「「「はいっ!」」」
「いました! 右翼に五体ほど感じます」
しばらく馬を走らせるとグンソンが叫んだ。
「よし、停止だ!」
木もまばらなので森に馬を乗りいれると、シュンも五体のベヒモスを感じた。
グンソンの【探査】はなかなかだ。
下馬してシュンが先頭になり森を進むと黒い影が見えた。ブラウニーがいるようだ。
集団行動をする種なので全てそうなのだろう。
「行くぞ……」
剣を抜き一気に接近し殲滅する。
ブレイソンは一体を切り捨てた後、返す剣でもう一体も切り捨てた。
間道を更に奥に進みながら、同じように中程度のベヒモスを狩っていく。
道は魔境に差し掛かっていた。
シュンは馬を停止させる。
スケラーノとの戦いはもっとずっと奥の魔境の深部から始まった。
そこから一昼夜かけて奴をデス・ベイスンに追い込んだのだ。
「シュン、もっと先には……」
「もちろんさ、行くぞ」
五人が更に奥へと進むにつれ、間道からいくつもの分岐する獣道が増えてきた。
大型のベヒモスが移動している証拠だ。
「いました! 大きいのが一体です」
グンソンの【探査】がまた効果を発揮した。
指し示す獣道へ馬を進めると、シュンもベヒモスの気配を感じて全員が下馬する。
更に先に進むとあのスケラーノと同じ種のフェルテが現れた。
体長は三メートルほどで上の下程度の力がある個体だ。
「シュン……」
先頭を任せていたブレイソンが振り向き、シュンに戦いを促す。
「いや、お前たちだけでやってみせろ」
シュンはグンソンとロッドの方を向いた。
「「はいっ!」」
特に打合せをするでもなく、三人はゆっくりとフェルテに向かい散開して取り囲む。
シュンも剣を抜いていざという時に備え、【探査】を使い周辺を警戒する。
ランツィアの戦いは常に一人か複数が戦いに参加しないで他のベヒモスに備えるのだ。
正面にはブレイソンが立ち、後方にはグンソン。
ロッドは側面に就いた。
「ふむ……」
シュンは三人を見守りながら呟く。
二足で立ち上り前足の攻撃を繰り出すフェルテをブレイソンが軽くいなし、グンソンは蛇のような長い尾に剣を突き出し、振り向きざまに繰り出す尾の攻撃を牽制する。
焦れたフェルテが前に出ると、側面のロッドが【移動】と【衝撃】のスキルで突きを仕掛け、フェルテが腕を振ると傷は浅いがすぐさま引く。
「うん、それでいいぞ……」
フェルテの鋼鉄の毛は切り付けた場合、装甲としてその剣を阻む。
ブレイソンたちは突きの攻撃を徹底していた。
おそらく普段から小物を相手に、様々な大型ベヒモスに対する方法を試しているに違いなかった。
長い小競り合いに耐えかねたフェルテが本能のままに、全方位に向けて凶悪さを剥き出しに暴れ始めた。
攻撃を受けた者は引き、後方、側面が次々に剣を突く。
振り向いたフェルテに対して一瞬の隙をついて、ブレイソンが放った突きが弱点の喉に深々と突き刺さった。
同時にグンソンとロッドも剣を突き、ブレイソンは引いた。
悲鳴を上げて立ち尽くしたフェルテは動きを止めた後、バタリと地面に倒れる。
少しの間を置いてブレイソンが念の為に止めの剣を喉に深く突き刺す。フェルテは微動だにしない。
「皆、よくやったな。見事だぞ!」
「「はいっ」」
「ありがとうございます!」
ブレイソンの言葉は獲物を譲ってくれた事への礼だった。
「さあ、早くレアクリスタルを取り出すんだ。お前の力だよ、ブレイソン」
「はっ!」
ブレイソンがまた軍人ふうの返事を返し、シュンはこの癖は抜けないなと思った。
フェルテの頭部を割り、取り出したレアクリスタルをブレイソンがボロ布で拭く。
それは少し小振りであるが青く光っていた。
「どうだ?」
「ダメですね。取り込む事はできません……」
「そうか……」
アルバーの話によれば、現状でメンバーのコンテナはスキルで一杯だった。
シュンがスケラーノの力を取り込めたのは、それが未知のスキルで、取り込む未知のコンテナが備わっていたからだ。
そのスキルが何なのか? シュンにも未だにそれは分からないままだった。
「ブレイソン、そのレアクリスタルはお前が持て。そのうちコンテナが備わるだろうしな」
「いいんですか?」
「もちろんだ」
ブレイソン、グンソンとロッド戦いぶりは見事だった。危なげなく安定感があり、敵の一瞬の隙も見逃さない。そして、それぞれの実力に見合った配置と作戦。
この街に来て食えない冒険者になって、浮浪児のように街を彷徨って、夜は路地裏で寝、昼は森に出で小物を狩る。
うだつの上がらない暮らしを続けながら、故郷に帰る事もできない。
そんな暮らしをしていた少年たちが、腕を上げていくのを見るのは嬉しいものだ、とシュンは思った。




