7.「世界樹を守るための戦いその1(※少しだけざまぁ描写アリ)」
リコが猫を被ってリスナーたちを戸惑わせた直後。
「モンスターから助けて頂きましてありがとうございますです!」
「!?」
一体どこにいたのか、突然、軽鎧を装備した赤髪ショートヘアの少女が現れた。
「私をねこさんの弟子にしてくださいです、師匠!」
「え? あんたは――じゃなくて、あなたは誰にゃ?」
「私は出石リッリです、師匠!」
「えっと、ねこはあなたの師匠じゃな――」
「あ、それとハグ――じゃなくて、握手してくださいです、師匠!」
一瞬両腕を広げるも、躊躇して、握手に切り替えて勢いよく迫るリッリに手を取られて、強引にブンブン握手させられるリコ。
〝あのねこちゃんが押し負けてるぞ!〟
〝何者だあの子は!?〟
「それと、私を師匠の弟子にして下さいです、師匠!」
「師匠と呼んだ後にそれはおかしいにゃ。というか、残念だけどねこは弟子は取っていないにゃ」
「あ、もし私を弟子にしてくれないなら、私、死にます」
「!?」
〝急に重くて草〟
〝危ない子だった・・・〟
明るい表情だが、本気であることを肌で感じ取ったリコは、「はぁ」と溜息を一つつくと、渋々首肯した。
「……分かったにゃ」
「わぁ! やったー! ありがとうございますです!」
(それにしても、この子……絶対に強い!)
リコは、直感でリッリの戦闘能力を見抜いた。
〝《謝意手ルナ》うう……ねこさん、自分のことは舎弟にしないと言っていたのに、何故っすか……?〟
〝おい、ねこちゃん! えこひいきは良くないぞ!〟
〝ルナっちを泣かせるな、ねこちゃん!〟
「あ、魔法陣が帰ってきたにゃ♪」
ずっと逃走を続けていた空間転移魔法陣が、スルスル~っと戻ってきた。
「リッリ。一緒に帰るにゃん? 中層の最奥だし、ここから地上に戻るのは結構大変にゃ?」
リッリは首を横に振った。
「ありがたいですが、遠慮しておくです。私は師匠みたいに強くなりたいですから! 修行が必要です!」
「ならこれを持っていくにゃ♪」
「いえ、それも遠慮しておくです。あくまで自力で、というのが大切かと思いますですので! では、失礼しますです! うおおおおおお!」
ボス部屋から走って出ていった彼女を見送ると、どうやら拳で戦うタイプらしく、モンスターを蹴散らしながら自力で戻っていった。
〝《謝意手ルナ》あ、ねこさん! ダンジョン庁からメッセージが来ましたっす! スタンピードは終息したようっす! それと、今日はこのダンジョンの下層以下には誰も潜っていないようなので、先ほどの子が最後っす! ねこさんに助けられて、みんな続々と地上に戻っていっているようっす! スタンピードにもかかわらず、死者ゼロ! 怪我人は複数いたものの、全員ねこさんによって傷が完治! 凄いっす!〟
〝うおおおおおお!〟
〝スゲーええええ!〟
〝ねこちゃん、救世主だ!〟
コメントを見たリコは、「ねこはただいつものダンジョンに戻りたくて、魔法陣を追い掛けていただけにゃ」と、目をパチクリする。
「でも、それで助かった人がいるなら、良かったにゃ♪ 真のヒール冥利に尽きるにゃ♪」
〝あざとキャラとヒールキャラが合体してるよ!〟
〝いや、これがきっと進化したねこちゃんなんだよ!〟
〝ねこちゃん2.0ってことやな! ええやん!〟
「では、戻るにゃ♪」
魔法陣を踏んだリコは、いつもの草原ダンジョンへと戻ってきた。
「じゃあ、改めて今から――と言いたいけど、大分時間も経っちゃったから、今日はやめおくにゃ。ではみんな、またにゃ♪」
リコは、今回は忘れずに配信をオフにして終了した。
※―※―※
少し時間は遡って。
リコに返り討ちにされた後、銀蛇は思考を重ねつつ地上へと向かっていった。
「あのクソガキは、俺様が『どうせ違法に取得したもんなんだろ? 俺様は知ってんだぜ? てめぇが、自分ちにダンジョンが出現したことを行政に届け出もせず、その中に生えていた世界樹を独り占めしてるってことをよ』とカマを掛けたら、『見付けて直ぐに両親が市役所に届け出たから、何の問題もない』と答えやがった。つまり、あのダンジョンはあのクソガキの家の敷地内にあるということだ。そしてあの無駄にでけぇ木は世界樹確定だ」
更に銀蛇は思考を進める。
「行政に届け出ているにもかかわらず、あのダンジョンの情報はダンジョン庁のHPには一切載っていなかった。噂すら聞いたことがねぇ。ってことは、私有地だから行政が遠慮してるってことだ。だが、放置って訳にはいかないから、まずは直ぐにドローンまたは少人数で中の調査を行って、その後は監視役を一人二人つけて見張らせてるってとこか。あとは、公には出来ないが、敷地の持ち主またはその家族が中に入るのは黙認してるってとこだな。生きてるモンスターはいないっぽいし」
そこまで考えると、丁度地上に繋がる出口が見えてきた。
「アーカイブによると、あのクソガキは、『伝説の総長』とかいうふざけた称号を持ってやがった。そして、ユニークスキル名が『ヤンキー』。恐らく奴は、元ヤンで、元レディースの総長だ。で、あれだけチビなら目立つし、調べれば直ぐ出てくるだろう。そして、注目すべきは、攻撃手段の一つが毒霧だったってことだ。親戚或いは友人――いや、一番自然なのは両親のどちらかまたは両方がプロレスラーって線だな。もっとも、両親も元ヤンとか元暴走族って可能性もゼロじゃねぇが……で、取り敢えず住所はこのN市内で決め打ちしておく」
スマホで調べると、リコがレディースチーム獄黒天使の総長だったことが早速判明。
両親がプロレスラーであることと、N市内に家があることも分かった。
「上出来だぜ」
銀蛇は、とあるグループにメッセージを一つ送った。
「見てやがれ、あのクソガキ! 俺様をコケにした報いを受けさせてやる!」
銀蛇は、邪悪な笑みを浮かべた。
※―※―※
ダンジョン配信者を語るスレ1563
228 名無しのダンジョン配信者さん
おい、銀蛇が配信枠を取りやがったぞ
229 名無しのダンジョン配信者さん
闇討ち謝罪会見でもやるんか?
230 名無しのダンジョン配信者さん
それがさ・・・
タイトルが「【世界初】世界樹の枝を引き千切ってみる」なんだよ
231 名無しのダンジョン配信者さん
は!?
232 名無しのダンジョン配信者さん
おい、まさか…
233 名無しのダンジョン配信者さん
あのクズ野郎、もしやねこちゃんの個人情報調べて、世界樹があるダンジョンに凸る気じゃねぇだろうな・・・
234 名無しのダンジョン配信者さん
ヤバいな、何とかねこちゃんに知らせる方法はないか?
235 名無しのダンジョン配信者さん
無理だ
連絡手段がない
ねこちゃん、SNSとか公開してないし
236 名無しのダンジョン配信者さん
せめて俺たちは銀蛇の配信を監視しておこう
237 名無しのダンジョン配信者さん
ああ、そうだな
奴の同接数と再生数が増えるのは癪だが、背に腹は代えられん
※―※―※
その日の深夜。
<タスケテ……! タスケテ……!>
「!?」
誰かの悲鳴が聞こえた気がして、リコはベッドから飛び起きた。
「……マズい! 助けなきゃ!」
可愛らしいピンクのパジャマもそのままに、リコは一階に下りて外に出て、裏庭へと向かった。
「! どうした!?」
行政から派遣されている監視役の男が、地面に倒れていた。
脈はある。呼吸も乱れていない。
怪我をしている様子もなく、衣服も乱れておらず、汚れもない。
どうやら、眠っているだけ――否、眠ら〝されている〟だけらしい。
「………………」
嫌な予感がしつつ、リコは物置に入り、魔法陣へと足を踏み入れた。
「てめぇかよ。何で気付きやがったんだ? 俺様のユニークスキル『究極隠密』は完璧なはずなのに!」
「!」
世界樹の前に佇むのは、兜まで装着したフルプレートアーマー姿の男。
その背後には、配信用ドローンが飛んでいた。
〝ねこちゃん来た!〟
〝パジャマ姿かわいい〟
〝言うてる場合か!〟
〝ねこちゃん、アイツを何とかしてくれ!〟
銀蛇のチャンネルを訪れたリスナーたちによるコメントが配信用ドローンの横のウインドウに流れる。
訝しげに眉を顰めて、リコは問う。
「誰だ?」
「俺様だよ! 銀蛇だよ! 声とか喋り方とか目元とかで分かれよ!」
(そう言えば、空間転移先のダンジョンの上層で、そんなような男と会った気がする……)
「ここで何をしている?」
「ハッ! 偶然家の敷地内にダンジョンが出来ただけなのに、私物扱いか? 俺様がわざわざ来てやったのは、これのためだ」
屈んだ男が拾い上げたのは。
「!?」
引き千切られた世界樹の枝だった。
「食べるだけでたちどころに傷を治しちまう葉っぱを付ける世界樹さまだ。きっと枝なら、もっとご利益があるはずだろ? レアアイテムなのは間違いないし、何なら超レア武器に化ける可能性だってある。六英傑最強のこの銀蛇様が存分に使ってやるよ。ありがたく思いやがれ」
<イタイ……! イタイ……!>
「……あんたには、世界樹の悲鳴が聞こえないのか?」
「はぁ? ただの木が喋る訳ねぇだろうが! てめぇ頭沸いてんのか? ぎゃはははは!」
<タスケテ……! タスケテ……!>
「……絶対に許さない! ぶっ倒す!」
全身から膨大な魔力を迸らせ一瞬で距離を詰めたリコは、自室から唯一持ってきた花冠を胸元から取り出して釘バットに変えると、強烈に殴打した。
ガンッ
吹っ飛ぶ銀蛇だったが、空中で一回転すると、難無く着地。
「凄まじい膂力だ。その馬鹿力だけは認めてやるよ。だが、御覧の通り、俺様は無傷だ」
「!」
「ドラゴンがドロップした鱗で作られた鎧だ。硬度も魔法防御も世界最高レベルだぜ? てめぇの攻撃なんざ通用しねぇんだよ」
〝アイツ、あんな切り札を持ってやがったのか!〟
〝いや、これまでそんな素振りは一切見せなかったぞ〟
〝多分、いざという時のために予めダンジョン庁の保管庫からくすねておいたんだろう〟
〝俺もその噂聞いたことあるぞ!〟
〝マジかよ・・・ねこちゃん! 何とか頑張ってくれ!〟
「どんな装備だろうが、関係ない! あんたは絶対にぶっ倒す!」
リコは、再び銀蛇への接近を試みようとするが、
「!」
飛翔してきた炎塊、氷柱、風刃、雷剣を回避するために跳躍、一旦距離を取る。
「そうそう。言い忘れてたけどな。ここに侵入したのは俺様だけじゃねぇんだよ」
銀蛇がパチンと指を鳴らすと、二十人の男たちが姿を現した。
その手には、魔石を入れ替えることで様々な魔法を放てる魔法銃が握られている。
「俺様の『究極隠密』は、他者にも使えるのさ。ありがたく思えよ? 全員透明なままてめぇを嬲り殺しにすることも出来たのに、わざわざ姿を見せてやったんだからよ。俺様は優しいだろ?」
〝何が優しいだ! ふざけるな!〟
〝お前のユニークスキルはめちゃくちゃ魔力を消費するから、短時間しか使えないってだけだろうが!〟
〝ていうか大の大人が女の子一人を集団で襲うとか、恥を知れ!〟
「うちのクランの精鋭たちだ。俺様は用心深いからな。念のために連れてきて正解だったぜ」
男たちは、無遠慮に下卑た視線をリコにぶつけた。
「リーダー。コイツ、好きにして良いんすよね?」
「はぁ、はぁ、はぁ……お、俺、ちっちゃな子、好き……」
「ぐへへ。気の強そうな幼女とか、たまんねぇな」
「ハッ! 良いぜ。ただし、まずは半殺しにしてからだ。死なない程度にボコったら、後はてめぇらで好きにしろ」
「よしゃ! 最高じゃねぇか!」
「リ、リーダーについてきて、よ、良かった」
「ぐへへ。ぐへへへ。ぐへへへへ」
〝うわああああ!〟
〝ヤベー奴しかいねぇ!〟
〝ねこちゃん、絶対に負けないで!〟
劣情に涎を垂らす男たちを、リコはただ静かに睨み付ける。
「よし! てめぇら、やれ!」
「「「「「おう!」」」」」
魔法銃を構えた男たちが引き金を引く寸前。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!
「「「「「がはっ!」」」」」
「「「「「ぐはっ!」」」」」
「なっ!?」
二十人全員が後方に吹っ飛んだ。
全員気絶しており、中には泡を吹いている者もいる。
「一体何が!?」
見ると、二十本の釘バットが宙に浮かんでいる。
「予め花冠を地面に置いておいたのか!」
〝ねこちゃんスゲー!〟
〝地面から無数の釘バットが飛び出して攻撃する光景、圧巻過ぎる!〟
〝〝非常時に対する備え〟がぱねぇよ!〟
「あとはあんただけだ」
リコは二十本の釘バットを一斉に銀蛇に向けた。




