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5.「モンスター集団暴走その2(中層攻略)」

「待つにゃあああ!」


 相変わらず逃げていく空間転移魔法陣を追い掛けて、リコは中層に入っていった。


 上層に比べて少し広い通路に出たが、モンスターの姿は見えない。


〝《謝意手ルナ》ねこさん、上層と違って、ここはギミックが厄介っす! 左右から矢が飛んでくるっすよ! 注意してくださいっす! その代わり、この区画を抜けるまでは、モンスターは出ないっすから!〟


「待つにゃあああ!」


〝ルナっちの警告を全く聞いていないねこちゃんw〟

〝魔法陣に夢中で可愛いねこちゃんと、可哀そうなルナっちw〟

〝《謝意手ルナ》うう……ねこさん……この区画の本来の攻略方法は、重装備のタンク役や大盾使いがパーティ全体を両側から守りながら進むか、ギミックが間に合わない程のスピードで駆け抜けるか、矢が射出される場所を記憶しておいて避けるか、ポーションを大量に持ち込んで多少の被弾を覚悟しつつ進むか、とかなんすけど……でも、ねこさんならきっと大丈夫っすよね! 信じてるっす!〟


 ヒュッ、ヒュッ


 走るリコに向かって、両側の壁に開いた隙間から早速矢が射出される。


「はわわ。何か飛んできたにゃ♪」


〝ふぁっ!?〟

〝指で止めた!?〟

〝嘘だろ!?〟


 リコは、まるでピースのような形で、両手の人差し指と中指を使って矢を挟んで止めた。


〝ていうか、釘バット、ねこちゃんの意思で簡単に花冠に戻せるんだな!〟

〝両手使いたい時は元に戻せば良いのか! 便利だな!〟


 先程の矢は序章に過ぎず、容赦なく次々と矢が放たれる。


 ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ


「にゃ♪ にゃ♪ にゃ♪ にゃ♪」


 それらを難無くキャッチしては捨て、駆け抜けていくリコ。


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ♪」


 ペースが上がると、リコの手もスピードを増す。


〝《謝意手ルナ》ちょ、ちょっと待って欲しいっす! ここの矢、こんなに多かったっすか!?〟

〝いや、異常だよこの量! 通常の五倍――六倍!? いやもっと!?〟

〝これもスタンピードの影響なのか!?〟

〝このまま増え続けたら、いくらねこちゃんでもキツイんじゃ・・・〟


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ


 更に飛翔する矢の数が増える。


「げ・い・げ・き・す・る・にゃ・ん♪」


 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン


 が、その全てが撃ち落とされていった。


〝何が起こってるんだ!?〟

〝《謝意手ルナ》すごいっす! キャッチした矢を百八十度回転、逆側から迫る新たな矢に向かって高速で投げて迎撃、をコンマ一秒で繰り返してるっす!〟

〝マジか!? 全然見えないけど、確かに矢が届く前に撃ち落とされてる!〟

〝うおおおおおお! スゲーえええええ!〟

〝流石ルナっち、スピードタイプだけあって、俺らに見えない動きも見えてるんだな!〟

〝《謝意手ルナ》でも、辛うじて見える程度っすよ! それに、ただ見えてるだけで、自分にはあの動きは到底無理っす! やっぱりねこさんは化けも――英雄っす! 最高に格好良いっす!〟

〝全然取り繕えてなくて草〟

〝ええんやで、〝化け物〟で! 日々モンスターと戦う探索者・配信者にとって、化け物は褒め言葉や!〟

〝とか言ってる間に同接14万人突破!〟

〝〝矢のギミックを素手で攻略する幼女〟とか、また新たな関連ワードがトレンド入りしてるし!〟

〝行け! ねこちゃん!〟


 と、その時。


「「「「「キキキッ」」」」」

「あ、何かやってきたにゃ」


 前方から、一メートルもの大きさの目玉に翼が生えたモンスターの群れが飛んできて、リコは立ち止った。パッと見では分からないが、モンスターから鳴き声がするため、どこかに口があるのかもしれない。


〝ここでデビルアイかよッ!?〟

〝ギミックに対処するだけでもしんどいのに!〟

〝下層のA級モンスターが追い打ちって、洒落にならんぞ!〟

〝《謝意手ルナ》ねこさん! デビルアイは硬いまつ毛を飛ばしてくるっす! 生身だと簡単に貫かれるっすから、要注意っすよ! ああ、でも、引き続き矢も注意して欲しいっす! だ、だけど、デビルアイも気を付けないと……ど、どうすれば!?」


どうやらモンスターに対してはギミックは発動しないらしく、デビルアイたちは早速まつ毛を飛ばし始めた。


〝《謝意手ルナ》ねこさん!〟

〝左右からは矢! 前方からはまつ毛! 逃げ場がない!〟

〝うわあああああッ!〟

〝もう駄目だああああッ!〟


 すると、リコは、胸元から素早く花冠を二個取り出してそれぞれ釘バットに変化させて両手に持つと、


「ふんっ!」


回転させて手を離した。


空中に浮遊しながら回転する釘バットが、左右に展開。大盾のように、小柄な彼女を迫りくる矢から守る。


〝釘バットシールド!?〟


 更にもう一個取り出した花冠もまた釘バットに変化、左手に持ち水平にしつつ、右手に花指輪を嵌めてメリケンサックを生み出して、釘バットを殴った。


「おらあッ!」


 ガンッ!


 飛翔してくる無数のまつ毛が、次々と撃ち落とされていく。


〝え!? 何その技!? 衝撃波!?〟

〝《謝意手ルナ》いや、アレは釘っすよ!〟

〝釘バットを後ろから殴って、釘を撃ち出してたんか!〟

〝あ、ほんとだ! バットの釘が無くなってる――と思ったら、またポコポコ生えてきた!〟

〝弾は無尽蔵ってか! 良いね!〟

〝いや、ねこちゃんの魔力次第だろ。でも、ねこちゃんの魔力は底が見えないから、実質無尽蔵かもw〟


「おらあッ!」


 ガンッ!


 グサグサグサグサグサッ


「「「「「ギャアアアッ!」」」」」


 飛翔する数多の釘により、まつ毛のみならずデビルアイも撃ち落として消滅、魔石に変えていく。


〝《謝意手ルナ》すごいっす! このままいけば、殲滅出来るっすよ!〟


「「「「「キキキッ」」」」」


 しかし、今度はリコの背後にもデビルアイの群れが出現。


〝《謝意手ルナ》挟み撃ちとか、ズルいっすよ!〟

〝流石にこれはヤベーよ!〟

〝左右から矢、前後からまつ毛!? 無理ゲーだろこれ!〟

〝ねこちゃん、どうするんだ!?〟


 後方を一瞥したリコは、また一つ花冠を胸元から取り出すと、左手に持つ釘バットを二本に増やした。


〝弾の数を増やすのは良いけど・・・〟

〝前後同時は無理だって!〟


「「「「「キキキッ」」」」」


 勝利を確信し、ニヤリと目を細めたデビルアイの群れが、前後から同時にまつ毛を放つ。


 大量のまつ毛がリコに襲い掛かる。


 魔力を膨張させたリコが、釘バット二本を右拳で殴った。


「おらあッ!」


 ガンッ!


 それまでの倍の数の釘が飛んでいくが。


〝そりゃ前に飛ぶよな!〟

〝後ろ! 後ろおおおおッ!〟


 リスナーたちがコメント欄で叫ぶ中。


 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン


 後方から迫っていたまつ毛も全て迎撃、撃ち落とされていた。


〝えっ!?〟

〝一体何が…!?〟

〝《謝意手ルナ》跳弾っすよ!〟

〝は!? 釘で跳弾!?〟

〝《謝意手ルナ》撃ち出された瞬間は尖った先端が敵の方を向いて飛んでいくけど、壁や天井、または地面に当たる瞬間に引っ繰り返って、丸い方がぶつかって跳ね返って、それを繰り返して後方に飛んでってるっす!〟

〝何で釘でそんなことが出来てんだよ!?〟

〝《謝意手ルナ》きっと魔力操作っすよ!〟

〝ねこちゃん、ぱねぇ!〟

〝フィジカルカンストの脳筋かと思いきや、魔力操作もチートレベルって、どうなってんだ!?

〟


「ダンジョン内にトラップを仕掛けて挟撃までするとは中々の悪党だが、それでもまだ甘い! 大悪党かつ真のヒールであるあたしには届かないのさ! ふははははは! 『跳弾』!」


 グサグサグサグサグサグサグサグサグサグサッ


「「「「「ギャアアアッ!」」」」」


 リコが跳弾させた膨大な数の釘によって、デビルアイは全て駆逐され、魔石へと姿を変えた。


〝うおおおおおおおッ!〟

〝ねこちゃんスゲーえええええッ!〟

〝ねこちゃん最強! ねこちゃん最強!〟


 盛り上がるリスナーたちだったが、しかし釘バット四本の内三本を元に戻したリコは、相も変わらず魔法陣を追って、ただひたすらダンジョン内を駆けていく。


ちなみに、余程いつもの草原ダンジョンに早く戻りたいのか、彼女は大量の魔石には目もくれない。


 途中でまた数組の探索者・配信者をモンスターやギミックから救い、負傷者を世界樹の葉で治し、例のごとく地上に戻る間限定の武器として釘バットを一本渡して(たっぷり魔力を込めておけば、ギミックへの対処からモンスターの殲滅まで一本で全て自動的にやってくれるらしい)、リコは中層最奥部にあるボス部屋の前まで来た。


〝同接20万人突破したぞ!〟

〝来たああああ! チャンネル登録者数100万人!〟

〝ミリオンおめ!〟

〝《謝意手ルナ》ねこさん、おめでとうございますっす!〟


〝ギミックとデビルアイに釘バットで完勝〟などのタイトルの切り抜きがまたしても拡散。〝釘で跳弾〟〝釘バットシールド〟〝宙に浮かぶ釘バット〟〝釘バット(遠距離攻撃)〟などの関連ワードがまたもトレンド入りした。


〝《謝意手ルナ》ねこさん、中層のボスは、ホブゴブリンっす! ゴブリンの上位種で、でかいっす! 3メートルくらいあるA級モンスターっすけど、ねこさんなら問題なく勝てると思うっす!〟


「では、行くにゃ♪」


 コメントに気付かないリコが、扉の下から中に入っていった魔法陣を追って、ボス部屋の重厚な扉を開くと。


「ギイイイイッ」

「おっきいにゃ♪」


〝なっ!? 3・・・メートル!?〟

〝どう見てもアレ、10メートル・・・いや、20メートルはあるぞ!〟


 スタンピードの影響か、広い部屋の中央に佇むホブゴブリンは巨大化しており、その手に持つ棍棒は優に10メートルはある。

 本来ならA級のはずのボスモンスターは、S級、或いはそれ以上の驚異へと変貌を遂げていた。


「「「「「グモオオオオオッ!」」」」」


 更に、戦斧を持ったS級モンスターのミノタウロスが十匹(こちらは通常サイズの三メートル)、ホブゴブリンの周囲にてリコを睨み付け、雄叫びを上げる。


〝なんだこの地獄みたいな状況は!?〟

〝中層なのにS級モンスターが11匹!?〟

〝《謝意手ルナ》ね、ねこさん! マズいっすよ! 一旦退いて、立て直すっすよ!〟


 だが、リコはおもむろに胸元から〝世界樹の葉を折って舟の形にした笹舟もどき〟を取り出すと、


「腕が鳴る――じゃなくて、怖いから、万全の準備を整えるにゃ♪」


 光を帯びたそれから、ふわりと手を離した。


 落下しながら変形、と同時に巨大化したそれは――


ドッドッドッドッドッ


〝は!? バイク!?〟

〝舟の形してるのに舟じゃないんかーい!〟

〝まぁ、葉っぱを折ってバイクの形にするのは難易度が高過ぎるわなw〟

〝ダンジョン内でこんな光景見たことねぇよ!〟

〝ていうかメリケンサックにも釘バットにもバイクにもなるって、世界樹の花と葉、万能過ぎだろ!〟

〝万能なのはねこちゃんのユニークスキル定期〟


「久し振りに――じゃなくて、初めてだけど、乗ってみるにゃ♪」


 小柄なリコは、笹舟もどきを変化させて作ったミニバイクに跨ると、釘バットを肩に担いでモンスターたちを見据え、不敵な笑みを浮かべた。

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