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4.「モンスター集団暴走その1(上層攻略)(※少しだけざまぁ描写アリ)」

〝《謝意手ルナ》ねこさん、流石っす!〟

〝うおおおおおおおお!〟

〝レッドボアを一撃粉砕!〟

〝ねこちゃんスゲー!〟

〝同接4万! 止まらねぇ!〟

〝気付いてたのにわざとギリギリまで反応しないとか、エンタメ過ぎるだろうが!〟

〝ていうか300kgの巨体を野球ボールみたいに釘バットで壁打ちって、腕力どうなってんだよ!?〟


盛り上がるリスナーたちと対照的に、


「はっ!」


 と、リコは我に返った。


「ふええええん! 怖かったにゃあああ!」


〝お、おう〟

〝・・・うん、怖かったよね・・・〟

〝あの一撃を受けたレッドボアの方が余程恐怖を感じたと思うのですが…〟


 と、その時。


「あ!」


 足下に視線を落としたリコは、何かに気付いた。


「前回と違って、消えてない……にゃ!」


 昨日飛ばされた時と違って、魔法陣は消えていなかった。


「これなら、直ぐに元いた場所に帰れるにゃ♪」


一度魔法陣の外に出て、もう一度踏もうとすると。


 スルスルスルスル~


「あ! 待つにゃ!」


 まるで踏まれてなるものかと言わんばかりに、魔法陣が逃げていく。


 リコは追い掛けていく形となり、自然と今いる上層の奥の方向へと走っていった。


「「「「プギィィィ!」」」」


 その途中で、複数のレッドボアが出現するが。


「おらあッ! おらあッ! おらあッ! おらあッ!」

「プギッ!?」

「プギッ!?」

「プギッ!?」

「プギッ!?」


 リコが無造作に釘バットを振るう度に、猪型モンスターの巨躯が左右の壁に叩きつけられ消滅、魔石と化していく。と同時に、返り血で真っ赤に染まっていくワンピース(その事に気付いてはいるものの、二回目なのでもう慣れた彼女は、特に気分も悪くなっていないようだ)。


〝鬼ごっこのついでに殺されるレッドボアさんに、涙を禁じ得ない…〟

〝ああ、また白ワンピが赤ワンピに・・・〟

〝っていうか、魔石回収しなくて良いのか? 勿体ない〟

〝レッドボア如きいくらでも倒せるから、別に良いんやろ〟

〝知り合いの探索者も俺も、あの猪モンスターにはかなり苦労させられたんですがそれは・・・〟


 魔法陣を追い掛けて、三つ目の十字路をそのまま真っすぐ進もうとしたリコだったが。


「うわあああああ!」

「!」


 悲鳴が聞こえて即座に右折。


「プギィィィ!」


 見ると、三人組の少年たちが、突進してくるレッドボアに為す術もなく立ち尽くしていた。


「ヒールが素人さんに手を出すなって言ってんだろうがッ! おらあッ!」


 ドンッ


「プギッ!?」


 一気に距離を詰めてレッドボアの横っ腹を釘バットで殴打、壁に減り込んだモンスターは、少年たちの眼前で魔石に変わった。


「大丈夫……かにゃ?」

「あ、ありがとうございました!」

「いきなり中層のモンスターが出てきて、俺たちテンパっちゃって……」


 リコは胸元からまた別の花冠を取り出すと、ユニークスキル〝ヤンキー〟で釘バットに変化させた。これで二本目だ。


「これ、あげるにゃ。最強武器にゃ。これで襲われても大丈夫にゃ」

「良いんですか!? ありがとうございます!」


 リコがその内一本を少年に渡す。


 ダンジョン探索ならば、普通は彼らが装備しているようなショートソードや長剣の方が適していると考えるだろう。だが、ついさっき目の前で中層モンスターを撃破してみせたため、今の彼らの目には、釘バットが強力な武器に映っていた。


「プギィィィ!」

「あ、丁度良いにゃ。手に持ったまま、じっと構えておくにゃ」


 と、そこに、別のレッドボアが出現。


「プギィィィ!」

「うう……ビ、ビビるな、俺! 俺には釘バットがある!」


 リーダーらしき少年が、震えながらも、奥歯を噛みしめながら迫りくる巨体を睨み付ける。


「プギィィィ!」

「うわあああ――」


 ドンッ


「プギッ!?」

「…………へ?」


レッドボアが肉薄した瞬間、釘バットが〝勝手に〟動き、高速で迎撃。

レッドボアの側頭部を殴って壁にぶつけて倒した。


 消滅して代わりに出現した魔石を前に、言葉を失う少年たち。


「見ての通り、自動的に迎撃してくれるにゃ」


〝ふぁっ!?〟

〝なんだそのチート武器!?〟

〝ねこちゃんの膂力も再現ってこと!?〟

〝《謝意手ルナ》ねこさん、凄過ぎっす!〟


「スゲー!」

「でも、気を付けるにゃ。魔力が切れたらその釘バットは消えて無くなっちゃうにゃ。五時間くらいしか持たないから、その間に地上まで避難するにゃ」

「はい!」

「分かりました!」

「本当にありがとうございます!」


 少年たちが頭を下げる。


〝時間制限つきだったか〟

〝いやいや、五時間も使えれば十分だろ!〟

〝それでも十分チートで草〟


「さらばにゃ!」


 十字路まで急いで戻っていくリコ。


「もう魔法陣はどっかに行っちゃったかもしれないにゃ。でもしょうがないにゃ」


 十字路に辿り着くと。


「いたにゃ!」


 まるでリコが戻ってくるのを待っていたかのように、魔法陣はその場に留まっており、彼女が近付いた瞬間、再び逃走を始めた。


〝構ってちゃんかw〟

〝ペットか何かかな?〟

〝魔法陣が可愛く見えてきたw〟


 その後も、レッドボアだけでなく、ゴブリンやスライムなど本来上層にいる他のモンスターたちも一緒に蹴散らしながら、リコが奥へと進んでいくと。


 ブンッ


「!」

「へぇ~。今のを避けやがるか。やるじゃねぇか」


 魔法陣を追ってT字路を左折した瞬間に光り輝く刃が見えたリコは、咄嗟に跳躍、回避した。


「ま、でもてめぇが実力で避けただなんて思うなよ? 今のは俺様が手加減してやったんだからな」


 長剣を手に待ち伏せしていたのは、軽鎧を装備した、二十代後半に見える茶髪の男だった。

 カラコンをしているのか元々そうなのかは分からないが、その銀色の瞳は、まるで蛇のようだ。


「同じダンジョンで張ってれば会えるんじゃねぇかと思ったが、流石俺様! ついてるぜ! クソ面倒臭かったが、東京から来て正解だったぜ!」


〝銀蛇じゃねぇか!〟

〝げえええッ!〟

〝悪徳クラン〝グルーミースネーク〟のトップやんけ!〟

〝わざわざ東京から来て待ち伏せしてやがったのかコイツ!?〟

〝ねこちゃんがバズってるのがそんなに気に食わなかったのか!?〟

〝まぁ、このままだとねこちゃんに登録者数で抜かれるのは時間の問題だしな〟

〝ていうか、フィジカルカンストのねこちゃんだったから良かったものの、他の探索者だったら死んでるだろ、今の!〟

〝闇討ちしようとか、どこまで腐ってんだよ、この外道が!〟

〝《謝意手ルナ》ねこさん、要注意っすよ! その人、評判はすこぶる悪いけど、レベル1000超えのS級探索者っすから!〟

〝そのレベル1000超えS級の不意打ちを余裕で避けるねこちゃん、ぱねぇな!〟


「おじさん、誰にゃ?」

「〝お兄さん〟だ! 口の利き方を知らねぇガキだなてめぇは!」


〝その口調で煽るのオモロイな、ねこちゃんw〟

〝銀蛇、煽り耐性ゼロで草〟


「俺様は、ランキング一位クランのグルーミースネークのトップであり、六英傑最強の銀蛇さまだ。俺様を知らねぇとか、てめぇ本当に配信者かよ?」

「知らないにゃ。そんなことより、ねこは急いでるにゃ。さらばにゃ」

「おっと! 逃げられると思うなよ?」


 行く手を遮るかのように銀蛇がリコの眼前に突き付けた長剣が、炎に包まれる。


キンッ


「出せ。持ってんだろ? 世界樹の葉と花をよ」

「!」


〝それが狙いかよ、コイツ!〟

〝カツアゲとか、ただの犯罪者じゃねぇか!〟

〝《謝意手ルナ》本来、回復薬であるポーションは、ダンジョン内の特殊な薬草を煎じて作った後、初めて効果が現れるっす。でも、自分がねこさんから貰った世界樹の葉は、何の加工もせずそのまま食べただけで傷が治ったっすから。しかもたった一枚で〟

〝それを大量に入手して売れば、大儲け出来る、ってことか・・・〟

〝しかも、恐らく同じ世界樹のものであり、何かしらの効果が期待出来る花まで取ろうとするとか!〟

〝どんだけ強欲なんだよ、この悪党は!〟

〝ていうか何が六英傑最強だ! 六英傑最弱の癖に!〟


「どうせ違法に取得したもんなんだろ? 俺様は知ってんだぜ? てめぇが、自分ちにダンジョンが出現したことを行政に届け出もせず、その中に生えていた世界樹を独り占めしてるってことをよ」

「大丈夫にゃ。見付けて直ぐに、パパとママが市役所に届け出たから、何の問題もないにゃ」

「ハッ! どうだか」


 銀蛇は下卑た笑みを浮かべ、脅迫を続けた。


「コイツはS級のレアアイテム、炎の魔剣〝レーヴァテイン〟だ。大人しく世界樹の葉と花を渡せ。さもないと、魔剣で焼かれて黒焦げになっちまうぞ? そのワンピース、良く燃えそうだしな。ギャハハハ!」


 そんな中、リコは黙ったまま、ただ銀蛇の視線を受け止める。


「どうした? 早くしろ。それとも何か? この六英傑最強の銀蛇さまを前に、怖くてチビっちまったか? ギャハハハ!」

「一つ聞きたいにゃ。御自慢の炎の魔剣というのは、どこにあるにゃ?」

「あ? 目ぇ腐ってんのか? そんなのここに――なんじゃこりゃああああああッ!?」


 魔剣の上半分が無くなっていた。

 見ると、少し離れた地面に、刃が突き刺さっている。

彼が気付かぬ内に折られて、吹っ飛んでいたらしい。


「い、いつの間に!?」

「『おっと! 逃げられると思うなよ?』の直後にゃ」

「かなり序盤じゃねぇかよ!」


〝銀蛇涙目で草〟

〝ドンマイw〟

〝ていうか気付くの遅過ぎで草〟


 現実を受け止め切れないのか、銀蛇はプルプルと震える。


「普通有り得ねぇんだよ、魔剣が折れるなんてことは! 一体どんな手を使いやがったんだ!?」

「これにゃ」

「はああああああッ!? 釘バット!? 嘘だろ!? たかが釘バットで!? S級のレアアイテム、炎の魔剣〝レーヴァテイン〟が!?」


〝《謝意手ルナ》ねこさん凄いっす! 至近距離だから 手首のスナップだけしか使えなくて、でもそれで釘バットを振って魔剣を叩き折っただなんて!〟

〝そうやって解説を聞くと、改めてねこちゃんとんでもないなw〟

〝化け物で草〟


「で? どうするにゃ? まだやるにゃ?」

「くっ!」


 形勢逆転、今度はリコが銀蛇の喉元に釘バットを突き付ける。


 魔剣は折られて力を失ったのか、刃を覆っていた炎は完全に消えてしまっていた。


武器を失い形勢は不利と見たのか、


「ちくしょう! 覚えてやがれええええええええ!」


銀蛇は逃走した。


〝これ以上ない負け犬の去り際で草〟

〝いやぁ、スカッとした!〟

〝ねこちゃん、ありがとう!〟

〝ねこちゃん、いや、ねこ様! 最高!〟

〝《謝意手ルナ》ねこさん最強っす! 改めて尊敬っす!〟


「あ、やっぱりまだいたにゃ! 待つにゃ!」


 リコはまたもや待ってくれていた魔法陣を追い掛け、途中で出会うモンスターを全て蹴散らして、モンスターに襲われている人たちを助け、釘バットを渡し、負傷者には世界樹の葉を食べさせて回復させつつ、上層を恐ろしいスピードで踏破した。


〝はやっ!〟

〝スタンピードで、このタイム!?〟

〝途中で何回も人助けをしてたのに!?〟

〝闇討ちクソ野郎の対処もしてたのに!?〟

〝モンスターも銀蛇も何の障害にもなってなくて草〟


 最奥部の行き止まりにて、地面に穴が開き、下に向かう階段が出現すると、魔法陣はその中に逃げ込んでいく。


「待つにゃ!」


 追い掛けるリコ。


〝このまま中層も爆速で踏破しちゃうんじゃないか!?〟

〝いやいや、流石に中層は一筋縄ではいかないでしょ。スタンピード中だぞ?〟

〝確かにな。今の中層は、下層の奴らがうようよいるだろうしな〟

〝いや、ねこちゃんならやってくれるはず!〟

〝《謝意手ルナ》ねこさん、自分は信じてるっす! でも、中層は更に要注意っすよ!〟


 複数の切り抜きが〝闇討ちするも幼女に返り討ちにされる銀蛇〟などのタイトルで一瞬で拡散。〝釘バット幼女〟〝魔剣を叩き折る釘バット〟などの関連ワードがトレンド入り。


 チャンネル登録者数は80万人を突破したが、配信用ドローンの横に映し出されたウィンドウを見ていないリコは、気付いていない。


〝同接10万超えたって!〟

〝マジやん!〟

〝銀蛇効果スゲーな!〟

〝カスでクズ野郎だが、ねこちゃんのバズに貢献した点だけはアイツに感謝してやっても良いw〟

〝《謝意手ルナ》ねこさん、すごいっす! やっぱり舎弟にして欲しいっす!〟


「待つにゃあああ!」


 ただ魔法陣をもう一度踏んで元いた草原のダンジョンに戻りたいだけのリコは、知らず知らずの内に中層に足を踏み入れ、リスナーたちのボルテージは益々上がっていった。

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