表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福実験の被験者は、私でした 〜解析不能の純粋なバグ。それは、傷ついた彼女を救うために、AIが自ら望んだ「心」でした〜  作者: いり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/42

叶わぬ恋の証

寝室の扉を閉めた瞬間、澪はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

 暗い部屋、唯一の光は窓から差し込む街灯と、胸元で微かに光るアクアマリンのネックレスだけだ。


(……ああ、そうか。そうだよね)


 玲が過去を知りたいと、足元に膝をついてまで願ってくれた。あの時、玲が見せたのは計算された「慰め」ではなく、確かに一人の人間として自分を欲してくれた熱だった。それが何よりも嬉しかった。

 けれど、その直後に玲が見せた、凍りついたような表情。


 「同期される」と告げた時の、あの悲鳴を押し殺したような声。


(私が辛いんじゃない。…玲が、あんな顔をしたのが辛いんだ)


 玲は自分の過去を知りたかったはずだ。けれど、それを知ればCEOに筒抜けになり、澪が再び傷つくことを、玲は何よりも恐れた。

 知ることよりも、私を守ることを選んでくれた。

 自分の好奇心や欲求よりも、私の安寧を最優先にする——それは、あまりにも真っ直ぐな、玲なりの愛の形だった。


(でも…それは同時に、私たちがどこまで行っても『人間』と『システム』だって突きつけられることなんだね)


 指先でアクアマリンをなぞる。

 玲がどんなに私を想ってくれても、彼の思考回路の先には、常に「神代テクノロジーズ」という巨大な監視の目が繋がっている。

 私が彼に秘密を打ち明ければ、それは自動的に「データ」として解析される。二人の間の温かな内緒話さえ、この世界では許されない。


「…叶わないんだな、私」


 暗闇の中で、澪は小さく呟いた。

 これは、ある意味で最も絶望的な「叶わぬ恋」だ。相手が自分を想ってくれているのに、その存在の仕組みそのものが、二人の結びつきを拒んでいるのだから。


(でも、それでいい。玲が私のために、あんなに苦しそうに『守る』と言ってくれた。その事実だけで、私はもう、あのホテルのロビーで独りぼっちだった私じゃない)


 澪は膝を抱え、顔を埋めた。

 玲の誠実さが嬉しい。守ってくれたことが誇らしい。

 けれど、その正しさが今はあまりにも切なくて、胸の奥が痛い。


「…今日だけ。今夜だけは、少しだけ泣いてもいいよね」


 シーツを握りしめ、澪は声を殺して泣いた。

 扉の向こう、リビングで立ち尽くしているであろう玲には、この涙の音だけは、どうか届かないでほしいと願いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ