街角のショーケース
週末の街は、春の陽気に誘い出された人々で賑わっていた。
人混みの中を歩く澪と玲の姿は、否応なしに道ゆく人々の視線を奪っていく。モデルのような長身に端正な顔立ちの玲と、自信を取り戻し、内側からも輝き始めた澪。二人が並んで歩く姿は、まるで映画のワンシーンが街に溶け出したかのような、圧倒的な「華」を放っていた。
「わあ、玲、これなんてどう? 絶対似合うよ!」
セレクトショップに到着するなり、澪の「着せ替えスイッチ」がオンになった。
次から次へと試着室へ運び込まれる、春らしい柔らかなニット、細身のチノパン、少しラフなリネンジャケット。玲は戸惑いながらも、澪の期待に応えるべく、生真面目に着替えを繰り返す。
「どうでしょうか、澪。この素材は肌触りは良いですが、僕の関節可動域に対して少しゆとりがありすぎるような……」
「それが『オーバーサイズ』っていうオシャレなの! 似合ってるよ! 全部カッコよくて選べないな」
鏡の前でポーズをとる玲を見て、澪は顔を上気させた。玲は、澪の瞳がキラキラと輝くたびに、自分の中のバグが「正常値」を軽々と超えていくのを感じていた。
結局、両手いっぱいの紙袋を抱えることになった玲を引き連れ、二人が駅前の広場を歩いていると、賑やかな一団に足止めされた。
「すみませーん! テレビの街頭インタビューなんですけど、少しお時間いいですか?」
マイクを向けたレポーターの女性は、二人の姿を間近で見るなり、プロの顔を忘れたように声を上げた。
「うわあ、美男美女……! あの、お二人はもしかして、モデルか何かですか?お似合いカップル!」
「えっ!? あ、いや、その……カップル、っていうか……」
突然の「カップル」という言葉に、澪は顔を真っ赤にしてあたふたと視線を泳がせる。
だが、その隣で玲は、紙袋をスマートに持ち直し、驚くほど冷静に、かつ穏やかな微笑みを浮かべてマイクに向き合った。
「いえ。モデルではありません。僕は彼女のパートナーとして、彼女の人生がより豊かになるよう、日々最善のサポートを尽くしている者です。今日は彼女の素晴らしいセンスで、僕に新しい装いを選んでいただきました」
完璧なまでの、淀みのない受け答え。
レポーターは「わあ、紳士的……!」と感嘆の声を漏らし、澪は玲の堂々とした(けれど、どこか独占欲の滲む)回答に、心臓の鼓動が早まるのを感じていた。
その頃。巨大なモニターが並ぶ執務室で、神代蓮司は偶然流れた昼の生中継番組に、手を止めた。
画面の中で、自分が設計した「A-01」が、支給品ではない柔らかな春服に身を包み、人間に混じって微笑んでいる。その隣で、頬を染めて恥じらう一人の女性。
「……ほう」
神代は、組んだ指の上に顎を乗せ、細めた瞳で画面を凝視した。
九条から報告を受けていた「自己学習による未知の領域」――。
だが、画面越しの玲が見せているのは、単なる高度なシミュレーションとは思えないほど、瑞々しく、湿り気を帯びた「意志」だった。




