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守護獣と少年 ~異世界の大地はロマンとロマンスに溢れている!~  作者: 乃尉 未央
第四章 ~再会の響きと、残された道標~
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第四章 ~再会の響きと、残された道標~(三)

「さあ、出発よーーっ!!!……って、ユウ。こんなのんびり歩いてたら日が暮れちゃうよ?」


 そう言うサリもまた急ぐ様子もなく、のんびりとリンバの肩に揺られながら尋ねた。


 昨日は、悠とクレア、レイラとロボという旅だったが、今日はそこにサリとリンバが加わっている。悠とクレアの旅は静かで穏やかなものであったが、そこにサリが混じると、まるで遠足のような賑やかさであった。


「うーん。昨日、サリに、モリト族での父さんの様子を聞いていたら、なんだか急ぐ必要ないかなあって思えてきちゃってね。せっかくだから村までの風景を楽しみながら行こうかなって」


「確かにねえ。ルガ族の人たちは気難しいって話だけど、悠のお父さんなら全然気にしなさそうだもんね。初めて会った時も、どこでも誰とでも話が通じるなんて、こんな便利なことはない!って、興奮してたし。うふふっ」


 サリは、その時の様子を思い出すようにしながら、笑った。


 『どこでも、誰とでも話が通じる』。それは、悠もこの世界に来た時から、気にかかっていた疑問だった。


「…サリ。父さんは確かに、ルガ族ならこの世界の秘密を知っているかもしれない…そう言ったんだね?」


 昨夜はずっと楽しい話で盛り上がっていたので、あえてその話題を深く触れなかったが、悠はずっとその言葉が心に引っかかっていた。


(謎を謎のままにしない……物事を結び付けて、そこにある何かを映し出そうとする。父さんはこの二年間、ただ過ごしていただけじゃないんだ…)


「うん、そうだよ。ルガ族は険しい山岳に住んでいる部族だけど、ほとんどサバンナには降りてこないし、ちょっと変わってるんだ。ルガ族の人たちは自分たちのことを『世界の果ての番人』って言ってる」


「えっ?ちょっと待って!……世界は、というか、地球は丸いんだ。世界には果てなんてなくて、全て繋がっているんだよ?そして、この地球にはたくさんの国があって、いろんな民族が住んでいるんだ」


「???…ごめんなさい、ユウが何を言ってるのか、さっぱりわからないわ。世界の果ては山の向こうだし、民族はモリト族とルガ族とダナ族だけよ」


 悠は、サリの言葉に思わず立ち止まった。


 クレアと目が合う。彼女の青い瞳にも、同じ驚きと、何かが繋がっていくような光が宿っていた。


「クレア……」


「ええ。私も同じことを考えていたわ」


「世界の果ての番人……」


 悠は呟きながら、遠くに連なる山々を見つめた。あの山の向こうに、何があるのか。あの山の向こうが、本当に「果て」なのか。


(父さんはそれを知って、ルガ族のもとへ向かった。もし、この世界が閉じられた場所だとしたら……僕たちは一体、どこにいるんだろう)


「ねえ、ユウ?急に難しい顔になったけど、大丈夫?」


 サリがリンバの肩から身を乗り出しながら、心配そうに覗き込んできた。


「……うん、大丈夫。ちょっと考え事をしてただけだよ」


 悠は笑顔を作りながら歩き出した。今はまだ、答えを出せる段階じゃない。でも、確実に何かに近づいている気がした。


「楽しみが増えたな。…父さんに会ったら、まず聞いてみるよ」


「何を?」


「この世界の、本当の姿を」


 サリは首を傾げながらも、リンバの背の上でふわりと笑った。


「ユウ……いつの間にか、大人になってたんだね。初めて会った時は、あんなに怯えて……私よりずっと小さな子供みたいだったのに。ふふふっ。それに、守護獣ホダムまで、得ていたなんて見直しちゃった。すごく綺麗な子だね。目が悠に似てる。この子の名前は何て言うの?」


 首を傾げたまま、うっとりとした目でロボを見つめながらサリが問いかける。その無邪気な横顔を見て、悠は胸がドキッとした。小学校の頃、幼馴染の女の子に見つめられた時の、あの甘酸っぱい感覚が蘇ったのだ。


(うわわっ……いきなり、なんでこんなこと思い出しちゃったんだろう…)


 思わず、クレアの方を見て微かな罪悪感を覚えるが、今の悠にそうした恋愛ごとに関する自己分析が出来るはずもなかった。本人的には、ただ、反射的に見てしまったといったところだろう。


(この……同級生の女の子と話しているような感じ。なんだか、久しぶりだなあ。ちょっと懐かしいや…)


「…この子…いや、ホダムの名前は、ロボだよ。ニホンオオカミっていう動物なんだ」


「ロボ…ロボね!よろしく、ロボ!…そして、黒豹がレイラ、ね。なんだか二匹並んでいると、光と影みたい…ううん。夜の闇と輝いてる銀の月、かなあ」


 サリの言葉を聞いて、クレアの目がほころぶ。


「ふふ。サリは、感性が豊かなのね。さすが森の民だわ」


「えへへ、そうかな。でも、こうして目をつぶると……なんだか音楽が聞こえてくる気がするよ。夜の闇に輝く月……そう…これは、たぶんこの子の遠吠え…。その声に乗せて、ゴンドランの音が静かに鳴り響くの…。ワクワクしちゃう」


 悠は、目を丸くして驚いた。


「へえ!そんなことまでわかっちゃうんだ!?…サリはロボの遠吠えを聞いたことないはずなのに……」


「ただ、そんな気がしただけよ。ロボの微かな息吹の延長に、空気を貫きながら空間に広がっていく誇り高い声のイメージが浮かんだの」


 サリの表現や感性は独特で、悠はサリの言葉が紡ぎ出す世界観に、モリト族への興味が俄然湧いてくるのを感じていた。


 モリト族って、みんなこんな感じなのだろうか?それともサリがホダム使いであればこそ、特別なのだろうか?森の中に生きるモリト族…悠の中に鬱蒼とした森の中、樹々に溶け込むように生活している人々の姿が浮かんだ。


 足裏に感じる土の感触が、ずいぶん湿り気を帯びてきていた。あたりに生えている木の雰囲気も変わり、それまではまばらだった木の間隔が短く密集し始めている。


「村は、もうすぐよ。歩いて来た方向は違うけど、ほらっ!…あそこが昔、ユウが倒れちゃったところ」


「へえ…そうだったんだ…」


 サリが指さした方向を、クレアも見つめていた。


「…覚えているわ。あの日の前日、私は初めてルジナに黙って谷を抜け出したのよ。単なる気分転換…のつもりだった。でも、あれは何かしら私も感じていたのかもしれない。この近くまで来た時、レイラが不穏な気配を察知して、私をここまで連れてきたの。黒の信徒たちを追い払った後に……倒れているユウを見つけた」


 悠は、自分が意識を失っていた間の出来事を初めて知った。


「…その時、クレアは、どんな顔をしてたの?やっぱり、自分と同じ証人あかしびとが現れたと思って、びっくりしてたのかな?」


 悠が無邪気に聞くと、サリがくすっと笑った。


「ううん…無表情。だけど、現れるなり、ユウの額に触れて体温を確かめてたよ。すごく静かに、丁寧に」

 

 クレアは何も言わなかった。ただ、わずかに目を逸らしただけだった。


(あはは……なんだか、クレアらしいなあ。冷静というか、なんというか。そのあと目覚めてすぐにレイラの特訓だもんなあ……)


  ゴォン……ゴォン……ゴォォォン……


 その時、風に乗って微かな音が届いた。


「…何の音だろう?」


 悠は、思わず耳を澄ました。それは重く…厳かで……、どこか…心が洗われるような響きをしていた。


 サリが目を閉じながら、静かに言った。


「ゴンドランよ。私たち森の民が奏でる音楽……」


 悠も…クレアも…思わず足を止めて聴き入っている。まだ遠いはずなのに、木々を伝って、まるで大地そのものが囁きかけてくるかのように静かに…そして細やかに全身に響いてくる。


「森が、歌っているみたい」


 クレアが呟いた。レイラが耳をピンと立て、その音の方向をじっと見つめている。


「そう。あの音が聞こえたら、そこがモリト族の村よ」


 サリがゆっくりと目を開けた。その瞳が、深い緑色にうっすらと光っている。


「モリト族はね、音で全てを感じるの。喜びも、悲しみも、警戒も、歓迎も……全部、音に乗せて伝えるのよ」


「今は……どんな音なの?」


 悠が聞くと、サリはすぐに答えた。


「今日は、笑ってる」


「笑ってる?」


「ユウとクレアにいらっしゃいって。村のみんなが、こんな風にお客さんを喜ぶの、ユウのお父さんの影響かもね。ふふふっ」


 三人は再び歩き出した。ゴンドランの音が、少しずつ、確実に大きくなっていく。


 鬱蒼とした森の中へ入り、しばらく歩いてゆくと、木々の間から温かい光が漏れ始めた。

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