その52
「Aランク冒険者のメリルがただいま帰ったのです!」
メリルはイルマの待つ家の扉を開け放つと、帰りを待って居であろうイルマに向かって両手を腰に当て得意げにそう叫んだ。
「やっと戻ってきたかい。バカなことを言ってないでさっさと入りな、食事にするよ」
イルマはメリルの言葉を気にも留めず台所で火にかけた鍋をゆっくりとかき混ぜている。
「バカなことじゃないのです! 私はAランク冒険者のメリルなのです!」
先程よりも更に胸を張りメリルが答える。
イルマは鍋を火からおろし、テーブルに運んでくると説明を求める様にこちらに視線を向けてきた。しかしこの二人はいったい今までどうやって意思疎通を図ってきたのだろう?
「メリルの言っていることは本当じゃよ」
メリルに任せているといつまでたっても話が進みそうもないのでワシとアシュリーからの説明が不可欠の様だ。
「あんた達も食べていくだろう? 話を聞くのは食事をしながらにしようかね」
イルマは訝しげな表情を浮かべながらテーブルにワシとアシュリーの分を含め皿を並べていく。
「すまぬな、頂くとしよう」
そう答え、扉の前でまだ腰に手を当て胸を張るメリルの横を抜け中へと入る。
ワシとアシュリーは皿の並べられたテーブルに横並びに着くとその向かい側にイルマも座る。
「私も食べるのです!」
そう叫ぶとメリルは漸く扉の前から離れテーブルにやってくるとイルマの横に座った。
「それで、どういう事なんだい?」
皿に盛られたパンを手に取るとイルマが問いかけてきた。
そしてワシから冒険者ギルドでの顛末をそのままイルマへと話して聞かせた。
「あの小娘に目を付けられたのかい、それは面倒な事だね」
パンを口に運んでいた手を止めイルマが言葉を零す。おや、イライザの事を知っているのか? それにしてもイライザは小娘と言うほどの歳ではないように思うがワシやイルマから見れば小娘と言えなくもないか。
「イルマさんもイライザを知っているのですか?」
イライザの名前に顔をしかめるイルマに思うところがあったのかアシュリーが問いかけた。
「そうだね、一時期やたらと付きまとわれてね。私はもう引退したって言っているのにしつこかったよ」
イルマは少し前にアシュリーがしていたものと同じ表情を見せる。このままいくとワシもあの表情をしなければならないかもしれない。
「そうなのですね、私はまだしばらくつき纏われそうです……」
「あんたもかい、それは難儀な話だね。ただ私が言うのもなんだけれどアレの人を見る目は確かだよ。あんたも冒険者としてかなりの腕なんだね」
イルマは同情するような目でアシュリーを見つめる。
「しかしその確かな腕の冒険者の師匠だというあんた、十兵衛は一体どれだけのものなんだい?」
イルマは険しくはあるがどこか好奇心の混ざったような目でその視線をアシュリーからワシに移してくる。
「ワシは少し剣の振れるただのジジイじゃよ」
目の前にSランク候補が二人いるがワシにはこの世界の基準がいまいち理解できていない。なのでワシの感じている感覚をそのまま伝えた。
「ただのジジイがリッチを斬ったりなんてできるわけないだろうに」
うん、まあ周りから聞こえる話からしてそれは当然の反応なんだろうけどワシとしてはその感覚がいまいち分からない、なのでここはどうか大目に見てほしいところだ。
「ふん、まあいいさ。それだけの実力のある二人と一緒ならメリルでもなんとかなるだろうさ、うちのバカ弟子をよろしく頼むよ」
片手にパンを握り締め、皿に盛られたシチューを一心不乱に食べるメリルに目を向けイルマはメリルのダンジョンへの同行を許可してくれた。そしてそのメリルに向けられた視線はとても温かいもののように感じられた。




