その49
ワシはイライザにダンジョンでリッチと遭遇した話をした。
話を聞き終えるとイライザはソファーの背もたれに体を預け、腕を組み宙を見つめる。
「リッチと来たか……」
イライザはそう言葉を漏らす。
「マスター、たしかアシリアのダンジョンにはリッチは居ないはずだよね?」
「ああそうだ、アシリアでリッチに遭遇したなんて話は聞いた事がない」
執務用の机で話を聞いていた男がイライザの問いかけに答える。やはりこの男がここのギルドマスターの様だ。
「一応確認しておくけど、それは本当にリッチだったのかい?」
そう聞かれてもリッチを見たのはあれが初めてだったので断言はできない。なのでドロップ品である指輪をテーブルに置く。
「これで判断できるかの?」
イライザはテーブルに置いた指輪を手に取る。
「なるほど、こいつは珍しいもんだね」
繁々と指輪を眺め、イライザが呟く。
ギルド本部の人間になると見ただけで物の価値が分かるのだろうか? ワシにどう見てもただの古びた指輪にしか見えないのに。
「こいつはギルドで買い取らせてもらってもいいかい?」
指先でつまんだ指輪を見ながらイライザが指輪の買取りを持ち掛けてきた。
「適正な買取価格なら構わんよ」
どうせ使い道のわからないアイテムだ、買い取ってもらえるならそれはそれでありがたい。
「ところでリッチを倒したってことはそちらのお嬢ちゃんは神官なのかい? てっきり魔法使いかと思ったんだけど?」
指輪に向けていた視線をメリルに向けたイライザが問いかけてきた。
「お嬢ちゃんじゃないのです、大人の女の子のメリルなのです! そして私は魔法使いなのです!」
イライザのその言葉に今まで大人しかったメリルが嚙みついた。
というか最初に否定するところなのはお嬢ちゃんと呼ばれたことなのは相変わらずブレが無い。
「魔法使い? でもリッチはお嬢ちゃ……大人の女の子メリルと十兵衛の二人で倒したんだろ?」
メリルの呼び方がアシュリーと同じだという事はこのイライザとアシュリーはどこか似たところがあるのだろうか?
「十兵衛さんはすごいすごい剣士なのです! 私がお手伝いをして十兵衛さんがリッチを倒したのです!」
どうもこのままいくとワシの二つ名はすごいすごい剣士になりそうだが、できればそれはやめてほしい。
「神官無しでリッチを倒したのかい? どうやったらそんなことが出来るんだい、ますます十兵衛に興味が湧いてきたね」
イライザの視線がメリルからワシに切り替わるが、出来れば興味は持たないで欲しいところだ。
「ワシ等からの報告は以上じゃよ。他の二体の異常個体についてもアルカンのギルドで話した事以外は特段話す事は無いと思うんじゃが?」
イライザは胸の前で腕を組みソファーの背もたれに体を預け何か考え込む。
「剣姫は聞くまでもなくAランクとして確か十兵衛はDランクだよね? メリルのランクはいくつだい?」
考えがまとまったのかイライザは体を起こし前のめりになって話し出す。。
「私はBランクなのです!」
「なるほど、なるほど。それじゃあ今から十兵衛とメリルはAランクになってもらうとしようか」
え? ワシいきなりDランクからAランクに格上げなの?
「どういうことじゃ?」
いまいち話の展開が読めずイライザに問いかける。
「なあに、三人にはギルド本部からの指名依頼を受けてもらおうかと思ってね。指名依頼の条件として依頼を出す相手はAランク冒険者以上という規定があるのさ」
そう言うとイライザは口の端を少し上げる。
指名依頼? そんな制度があるのか。初めて聞く言葉だったのでアシュリーに視線を向けると、アシュリーは険しい顔でイライザを見ていた。うん、あんまり良くない流れの様だ。
「とりあえず内容を聞かせてもらえるかの?」
良くない流れではありそうだったが先ずは内容の確認が必要だろう。
「そうだね、内容はいたって簡単だよ。ずばり、異常個体の調査だ」
イライザはそう告げると口の端が先程よりもさらに上がっていた。




