その47
地上に戻ってきたワシ達は一先ずメリルをお師匠様の所へ送り届けることにした。
「お師匠様はひどいのです! 四十一階層に私を飛ばすなんて信じられないのです!」
地上に戻ってからメリルはずっとこんな感じでぷりぷりと怒っている。怒ってはいるのだがなんともかわいらしく見えるのは孫補正のせいだろうか?
「それではやはり師匠が倒したリッチは異常個体だったのですか?」
「恐らくそうじゃろうな、赤い目といるはずのない場所に現れたとすればそれしか無かろう」
アシュリーには倒したリッチの詳細を話しておいた。
「しかしこうも行く先々で異常個体と遭遇しとるとワシに原因があるのじゃないかと思ってしまうわい」
「しかし、今までも師匠が居たからこそ被害が広がらずに済んでいます。師匠に原因があるとはとても思えませんが……」
いつもワシを気にかけてくれるアシュリーには本当に救われる思いだ。恐らくダンジョンでワシが飛ばされた後も必死で探してくれていたのだろう。声が枯れるほどワシを呼び続け傷を負っても尚ワシの心配をして進み、こうして一緒に居てくれる。本当にかけがえのない存在だ。
「なんにせよメリルを送り届けたら冒険者ギルドには報告しておいた方が良いじゃろう」
「そうですね、こう何度も遭遇してしまうと他にも発生しているかもしれませんしね」
アシュリーと真面目な話をしながらぷりぷりかわいく怒るメリルの後に続き歩いていく。
「着いたのです、あそこなのです。到着なのです!」
メリルとメリルのお師匠様の住む家はアシリアの街の外れ、森に面した場所だった。
「ただいま帰ったのです!」
メリルはかわいい怒りをその手に込め、両手で勢いよく家の扉を開く。
「おやメリルかい、遅かったじゃないか」
「遅くなんてないのです! あんなところから帰って来たのです、最速なのです!」
扉を開けた先には、椅子に座り老眼鏡をかけた老婆が本を読んでいた。メリルの言うところの大きいお姉さんである。
「二十五階層程度から帰ってくるのにこれだけ時間がかかっているんだ、最速なわけないだろう」
「二十五階層じゃないのです! 四十一階層なのです! そして最速なのです!」
老婆は読んでいた本を閉じると視線をメリルへと向ける。
「四十一階層? そんなはずあるかい、私が飛ばしたのは二十五階層だよ。寝ぼけてるのかい?」
「いや、メリルの言っていることは本当じゃよ。ワシも同じ階層に飛ばされてそこでメリルと会ったんじゃからの」
メリルに助け舟を出すと大きいお姉さんはこちらに視線を移した。
「おや、お客さんかい?」
「十兵衛さんなのです、すごいすごい剣士の十兵衛さんなのです! そしてお弟子さんのアシュリーさんなのです、本物の大人の女性なのです!」
メリルなりに褒めてくれてはいるのだろうがそれでは伝わらないと思うよ?
「うちのバカ弟子が世話になったのかね? お茶ぐらい出すから入っとくれ」
大きいお姉さんに促され、ワシとアシュリーは家へと入りお茶をいただくことにした。
テーブルにつくといい香りのするお茶が出される。
「それで、どこから最速で帰って来たって?」
「だーかーらー、よ・ん・じゅう・いっ・かい・そう! なのです!」
「四十一階層ねぇ」
メリルの説明では埒が明かない雰囲気だったのでワシとアシュリーから状況を説明することにした。
「なるほどねぇ、ダンジョンの転移陣と紐づけた術だから間違いないはずだったんだけどね……」
ワシとアシュリーの説明でようやく状況を理解してくれたようだ。
「それと、これはリッチを倒した時のドロップ品じゃよ」
そう言ってテーブルにリッチの残した指輪を置く。
メリルのお師匠様はテーブルに置かれた指輪をつまみ、まじまじと見つめる。
「禍々しい魔力だね、あのダンジョンにリッチなんていないはずなんだけどね」
誰に言うとでもなくそう呟くと指輪をテーブルに戻す。
「まずは礼だね、うちの弟子を無事連れ帰ってきてくれてありがとうね。こんなのでも大事な弟子だからね」
そう言うとお師匠様は頭を下げた。
「私はこの子の師でイルマだ、何か困ったことが有ったら言っとくれ力になるよ」
「いや、リッチを倒せたのはメリルがおったからじゃ。そこは気にせんでくれて構わんよ」
「そうかい、こんな弟子でも役に立ったのなら何よりだ」
イルマは椅子に座ったまま腕を組んでまだ怒っているメリルを見やる。
「何はともあれ、無事戻ってこれたんじゃ今回はこれで良しとしていいんじゃないかの?」
「そうだね、次からはもうちょっと気を付けるとするよ」
どうやらメリルはまたダンジョンのどこかに飛ばされる予定のようだ、この世界の師匠というのはスパルタ方針の者しかいないのだろうか?
「あんた達これからどうするんだい? 時間があるなら食事ぐらいなら出すよ?」
弟子には厳しいが客にはそうでもないようだ。
「いや、ワシとアシュリーは今から冒険者ギルドに報告に行く事にしようと思っとる。なんせ異常個体の可能性が高いのでな」
「そうだね、その方がよさそうだね。メリル、あんたも当事者なんだから一緒に報告に行っといで」
突然お師匠様であるイルマに話を振られ、びっくりしたようにメリルがこちらに顔を向ける。
「私も行くんですか?」
「当たり前じゃないか、あんたも一緒にリッチを倒したんだろ? ついでにAランク冒険者にしてもらってきな」
イルマの言葉にメリルの顔が引き締まる。
「分かったのです! ついに私もAランク冒険者の仲間入りなのです!」
メリルは椅子から立ち上がり宙を見つめ胸の前で強く拳を握り締めている。いや、Aランク冒険者になれるって決まった訳じゃないからね?
「ではAランク冒険者になってくるのです!」
メリルはイルマにそう告げるとワシとアシュリーを促し三人揃って冒険者ギルドへと向かう事になった。




