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その44

 さっきまで優しいお爺さんの顔だった十兵衛さんがいきなり戦士の顔になったのです!

 出会ったばかりの私に色々話をしてくれて一緒にダンジョンを出るためにリッチのところまで来て、しかも勝ち目のない相手にそれこそ命を懸けて向かって行ったのです。

 リッチには魔法もましてや物理的な攻撃なんて効くはずもないのにそれでも十兵衛さんは向かって行ったのです。

 私も負けてはいられません、ここで引き下がったらお師匠様にも合わせる顔がありません! メリルも頑張るのです!

 先ずは身の安全の確保からです、今ここに来たばかりで出会った魔物も倒してきたのでしばらくは大丈夫なはずです! って思ったら後ろから魔物が来たのです!!

「ファイヤーランス! ファイヤーランス! ファイヤーランス!」

 どうですか私の連射魔法は! 蹂躙してやったのです。

 現れた魔物を無事倒して十兵衛さんの方に目を向けると十兵衛さんが飛び上がってリッチに斬りつけていたのです。

 物理攻撃が効かないリッチ相手でも恐れず立ち向かっていく十兵衛さんはすごいのです。全く諦める様子もなく戦士の顔のままのかっこいいお爺さんなのです。

「ゲギャァァァー!」

 十兵衛さんが剣でリッチを斬りつけるとリッチが急に叫んだのです!

「え? えぇぇー!」

 なんで剣の攻撃がリッチに効いているんですか? なんなんですかー!

 訳が分からないのです、理解不能なのです! 十兵衛さんは本当に何者なのですか!

 確かに十兵衛さんは強いのです。初めに会った時も私が追いかけられていたトロールを一瞬で、私が振り向いた時にはもう倒していたのです。

 ここに来るまでもアシリアキングナイトゴブリンをいとも簡単に一人で倒してしまったのです。

 アシリアキングナイトゴブリンほどにもなるとたとえ一体とはいえ私でも倒すのは無理なのです。連射魔法でもせいぜい足止め程度、それを剣の三振りだけで仕留めてしまったのです。

 その時点で気付くべきだったのです、十兵衛さんはとんでもなく凄い剣士だったのです!

 武闘大会でも優勝したと言っていましたし、そもそも今回の武闘大会はAランク冒険者のすごい剣士が出ているはずなのです。その剣士に勝ったという事はそのAランク冒険者の剣士よりすごいという事なのです! つまりすごい剣士より更にすごい剣士という事なのです!

 つまり、すごいすごい剣士なのです、間違いないのです!

 もしかしたらDランクというのも世を忍ぶ仮の姿かもしれないのです。あまりにもすごくてすごすぎてそれを隠すためにDランク冒険者を名乗っているに違いありません、絶対にそうなのです!

 あ、でも私十兵衛さんのすごいところを見てしまっているのです。世を忍んでいるはずの十兵衛さんの正体を知ってしまったのです!

 これはまずいのです、秘密を知ってしまった者は殺されてしまうのではないのですか?

 いえ、信じるのです私! 今まで一緒に居た十兵衛さんは本当に優しかったのです、とってもいいお爺ちゃんだったのです!

 そんな十兵衛さんが私を殺してしまう事なんてあり得ないのです!

 だって今も私から遠ざける様にリッチを誘導して戦っているじゃないですか。リッチの目の前に出て行けばすぐに戦いが始まるはずなのにわざわざ遠くに走って行ってリッチの攻撃がこちらに向かってこない場所で戦っているのです!

 十兵衛さんを信じるのです、私の身を案じてここに残るように言って一人でリッチに立ち向かっている十兵衛さんを信じるのです。

 もし十兵衛さんが危なくなった時は私が助けるのです。それが私の役目のはずなのです。

 私はあのお師匠様の弟子なのです、ただ戦闘に怯えて見ているだけの女の子じゃないのです! 私はAランク冒険者になる大人の女の子なのです!

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