その40
魔物に追われていた少女を正義の味方よろしく倒した。しかしよく考えたらこの魔物の特定部位をワシは知らない、なら聞くしかない。
「こいつの特定部位はどこかわかるかの?」
口をぽかんと開けたまま少女は固まっている、よっぽど怖かったのだろう仕方のない事だ。
「いや、分からんのなら構わんのじゃが」
刀に付いた血を振り払い鞘に納めようとすると少女が声を上げる。
「み、耳です! ゴブリンと同じ耳です!」
そうか、こいつも耳なのか。分からんことは聞いてみるもんだ。そして耳を切り取ろうとすると更に少女が声を上げる。
「どうやったんですか! どうやってトロールを倒したんですか! あなたはお爺さんではないのですか! なんなんですか、なんなんですか、なんなんですかー!」
元気のいい少女である。しかし一度に色々聞かれても困るんだが?
「刀でこう、ズバッと斬ってじゃな更にグワーッと斬ったんじゃ。それと爺さんで間違いはないの」
少女に答えてみたもののあまり良くわからなかったようで口をぽかんと開けたまま固まっている。
「じゃからこう刀を振ってじゃな、こうやってズバっと……」
自分で説明していてなんだがこれではよくわからんだろうな。
「やっぱりお爺さんなのですかー!」
突然少女が叫んだ、いや反応するところそこなの? 魔物倒したのはどうでもいい感じ?
「うちのお師匠様もお婆さんなのです! あ、お婆さんと言うと叱られてしまうのです、大きいお姉さんなのです! 歳を取るとみんなそんなに強くなれるのですか! 私も早く歳を取りたいのです!」
この年頃の子供のいう事はよくわからん、歳を取って強くなるなら苦労はしない。まあ一応魔物を倒した強い爺さんという認識はあるようだが。
「ワシは十兵衛じゃ、お前さんの名前は何というのかの?」
とりあえず話は一旦切って仕切り直した方がよさそうだ。
「あ、すみません私はメリルと言います。十兵衛さん先程はありがとうございました」
そう言うとメリルはぺこりと頭を下げた。それなりの礼儀はわきまえた普通の少女ではあるようだ。
「ところでメリルよ、ここは一体何階層なんじゃ?」
「私も分かりません」
とてもいい笑顔でそう答えるメリル。なんでいい笑顔?
「私もお師匠様に飛ばされたようで気付けばこの階層に居たのです。見た事のない階層なので二十階層よりは先だと思うのです」
二十階層より先という事はアシュリーとは結構離れてしまったようだ、さてどうしたものか。
「それよりもこの階層変なのです、リッチが居たのにトロールまで居るなんておかしいのです!」
リッチとトロール、一緒に居るとなんかまずいのか?
「すまんがワシは初めてダンジョンに来たんじゃ、何がおかしいか分かるように説明してくれんかの?」
分からないことは聞く、本当に大事なことだ。
「そうなのですか? えーとダンジョンに生息する魔物は階層ごとに種類が分かれているんですが、アンデッド系のリッチと妖精系のトロールが同じ階層に居るなんておかしいのです!」
妖精系って小さいかわいらしいやつなんじゃないの? さっきの魔物はめっちゃ大きかったんだけど?
「トロール一体なら何とかなるかもしれませんけどリッチは無理なのです! 魔法がほとんど効かないのです!」
どうやらメリルは魔法使いで物理攻撃はできないようだ。まあこんなに小さな子供だし前に出て戦えとは言えないしな。
「ならワシが前衛を担当しよう、メリルみたいな子供を前に出すわけにはいかんじゃろ」
ここは年寄りとはいえ大人のワシが子供の面倒を見なくては。
「わ、私は子供じゃないのです! もう立派な大人なのです、十六歳なのです!」
顔を真っ赤にしてメリルはそう叫んだ。確かに見た目よりは歳は上だったがしかし十六歳はワシから見たら十分な子供である。
「うんうん、子供は元気があっていいのう」
「子供じゃないのですー!!」
何階層か分からないアシリアのダンジョンにメリルの叫び声だけがこだましていた。




