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その33

 控室に戻りすっかり定位置となった長椅子に腰を掛け周りを見回す。さすがに毎回は大剣使いはやってこないようだ。

 しかしいくら武を競う大会とはいえ全員殺す勢いで向かって来るのはやめてほしいものだ、ワシ持ってるの木刀なのに。

 それでも後二回勝てば優勝してダンジョンの入場許可証が貰えるのだ、死んでも勝たねば。

 それにしてもウォルターの剣技には恐れ入る、なにせ魔法すら斬れるのだから。一体どれだけの研鑽を積めば魔法が斬れるというのだろう。

 初めの頃は勝手に身体が動くという感じだったが今は相手の動きや、どこになら撃ち込めるかがはっきりと認識できる。その上で自分の意思で動きどう刀を振るかも意識できている。

 つまりはワシとウォルターが混じり合って一体となってきているという事なのだろう。意識はワシで剣技はウォルターではなく融合されて十兵衛という人物が出来上がって来ているというところか。

 記憶という事に関してはアシュリーと初めて手合わせをした時以来さっぱりだがいずれまた別の記憶を思い出すこともあるのかもしれない。

 いずれにせよ、ワシは異世界を満喫しながらウォルターの望んでいたであろう剣の道を進んで行くだけだ。その事には変わりはない。

 それに、ワシ自身も剣を振るう事を楽しいと思えてきている。毎朝の素振りもそうだが何よりアシュリーとの毎朝の手合わせは楽しい。

 師匠師匠と親を追いかけてくる小さな子供のようなアシュリーは今では無くてはならない存在となりつつある。

 何よりアシュリーの剣の腕はワシの目から見ても日々上達が窺える、うかうかしていると追い越されてしまうかもしれない。その為にもワシも研鑽を積まねばと身が引き締まる思いだ。

 そんなことをぼんやりと考えていると武闘大会の係員から声が掛けられる、準決勝戦が始まる時間のようだ。気持ちを切り替え会場へと向かうとするか。


「皆様お待たせしました、武闘大会準決勝を開始します。先ずは出場選手の紹介です!」

 相変わらずの軽快なアナウンスと共に会場から熱気のこもった歓声が上がる。

「数々の強敵を打ち破りここまで勝ち上がってきたダークホース、魔法を斬り裂き全ての相手を一撃のもと打ち破ってきた木剣使い、十兵衛!」

 なんかまた大層な紹介になってきてはいるが変な二つ名はつけられていないようでちょっと安心した。

「続きましてはその強靭な肉体で鉄壁の防御力を誇る前回大会準優勝の猛者、ナロー・バキーナ!」

 いやちょっと待て、相手フルプレートアーマーに大楯持ってるんですけど? これって木刀でどうにかできるの?

「それでは準決勝開始!」

 どうしたものかと考えあぐんでいると試合開始のアナウンスが会場に響いた。

 大楯使いは試合開始と同時に前面に大楯を構えたまま突進してきた。それほど速い動きではないがあの重装備を纏ってこのスピードは大したものと言わざるを得ない。

 さすがにこの重量を捌くのは無理そうなのでぎりぎりまで引き付けて躱す。

 さてどうしようか、あの大楯を躱したとしてフルプレートアーマーに木刀を撃ち込んだところでダメージは入らないだろうし……

 それならばさっきは魔法を斬れたんだしここはひとつあれを試してみよう、きっとできるはずだ。

 続けざまに前に出てくる大楯使いを再度躱し大きく距離を取ると体の左側に木刀を深く構え一気に振り抜く。

 すると少し離れた大楯使いの構える大楯からギィーンと金属同士のぶつかるような鈍い音が響き、大楯使いがよろける様に後ろに下がるのが見えた。

 よしこれならいける、どうだワシの飛ぶ斬撃は!

 大楯使いは何が起こっているのか理解できていないようで大楯を構えたままきょろきょろと辺りを見回している。もう少し力を込めても大丈夫そうだな。

 再び木刀を構えさっきよりも力を込め振り抜く。ギャンと先程より派手な音が鳴り大楯が吹き飛ぶ。もう一回行ってみようか。

 更に力を込め斬撃を飛ばすと大楯を持たない大楯使いが体をくの字に曲げ後方へと吹き飛ぶ。あっ、ちょっとやり過ぎたかも。

 暫しの間木刀を構えていたが吹き飛ばされた大楯使いは倒れたまま動く様子が無い。構えを解き脱力すると会場にアナウンスが流れる。

「いったい何が起きたのか! ナロー・バキーナ起き上がれません! 勝者、十兵衛!」

 飛ぶ斬撃は力の加減がいまいち掴めなかった、もう少し練習が必要そうだ。

 しかし何はともあれ後一回勝てばダンジョンデビューが待っている、絶対に勝たねば。

 準決勝を終えて控室へと戻る通路を歩いていると前から例の大剣使いがやってきた。

「まったくわけのわかんねぇ爺さんだぜ。次の決勝が楽しみだな」

 そういえば大剣使いと当たるのは決勝だと言っていたような……いやあんたまだ準決勝やってないでしょ? まぁあれだけ自信満々なのだから勝つのだろうけどそれで負けて決勝こなかったらどうするつもりなんだろう、ワシにはとても真似できない言動だ。

「お手柔らかに頼むよ」

「爺さん相手に手心なんていらないだろが」

 そう言い捨てると大剣使いは会場へと向かって歩き出した。

 一応それなりの評価はしてもらえているようだが手心を加えてくれてもいいんだよ? 何せダンジョンの入場許可証どうしても欲しいし。

 控室の定位置で座っていると会場からアナウンスが漏れ聞こえてくる。どうやら大剣使いが勝ったようだ。

 ダンジョン探索へと逸る気持ちを抑え次の決勝に集中する。冒険者たるもの油断は禁物だ、先ずは目の前の事に集中しなければ。目を閉じ心を落ち着かせる。

 そしてしばらくすると係員からその日何度目かになる声をかけられる、ついに決勝戦の開始である。

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