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その34

 目の前で木剣を構えるこの爺さんはいったい何者なのだろうか……

 武闘大会の決勝で俺は十兵衛と名乗る爺さんと対峙しながらそう考えていた。

 剣を構えるその立ち姿からは想像もできない圧を感じる。おそらく、いや確実に俺よりも数段強い、不本意ではあるがそう認めざるを得ない。

 なにせ俺がこれまで冒険者として生きてこられたのは対峙する相手との力の差を明確に判断できたからだ。

 実力をつけAランクとなったここ最近ではそうそうなかった事だが、駆け出しの頃やまだまだ発展途上だったころにはこの力の差を感じ取るという感覚はとても役に立った。

 魔物の討伐に森や洞窟、ダンジョンに潜った時にもその感覚のおかげで生き残ることが出来た。

 ただ、対人戦においてこれだけの差を感じるのは初めての事だ。

 以前に剣士と対峙した時にも負けを確信したがここまでの差は感じなかった。あの時の敗北は俺をさらに強くした、今回の対戦も俺をさらに強くするためのものだと思えば俺にとってはいい糧となるだろう。

 

 爺さんの試合を見たのはたまたまだった。

 初めに見た試合の相手は雑魚だった。これだけの相手を前に隙を晒し呆気なく倒された、当然の結果だろう。

 二回戦目にはあろうことか木剣で魔法を斬り裂きやがった。あんな芸当は見た事はおろか聞いたことすらない、一体どうやったら魔法が斬れるというのだ。

 更にはさっきの試合のアレはなんだ? 遠く離れた位置から木剣を振るっただけであの重装備のナロー・バキーナが吹き飛んだ。まったくどうなってやがる。

 しかし今こうして対峙してみるとそれらの事が起きた事実を無理やりにでも受け入れさせられる。

「どうした、来ぬのか?」

 爺さんのその言葉で我に返る。何もできやしないかもしれないがやるだけはやってやる。

 額から汗が流れ顎を伝い地面へと落ちる。その瞬間全力で前へ踏み出し両手に持った大剣を振り下ろす。

 しかし全力を込めたその一撃に軽く触れる様に木剣を添わされると振り下ろした大剣は爺さんのすぐ横の地面を叩き付けていた。

 全力だぞ? そんな簡単にいなされていい一撃じゃないはずだ。

 すぐさま後ろに飛び退き大剣を構え直す。それと同時に何かが大剣にぶつかり鈍い金属音が響いた。

 さっきの飛ぶ斬撃か! 今のが初見だったら大剣を飛ばされていたところだ。

 更に爺さんの猛攻が続く。腕に、脇腹にそして足に木剣が撃ち込まれ、その動きをなぞるように長い白髪が揺れる。その場で膝をつきながらも木剣を受けた痛みを必死で堪え、大剣を強く握りしめた瞬間目の前に木剣が振り下ろされていた。

 しかし振り下ろされた木剣はすんでのところで止められていた。

「勝負を諦めぬその心意気や良し、しかし命は大切にせねばならんぞ」

 そう言うとコンッと軽く木剣が額に当てられた。

「ま、参り……ました……」

 自然とそう言葉を発していた。

 完敗だ。強くなったつもりだった、だが更なる高みをまざまざと見せつけられた。俺の剣はまだまだ道半ばだ。そう思わざるを得なかった。

 しかし不思議と悔しさはなかった。逆に清々しささえ覚えたほどだ。

 自分の力に自惚れ強さをはき違えていた時とは大違いだ。諦めず最後まで気持ちが折れず立ち向かえた。

 これだけの強者と剣を交える事などそうそうない、貴重な経験だった。俺はまだまだ強くなれる、そう思える一戦だった。

 差し出された手を握り立ち上がると爺さんの手を大きく上げ、大きな歓声が起こっている会場に掲げて見せた。

「爺さん、いや十兵衛。今回対戦出来た事に感謝する。そして次は俺が勝つ」

「嫌じゃよ、ワシは冒険がしたいだけじゃからの」

 さっきまでの戦いが嘘のように気の抜けた返事が返ってきた。全くこの爺さんはいったい何者なんだ、初めに抱いた疑問はますますわからなくなっていた。

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