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その31

 武闘大会一回戦第一試合は師匠の圧勝だった。この程度は結果を見る前から分かり切った事だった。

 しかしあの戦斧使いがBランクとはいえ最もAランクに近いというのが本当ならば冒険者ギルドの評価も鈍っているのではないかと疑わざるを得ない。

 そもそも師匠を前に武器を構えもせずにあれだけの隙を晒すなど、師匠が武器を木刀にしていなければ一刀のもとにその命を終えることになっていたはずだ。

 師匠は昔からその強さをむやみにひけらかす様な事はしなかった、それは今も変わらない。しかも今の師匠は普段からとても温和で昔の雰囲気とは違っている。だから余計に周りからその強さを認識しずらい。

 とはいえ、剣を構えた時の威圧感は昔よりはるかに強い。それが分からないとはあの戦斧使いはまるで話にならない。

 そんなことを考えていると次の試合が始まるところだった。

 燃えるような赤い髪に大剣を肩に担いでいる。先程の戦斧使いと同じ立ち姿に見えるがこちらは本物のようだ、見事に隙が無い。

 場内のアナウンスがAランクと告げている、あれならば納得である。やはり先程の戦斧使いの評価は勝手な推測か自称というところのようだ。

 師匠に挑むなら最低でもあれぐらいは無くては失礼だろう。師匠の試合以外でも見るべき試合はあるようで最前列を確保した甲斐があるというものだ。

 見立て通り大剣使いは強かった。大剣という武器から分かる通りパワー型ではあるが技術が無いわけではない。試合自体は呆気なく終わったがその力量の片鱗は見ることが出来た。私といい勝負というところだろうか、だが師匠の敵ではない。それが私の出した結論だった。

 師匠の試合もそうだったが、私自身に近い実力を持つ者の試合を見て無性に剣を振りたくなった。師匠の次の試合はまだ先だ、私ももっと研鑽を積まねば。そう思い試合の余韻でまだ歓声の残る会場を後にする。

 会場を離れ少しうろうろとはしてみたものの剣を振れるような場所はなく仕方なく開けた通路にあった長椅子に座りさっき見た試合を思い出す。

 あの大剣使いに私ならどう戦うだろう、師匠ならあの大剣すら容易くいなしてしまうのだろうな。そう頭の中で自分と師匠の動きを思い浮かべ比較する。

 そして毎日の師匠との手合わせを思い出す。

 私は幸せ者だ、あれだけの剣の腕のある師匠に師事出来ているのだ。師匠は『ワシを背負う事は無い、自分のために剣を振りなさい』と言ってくれる。

 だがそれでも弟子として師匠に恥をかかせるわけにはいかない。もっと学ばなければ、もっと強くあらねば。

 気が付くと周りにいた人が疎らになっていた。どうやら次の試合が始まったようだ。今なら剣を振っても大丈夫か、そう思った時には手に剣を握り素振りを始めていた。

 一心に剣を振り終え額の汗を拭うといつの間にか衆目を浴びていた。どうやら試合が終わり人が集まってきていたようだが私の周りだけが空白地帯と化していた。さすがに素振りをしていた私の周りには人が寄ってこなかったようだ。

 すっかり奇異の目に曝されてはいたが大して気にはならなかった、強くなることの方が重要なのだ。

 少しその場で休み息を整えると会場に戻ることにする、師匠の試合を見逃すわけにはいかない。

 会場に戻り先程と同じ最前列に陣取りいくつか試合を見、いよいよ師匠のその日二回目の試合が始まった。

「皆様お待たせいたしました、これより二回戦が始まります。それでは二回戦第一試合の選手紹介です。まずは突如現れた今大会のダークホース、木剣使いのDランク冒険者十兵衛!」

 会場のアナウンスには呆れさせられる、師匠はダークホースではなく唯一無二の優勝候補だ。

「続きましては、こちらも下馬評を覆しての二回戦進出! Bランク魔法使い、ロナ・チルマ!」

 続くアナウンスに違和感を覚えた。魔法使い? これは武闘大会ではないのか?

 よく見ると師匠と対面しているのは杖を持った紛れもない魔法使いだった。

 しかも杖を地面に突き立て何かしゃべっているように見えた。

 いけない、あれは詠唱だ! 試合の開始前から詠唱をしている、まずいと瞬間的に思った。

 詠唱を試合開始前に終え、開始の合図と同時に魔法を発動させる気だ!

 師匠は魔法というものをよく覚えていないようだった、あの距離からいきなり魔法を発動されるのは致命的だ。

「それでは二回戦第一試合開始!」

 思わず師匠に叫び掛けそうになった瞬間に試合の開始の合図が告げられた。


 師匠に向けられ発動された魔法はファイアランスだった。単体の対象に向けられる魔法で射出速度が速い上に殺傷能力も高い魔法だ。

 しかし師匠は回避するどころか構えた木刀を鋭く魔法に向けて振り下ろした。

 魔法を斬った!? 

 目の前で起こった事実に目を疑った。魔法を斬るなど出来る事なのか?

 だが師匠は確かに斬った、一切の躊躇なく避けるそぶりも見せず当然のように斬って見せたのだ。

 切り裂かれた魔法は縦に両断され左右に分かれたそれは師匠を避けるように師匠の両側を通り抜け霧散した。

 魔法とは魔力の操作による超常の現象、武器による物理的な物とは異なる現象だ。少なくとも私の知る限りではそのはずだった。

 しかし師匠はその剣で、木刀で魔法を斬った。目の前で見た事実ではあるがいまだに信じられない。もしこれを伝え聞いた者であれば一笑に付しているはずだ。

 そして思い知らされる。まだまだ遠い、師匠が今いる場所は私のはるか先だ。そう思わされる瞬間だった。

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