その30
しばしの静寂の後、大きな歓声が聞こえてくる。俺様はまだ倒れたままだ。
会場に視線を向けるとその最前列でアシュリーが目の前で腕を組み誇らしげに大きく頷いている、ワシの師匠かな?
「第一試合から怒涛の大番狂わせ! なんとDランクの木刀使い、十兵衛が前回大会準決勝出場のオーレ・サ・マーを撃破!!」
まだ歓声止まぬ会場を後に選手控室へと戻る、一時はどうなる事かと思ったが木刀でもなんとかなるものだ。
控室に戻り長椅子に腰を下ろし休んでいると声をかけてくる者がいた。
「爺さんやるじゃん」
顔を上げるとそこには燃えるような赤い髪の男が興味深そうにこちらを見つめていた。
「この街の冒険者はみんなあんなに血の気が多いのかの? 年寄りはもっと労わってもらわんとな、死ぬかと思ったわい」
「よく言うぜ、まだまだ余裕があっただろ」
背中に大剣を担ぐその男はワシに話しかけながら隣にドカッと座る。
「俺はアルフット、Aランク冒険者だ。爺さんほんとにDランクなのか?」
大きく開いた足に肘をつきこちらを覗き込むように聞いてくる。
「ほんとじゃよ、ほれ」
そう言うと首から下げた冒険者タグをつまんでアルフットの目の前に掲げて見せる。
「ふーん、嘘じゃないみたいだな」
顎に手を当てアルフットはまじまじと冒険者タグを見つめる。
「まあいいか、勝ち進めば爺さんとは決勝で当たる。楽しみにしてるぜ」
そう言うとすくっと立ち上がり背中越しに手を振り去って行った。あの男はアシュリーと同じAランクなのか、ワシの武器木刀だけど大丈夫?
そもそもワシが武闘大会に木刀を持って行くと言った時にアシュリーは何を納得していたのか。アシュリーの師匠補正にも困ったものである。
しかしそうは言ってもダンジョンの入場許可証のためには何としてもこの大会で優勝しなくてはならない、このままこの木刀でどうにかするしかない事に変わりはない。
そして控室にも漏れ聞こえてくる会場の歓声をよそに次の試合までの暇つぶしにと木刀で素振りをする。
素振りの甲斐あってかついこの間適当に拾ってきた棒切れから削りだした木刀も手に馴染んできた。今なら何でも切れそうだ、木刀だけど。
「十兵衛さんまもなく次の試合の時間です」
汗がにじむぐらいに体が温まったところで武闘大会の係員から声をかけられた。さて第二試合も頑張るか。
「皆様お待たせいたしました、これより二回戦が始まります。それでは二回戦第一試合の選手紹介です。まずは突如現れた今大会のダークホース、木剣使いのDランク冒険者十兵衛!」
さっきの試合の影響か、大きな歓声が聞こえてくる。更にはダークホースに格上げである、手に持ってるの木刀なのに。
「続きましては、こちらも下馬評を覆しての二回戦進出! Bランク魔法使い、ロナ・チルマ!」
いや、何で武闘大会に魔法使いとか出てくるの? 武闘の意味知ってる?
向かい合う女魔法使いは選手紹介の間から手にした杖を地面に突き立てワシの事を睨みつけながら何やらぶつぶつと言っている。ちょっと怖いんですけど、ワシ何かした?
「それでは二回戦第一試合開始!」
そして、司会進行役の試合開始の合図と同時に炎の槍がワシに向かって迫ってきていた。




