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その26

 いつものように執務室で仕事をしているとドアをノックする音が聞こえた。

 ノックの音に顔を上げると開けたままにしてある扉の前にフレアが立っていた。

「マスター、ドアを開けっぱなしにするなんて不用心ですよ」

 もう何も言うまい、そう自分に言い聞かせる。

「……どうしたフレア?」

「はい、今受付にアシュリーさんが来られていて、マスターに報告したい事が有るとの事で」

 Aランク冒険者が報告したい事? あまり良い事ではなさそうだな。

「すぐに行く」

 机の上に広げていた書類をまとめ、フレアと共に受付カウンターへと向かう。

「報告があると聞いたがどういった内容だ?」

 アシュリーは無言のまま自身の後ろに視線を向ける。

 カウンターにいたアシュリーから視線を移すとその後ろには満身創痍と言えるケインパーティーの三人とケイン達に付き添うように十兵衛が立っていた。

「何があった? いやその前にケイン達のケガの具合は大丈夫なのか?」

「問題ありません、先程上級ポーションを飲ませてあります。今は精神的に疲弊しているだけでしょう」

 適切な対応とこの落ち着いた受け答えは流石Aランク冒険者といったところか。

「すまんな、うちの冒険者が世話になった」

「私はポーションを飲ませただけです、少年たちを助けたのは師匠です。礼ならば師匠に伝えていただきたい」

 十兵衛か、ここ最近はあの爺さんの話題で事欠かないな。

「そうか、なら十兵衛には後で伝えるとしてまずは何があったか聞かせてもらえるか?」

 そう促し、アシュリーと共に執務室へと向かう。

 

「扉は閉めなくていいのですか?」

「……ああ、構わない」

 扉が開け放たれたままの執務室でソファーに座りアシュリーと向き合う。

「で、何があった?」

「フォレストウルフの生息地にシャドーウルフが現れました、しかも異常個体です」

 淀みなく報告を続けるアシュリーの言葉に耳を傾ける。

 生息しないはずのシャドーウルフ、しかも異常個体だと? どういうことだ?

 話を聞く限りアシュリーと十兵衛が居なければケイン達は生きていなかっただろう。

「それと今回の件とは別なのですが、オスローの騎士隊を襲ったブラックベアーも異常個体だったと聞いています。こちらも師匠が討伐しているので大事には至っていませんが念のために伝えておきます」 

 シャドーウルフにブラックベア。どちらもこの辺りにいる魔物ではない、しかも両方とも異常個体だと?

 アシュリーの報告を聞く限りシャドーウルフの異常個体で間違いないだろう。そして騎士隊を襲ったというブラックベアーも異常個体……

 流石にこの短期間で二件の魔物の異常個体の報告、そうそうある事じゃない。

 シャドーウルフに関してもアシュリーの見立てでは少なくともBランクはあるだろうという事だった。Aランク冒険者で騎士隊の剣術指南をも務める者の言う事だ、噓ではあるまい。

 しかしそれに加えて十兵衛だ。その二件の異常個体をあっさりとソロで倒したと来ている。やはり十兵衛はAランク冒険者のウォルターという事だろうか?

「分かった報告感謝する。冒険者ギルドとして調査をするよう報告を上げておく。ところでアシュリーは師匠と呼んでいるようだが十兵衛はやはりウォルターなのか?」

 頭に浮かんだ疑問をアシュリーに投げかける。

「本人が十兵衛と名乗っているのなら師匠は十兵衛です」

 ためらいなくアシュリーが答える。まあどちらにせよあの爺さんは剣の腕はやたらと立つが害はないだろう。

「そうか。ところでアシュリー、あんたはオスローで騎士隊の剣術指南をしているんじゃなかったのか? なんで十兵衛と一緒に居たんだ?」

 先日は十兵衛に礼を言いに来たと思ったらなぜか訓練場で手合わせをしているし、今日もどうやら十兵衛と依頼を受けて出かけていたようだ。

「剣術指南なら辞めました、今は冒険者として師匠とパーティーを組んでいます」

 騎士隊の剣術指南を辞めただと!? 師匠が師匠なら弟子も弟子という事か……

「そうか、まあ今後ともよろしく頼む……」

 それ以上の言葉が見つからずそう答えるのがやっとだった。

 報告を終え執務室から出て行くアシュリーを見送りソファーに深く腰を下ろし、ため息をつく。

 十兵衛の冒険者ランクをさっさと実力に見合ったものにしないとな、そう思い冒険者ランクの昇格書類に十兵衛の名前と自分のサインを書き込んだ。

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