16話 本当の家族
影が止まり何かされるんじゃないかともっと怖くなり、鞄の中に入っている教科書が折れそうなぐらいリュックを抱きしめた。
「おい」
けど、聞こえた声に驚きと安心感があった。
毎日聞く声、好きでも嫌いでもなく、よく知る人であり今の状況ではとても安心できる人の声であった。
ゆっくりその人であるようにと願いながら顔を上げる。
「兄さん…」
任務で居ないはずなのに居る兄さんに疑問を持つが、兎に角あの男性を追い払って欲しかった。
「笹原、お前俺の妹に何した?」
守るようにうちの目の前に立つ兄さんは男性と知り合いみたいだった。
「ふざけるなよ」
何時も明るく話しているが、今の声は低く棘があった。今まで聞いたこともない想像もできない声色だった。
「落ち着けって雨野。てか、妹さんだったんだ」
「何したか聞いてるんだ」
「少し話してただけだよ」
ギスギスどした空間が流れる。
数秒間お互いに睨み合い兄さんが痺れを切らしたのか、こっちを向き腕をつかみ公園から出る。
「兄さん…何でいるの…?」
「愛する家族を心配して会いに行くのはだめか?」
「な…」
そんなことを言われ少し驚く。振り返りながら言う兄さんの笑顔は家族へ向けるようにとても優しかった。その笑顔見て苦しくなった。自分は兄さんを家族としてしっかり考えたり見たことがなかった。何故なら転生をまだ受け入れていなかったから。
「それに鍵持って行ってなかっただろ?」
ヒラヒラとうちの鍵を鞄から出す兄さん。
「何で…」
「何でって机の上に置いてあったぞ」
「部屋に入ったの!?」
机の上と聞いた瞬間、部屋に入ったのかと不安になった。机の上にはこのアニメの登場人物を整理したノートが置いてある。それは関わってはいけない人を把握するために書いたノートだ。
「いや、リビングの机だよ」
「あ...」
そういえば昨日リビングに置いたなと思い出す。部屋に入ったのかと直ぐに聞いたことを申し訳なくなった。
「ご、ごめん」
「いや、別に謝んなよ。逆に感謝しろよ」
そう言ってうちの頭に手を置いた。優しく撫でてくる兄さんだが、中3を撫でるのはどうなのかと思った。それにうちは気にしないが前髪が崩れるのを気にする女の子もいる。もし年下の彼女が出来たら撫でたりして怒られてそうと思ってしまった。
「それより、兄さんあの人と知り合い?」
さっきの人の話をすると眉間にシワを作る兄さん。分かりやすく機嫌が悪くなっている。
「あいつは気に入らない」
ただそう一言だけ言った兄さんは、もう何も言わないというように家へと向かい始める。
「あの人もスクートムなんでしょ?」
「...誘われたか?」
「いや、誘われてない」
兄さんは真面目な顔をして言ってきた。けど、うちは嘘をついた。真剣に聞かれているのに隠している。
「なら、良かったわ」
安心したように笑う兄さん。そんなにうちが入るのは不安なのかと思った。確かに、女の子で体力も凄いあるって訳でもないし力も普通ぐらいだし、スクートムに入ったら兄さんよりももっと危険な目にあうかもしれない。兄として反対するのは当たり前と言ってもいい。
「毎回入らないって言ってるじゃん」
「本当は行きたいって思ってるかもしれないし、あいつと居たし」
あいつとはさっきの人だろう。スクートムの人と一緒にいるなら疑うのもしょうがないか。
「あの人と仲良いの?」
「気に入らないって言ってるだろ」
兄さんは不機嫌に言う。これ以上聞いたら怒られそうだがあの人のことをもっと知りたい。
だってあの人も転生者だから。スクートムの話ではなく転生者として話したい。情報が欲しかった。怖いけど知りたいという欲は収まらない。それに兄さんが居るならば平気だ。
「何で気に入らないの?」
「…由香里、何でそんなに聞くの?」
やっぱり兄さんはもっと機嫌悪そうにする。
「なんか、あの人どこかで会った気がする」
嘘をつき何とか情報を抜き出そうとするが。
「あいつにはもう関わるな」
無理だった。これ以上聞いてももう教えてくれないだろう。
「わかった」
「…スクートムについて知りたいことがあるなら俺に聞け。親には内緒にしとくからよ」
うちが少し残念そうにしていることに気付いたのか優しく言ってくれた。でも、うちが知りたいのはスクートムのことでは無い。それに、スクートムのことならうちの方が知っている。
「スクートムについては友達が知りたがってるから聞いてもいい?」
「友達が…?」
うちじゃなく友達なのかと少し驚いてる兄さん。兄さんは妹のために言ったが頼りにされてないのかなと少し残念に思っていた。それにうちは気付かないで話し続けた。
「うん。学校の友達がスクートムに入りたいみたいだから」
「由香里が聞きたいんじゃなくて?」
「私は別に興味無いよ」
うちがどんなに興味が無いと言ってもスクートムのあの人と一緒にいる限り、信じて貰えなさそうだ。なぜなら兄さんの表情は今も不安そうだからだ。
「…もし、少しでも入りたいって思ったら1番最初に言いに来てな?」
さっきまでの不安な表情はなくなり優しい笑顔で言う兄さん。兄さんは素っ気ない妹にも優しい。それがうちを苦しめていることを知らないだろう。
「そんなことないけど、わかった」
兄さんの顔からすぐ顔を逸らして言う。兄さんはそれに少し満足そうに頷いてから家の鍵を出し扉を開けた。
うちは兄さんを…今の家族を本当の家族として見ることができない。優しい笑顔を向けられるとそれに答えることができなくて嫌だ。でも、前世の家族が本当の家族のままがいい。
「由香里?」
立ち止まって考え事をしているうちを心配そうに見つめる兄さん。大丈夫かとこっちに来ようとしたが直ぐに大丈夫と伝え中に入る。
やっぱり優しくされるのは苦しいや。




