第2次ロイヤルスイートのキミ攻略作戦 2
「一緒に回ろう。話したい事があるんだ」
「はい!」
目を逸らしていた来夢は俺の言葉に顔を上げ、正面から俺を見詰めた。上気した頬、期待に満ちた目…
「あの、手を繋いでいいですか?」
「いいよ。ほら、行こう」
手を差し出すと彼女は俺の指に自分の指を絡めて軽く握って来た。やけに積極的だな。それとも小学校低学年のコが遠足で男子と手を繋ぐ感覚なのか?
「こ…こんなの始めて…」
「小学校じゃ普通にしてたろ?」
「子供の時はそうだけど…す…な…の人とは…は…はじめて…だから…」
途中からゴニョゴニョ言って聞こえないが。
「ここ、よく来るの?」
「いえ!1年に1回です!」
特に用事もないのにロイヤルスイートのある特別層最上階を毎年貸し切りにするってどんだけ金持ちだ?
「でも良かった…始めて素敵な人と出会えた…」
それは俺の話なのか?
1瞬だけそう思ったけど高校入学以来3か月の経験が俺にそんなホンワカした甘い予測を許さなかった。
中学ではさくらと出は別のクラス、飯田さんと優介は別の学校だったワケだが…
高校で俺達6人が同じ組になり、さくらが入学初日に漫研を立ち上げ、真由美を除く5人をメンバーとした結果。俺のもとには男女問わず連日ウザい依頼が飛び込むようになった。
男子からの依頼は簡単、『俺も漫研に入れてくれよ』。コレ。目当ては飯田さん。
なにしろ昼休みは毎日学園のアイドルと机を合わせて弁当だ。メインは料理の本も出してる料理研究家、さくらの母親が作った三段重だが飯田さんも意外と家庭的で小さいが手作りの弁当を持って来る。そして『はい、あーん』してくれるのだ!彼女の手作り弁当を!それも彼女の箸で!
そう、言うまでもなくこれは間接キッスである。幼馴染至上主義者である俺にとってソレはどーでもいいのだがクラスの男子にとっては由々しき事態。
最近になって真由美が入部したが、それ以前の昼休みの流れは大体こうだ。
①さくらが三段重の風呂敷を持ち上げ『漫研集合〜』って甲高い声を上げる。
②メンバーが机を合わせて座る。
③三段重を広げ、飯田さんが弁当を開ける。
④さくらが今日のオススメを俺の口に押し込む。オススメとは言うが試作品と言うか実験の産物と言うか要は失敗作だ。産廃を先に処理するのが俺の仕事ってワケ。
⑤生命の危険を感じた俺が『みんなで食べようぜ』って言う。
⑥それぞれが三段重から好きな物を取って食べる。少食な飯田さんは満腹になり彼女の手作り弁当は余る。
⑦SF議論を戦わせていたさくらと優介がヒートアップしてSFオタクイズ千本ノックを始める。
⑧飯田さんが『お弁当残っちゃった、誰か食べてくれないかなー』って言う。
ちなみに出は飯田さんの弁当を食べない。実はさくらの三段重には最高の味付けがされ見た目も照りも最高の料理に混じって不格好で不揃いで所々焦げて汚らしい色のゴミ…じゃなくて異物…でなくて料理のような何かが混入している。それがさくらの作ったヤツだ。
最初に俺の口に押し込んだ分もソレだが全部食ったら死んでしまう。途中から俺が自分で選んで食べるので余ったその物体を出は目ざとく選び好んで食するのだ。血の染みた絆創膏がくっついた唐揚げとか。
⑨最後に飯田さんが余った自分の弁当を俺に食べさせる。
何度も言うようだが幼馴染至上主義者である俺にとっては特に思い入れもないし第1もう満腹だ。付き合いで仕方なく食べるワケだが、どうもその姿は他の男子から見ると違って見えるらしい。
学園のアイドルが『はい、あーん』つって甲斐甲斐しく手作り弁当を差し出す。ソレを渋面で嫌そうに食べ、気のない風で邪険に扱う。それが許せないと言うんだな。
『しょーがねーじゃん腹一杯なんだから』っつーと『じゃあ俺も入れろ、代わらせろ、俺が食べる』って言う。絶対さくらの許可が降りないから無駄な話なんだが。
んで女子…同級生や先輩、中学の後輩の女子が見せるのが今回の来夢ってコと同じ態度だ。
1ないし3名程度で恥ずかしそうに俺に近付き、頬を染めもじもじする。『きゃー♡』『早く言いなさいよ♡』『でもー♡』とか言う。
んで前から一緒の部活に入りたかったとか言ったり、俺に何か差し出したりする。そして言うのだ。
『この手紙、来生センパイに渡して下さい!』
『これ出くんに食べさせて!』
『私達、サッカー部のマネージャーなんだけど来生くんウチに欲しいの、試合の時だけでもいいから』
『野球部に!』
『バスケ部に!』
黄金パターンだな。彼女達は憧れの出に近付きたい、しかし出の前にはさくらが立ちはだかって眼鏡を光らせている。いわば越えられない13段の跳び箱。その跳び箱を飛び越えるための踏み板、ロイター板がこの俺なのだ。頬を染めるのもモジモジするのも出を思っての事、俺は踏み台に過ぎない。
この来夢ってコもエレベーターで男子部屋3人組を見て出に一目惚れしたに違いない。でも恥ずかしくて出には声をかけづらい。だから俺に近付いた。
そう気付くと却って気が楽になった。別に気負う事はない。俺と真由美が修羅場に巻き込まれる心配はない。適当にあしらって出に押し付けるだけだ。
「行こうか、お姫様」
「はい♡」
普通なら照れ臭くてこんな事は言えない。本気で口説いて実は出目当てだったとわかればダメージ1,000。恥ずかしくて表を歩けなくなる。
でも最初からわかってて、どうせ出に丸投げすると開き直ればそうでもない。気楽に行こう。




